研究領域 | 細胞システムの自律周期とその変調が駆動する植物の発生 |
研究課題/領域番号 |
19H05671
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
生物系
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
中島 敬二 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (80273853)
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研究分担者 |
稲見 昌彦 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (00345117)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
118,300千円 (直接経費: 91,000千円、間接経費: 27,300千円)
2023年度: 23,400千円 (直接経費: 18,000千円、間接経費: 5,400千円)
2022年度: 23,400千円 (直接経費: 18,000千円、間接経費: 5,400千円)
2021年度: 23,400千円 (直接経費: 18,000千円、間接経費: 5,400千円)
2020年度: 23,400千円 (直接経費: 18,000千円、間接経費: 5,400千円)
2019年度: 24,700千円 (直接経費: 19,000千円、間接経費: 5,700千円)
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キーワード | 根 / 器官成長 / 根冠 / 周期性 / 細胞動態 |
研究開始時の研究の概要 |
植物の根は、内的な発生プログラムに基づいた定常的な成長に加え、外的な環境因子に応答した成長変化を示す。これらの成長動態は、根端部における細胞の分裂と伸長や、根端を覆う根冠組織の特異的な機能に依存して決定されるが、それらの作動機構は不明である。本研究では、我々が開発した根の先端を長時間にわたって自動的に追尾する顕微鏡システムを用い、根端で進行する細胞新生や、根冠の分化、さらにはオルガネラの運動や消長といったミクロな周期動態を高精細に捉える。得られたデータをもとに内的な周期とその変調が、根の可塑的な成長を制御する仕組みを明らかにする。
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研究実績の概要 |
(1) 根端メリステムの細胞動態イメージデータを定量化するツールの開発:水平光軸型動体トラッキング顕微鏡と、根の皮層細胞層の核をRFPで蛍光標識した野生型背景の植物ラインを用い、根端メリステムを構成する細胞群の分裂と伸長動態を4次元データとして収集することに成功した。公募班員の陳博士らと共同でデータを定量化するシステムの開発を進め、分裂核と非分裂核のセグメンテーションと、細胞列への振り分けを自動化するアルゴリズムをほぼ完成させた。 (2) オートファジーが根冠細胞の周期的なターンオーバーに果たす役割:水平光軸型動体トラッキング共焦点顕微鏡を用い、シロイヌナズナの根冠細胞の構造変化を精密に経時観察した。観察データから、重力感受細胞が分泌細胞に転換し、その後、剥離に至る一連の過程において、細胞内の構造が劇的に再構成されることを明らかにした。この過程において、オートファジーが根冠の最外層細胞で周期的に活性化し、オルガネラや細胞質の分解を促進することで、細胞の精密な剥離を担っていることを明らかにした。これまで謎が多かった植物の発生におけるオートファジーの機能を明らかにした。 (3) 根の組織パターン形成において細胞を対称に配置する機構:シロイヌナズナの根の導管細胞と篩管細胞の対称的な配置が形成される過程における細胞分裂と細胞配置の変化などを詳細に調べた結果、篩管の周囲にある細胞の並層分裂により導管と篩管の配置の対称性が上昇することを見出した。フェムト秒レーザーを用いた細胞除去実験や、公募班の藤本博士らの計算機シミュレーションから、篩管の周りでおこる細胞増殖が一定方向の圧縮力を発生させ、離れた場所に位置する導管と篩管の配置の対称性を高めることを実証した。さらに、HAN転写因子がサイトカイニンの作用を調節することで、対称性構築の鍵となる細胞増殖の位置を決めることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
動体トラッキング顕微鏡を用いて根端の細胞分裂動態をライブイメージングし、4次元画像データを収集する技術を確立した。公募班の陳博士らとの共同研究により、深層学習と遺伝的アルゴリズムを用いて4次元画像データを定量化する技術をほぼ確立し、論文を執筆中である。時空間的に制御されたオートファジーの活性化が根冠細胞の周期的な運命転換において重要な役割を果たすことを明らかにし、ジャーナル論文として発表することが出来た。公募班の藤本博士らとの共同研究により、根の維管束組織において細胞パターンの対称性が確立する遺伝的・細胞動力学的原理を明らかにし、ジャーナル論文として発表することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 内的・外的因子が根端メリステムの細胞動態に与える影響の定量解析:水平光軸型動体トラッキング顕微鏡と、根の皮層細胞層の核をRFPで蛍光標識した野生型背景の植物ラインを用い、根端メリステムを構成する細胞群の分裂と伸長動態をタイムラプスデータとして収集する。公募班員の陳博士らと共同で開発した動画定量化ツールを用い、培地の栄養条件や重力刺激に応答したメリステム細胞群の分裂と細胞伸長の動態をモデル化する。細胞分裂を音階に変換したデータ可聴化ツールを完成させる。 (2) 根冠細胞のターンオーバーを制御する遺伝因子の探索:細胞分裂や細胞剥離に異常を示す植物ラインに対し、水平光軸型動体トラッキング顕微鏡を用いて根冠細胞のターンオーバー速度を比較解析する。これにより細胞新生と細胞剥離をバランスさせる機構についての知見を得る。また根冠細胞の発生ドメインを規定する転写因子やマイクロRNAの発現動態をイメージングする系を樹立し、新たに同定した変異体の表現型解析と組み合わせることで、根冠の周期的な分化動態を規定する制御系に関する知見を得る。 (3) 根冠細胞の分化と成熟過程を網羅した一細胞トランスクリプトーム解析:根冠の分化段階に沿ったトランスクリプトーム変化を精密に解析するため、時系列一細胞トランスクリプトーム解析系の樹立を試行する。個体を識別するためのバーコードを発現する植物ラインを複数確立するとともに、シングルセル解析を行うための技術を確立する。 (4) 根の分岐周期を一定化する機構の解析:根の空間的な分岐周期の基盤となるオーキシンの応答の時間振動を一定に保つ仕組みを明らかにするため、振動位置で起こる細胞レベルの分化動態を詳細に解析する。
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