研究領域 | 宇宙観測検出器と量子ビームの出会い。新たな応用への架け橋。 |
研究課題/領域番号 |
18H05464
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
三宅 康博 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 研究員 (80209882)
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研究分担者 |
永谷 幸則 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別准教授 (00393421)
Patrick Strasser 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 研究機関講師 (20342834)
原 正憲 富山大学, 学術研究部理学系, 准教授 (00334714)
波多野 雄治 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (80218487)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
144,950千円 (直接経費: 111,500千円、間接経費: 33,450千円)
2022年度: 35,620千円 (直接経費: 27,400千円、間接経費: 8,220千円)
2021年度: 31,460千円 (直接経費: 24,200千円、間接経費: 7,260千円)
2020年度: 17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2019年度: 20,540千円 (直接経費: 15,800千円、間接経費: 4,740千円)
2018年度: 39,650千円 (直接経費: 30,500千円、間接経費: 9,150千円)
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キーワード | 負ミュオン / 冷却 / 非破壊検査 / ミュオン触媒核融合 / ラムザウアータウンゼント効果 |
研究実績の概要 |
加速器で得られる負ミュオンビームは、大強度だが、収束に難がある。そこで、加速器で得られる大強度の負ミュオンを冷却し、ナノスケール径まで収束可能な超低速負ミュオンビームを開発する。より微小な点に絞り込む事が可能な「高い空間コヒーレンス(=小さいエミッタンス)」の負ミュオンビームが必要である。第1に、ミュオン触媒核融合反応により高エネルギーの負ミュオンを数keV程度まで冷却、再加速し、色収差補正光学系を用いてビームを収束する。次に、エネルギー分散の補正装置の開発により、エネルギーと運動量が揃った「高い時間コヒーレンス」を備える負ミュオンビームを開発するというスキームである。応用として、高輝度かつ時間および空間コヒーレントに優れた負ミュオンビームを用いて走査負ミュオン顕微鏡を開発し、3次元元素分析実験を行う事を目的としていた。具体的には、数10ナノメートル径まで収束可能な超低速負ミュオンビームを開発し、収束負ミュオンビームの走査(偏向器によるXY走査、およびエネルギー走査による打ち込み深さの走査)により、物質表面の元素分布・同位体分布や化学結合分布を、非破壊、極めて高い感度、3次元、かつ数10ナノメートルの分解能(深さ方向は数ナノメートル分解能)で可視化する革命的な分析顕微鏡となる走査負ミュオン顕微鏡を創出することを最終目的としていた。 残念ながら、トリチウム使用が出来なくなったことにより3年以上の遅れが生じたが、代わりに考案した摩擦減速・冷却が想定以上の超低速負ミュオン生成に関わる成果を挙げつつある。また重水素のみを用いたミュオン触媒核融合実験、再生ミュオンの取り出し実験も実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
基礎実験として極低温の固体重水素標的に負ミュオンを照射するミュオン触媒核融合実験を実施し、中性子等の観測によりミュオン触媒核融合反応を確認、再放出ミュオンの検出にも成功した。高輝度の負ミュオンビーム生成には重水素に加えトリチウムを用いた実験装置の開発が必要であり、トリチウム取り扱いの経験と実績が豊富な富山大学水素同位体科学研究センターの波多野雄治氏と原正憲氏が分担者として新たに加わり、KEKと富山大間で研究協力協定を締結し、トリチウムを使用したミュオン触媒核融合反応をベースとしたビーム冷却装置開発を進めた。同時にJ-PARC施設でのトリチウム使用の許可手続きを進めたが、原子力規制庁へのRI使用許可の申請はJ-PARC施設全体で1年度内には1回までの上限と、申請から許可まで年単位の時間を要する制約から、J-PARCの施設決定としてトリチウムの使用が今後5年間はできないと確定してしまった。止むを得ず、効率や輝度は落ちるもののトリチウムを必要としない摩擦冷却を主体とする方向へと舵を切った。再構築した手法は、負ミュオンの減速・捕獲・輸送と冷却の4点より構成され、高輝度化した負ミュオンビームを得て走査負ミュオン顕微鏡を原理実証することは当初目的と同等である。減速・捕獲・輸送と検出の実験を複数回実施し、実際に低速化された負ミュオンの検出に成功した。具体的には、0.5mm厚さのベリリウム板やシリコン板を減速材として用い、分布ワイヤ電極や反射電位ワイヤ電極を用いた捕獲、同軸管を用いた負ミュオンの1.6mの長距離輸送(特許申請中)、銀板を用いた低速ミュオンからのミュオン特性X線の検出に成功した。印可する電圧は数kV程度にも関わらず毎秒60個程度のミュオンの検出に成功し、減速・捕獲・輸送に関して大きな成果を得た。僅か1kVの印可電圧による低速負ミュオンの輸送と検出にも成功している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終実験として数10nm厚さのSiN薄膜を用いたビーム冷却実験を予定している。この実験では、直径5cm、厚さ20~30nmの窒化ケイ素の自立薄膜を、Si半導体製造プロセスを用いて20枚程度作成し、分布ワイヤ電極により勾配電圧を印加可能な真空チャンバを併せて制作しビーム冷却装置を構築する。この装置を、J-PARC/MLFのDラインに設置した前述の減速・捕獲・輸送装置に接続し、ビーム冷却により高輝度化され微小収束可能な超低速負ミュオンビームを生成する。走査負ミュオン顕微鏡の基礎的な実験を行い、その分解能の測定などから、収束径、エミッタンスや輝度を測定する。時間的に可能であれば実用材料の2次元の元素マッピングの顕微鏡像も取得する予定である。主要な課題は、ビーム冷却に用いる厚さ20~30nmの窒化ケイ素の自立膜膜の作成であり、大面積(10cm×12cm)であるにも関わらず50nm厚の自立SiN薄膜の開発に成功している京都のKRI社との共同開発でこれの解決を進めている。 さらなる発展として、より微小な径への収束ビーム生成が期待される数10nm厚さの炭素の曲線薄膜によるビーム冷却装置の開発を進める計画である。導電性の冷却薄膜を曲面化することにより、高い精度での収束電位分布中でのビーム冷却の実現で、より高輝度なビームの生成が期待される。主要な課題は、曲面薄膜の製法であり、岩塩上への炭素蒸着膜の曲面金属メッシュへの水面掬い上げ法、ガスエッチング可能な鋳型への炭素蒸着とエッチングを用いる手法などを検討している。
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