研究領域 | 変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot |
研究課題/領域番号 |
19H05702
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 尚 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (10251406)
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研究分担者 |
谷本 陽一 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (00291568)
河谷 芳雄 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (00392960)
高薮 縁 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (10197212)
山崎 哲 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(アプリケーションラボ), 研究員 (20633887)
西井 和晃 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (50623401)
Martineau Patrick 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(アプリケーションラボ), 研究員 (90893884)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
127,920千円 (直接経費: 98,400千円、間接経費: 29,520千円)
2023年度: 25,350千円 (直接経費: 19,500千円、間接経費: 5,850千円)
2022年度: 25,610千円 (直接経費: 19,700千円、間接経費: 5,910千円)
2021年度: 25,480千円 (直接経費: 19,600千円、間接経費: 5,880千円)
2020年度: 24,570千円 (直接経費: 18,900千円、間接経費: 5,670千円)
2019年度: 26,910千円 (直接経費: 20,700千円、間接経費: 6,210千円)
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キーワード | 水温前線 / 大気循環変動 / 予測可能性 / 雲・降水系 / 水蒸気輸送 / 気候変動 / 移動性高・低気圧 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では水温前線を表現できる衛星・大気循環データの解析や高解像度の気候系モデリングを通じ,黒潮やメキシコ湾流,南大洋アガラス還流等の強い暖流や付随する水温前線からの水蒸気・熱放出が大気循環変動に与え得る影響について,梅雨降水帯や低気圧の雲・降水系との相互作用も含めて実態把握とメカニズム解明を目指すとともに,熱帯変動からの遠隔影響や対流圏・成層圏循環の結合変動に与え得る影響についても,循環異常の予測可能性の観点も含め探求する.さらに,将来の温暖化した気候状態で上記過程が被り得る変調についても評価する.
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研究実績の概要 |
1)大気再解析データに基づき,令和2年7月豪雨をもたらした亜熱帯ジェット気流の蛇行やそれに伴う下層の水蒸気輸送について明らかにした.2)また,北大西洋北部のブロッキング高気圧の形成に上流側の低気圧に伴う降水活動により上昇させられた低渦位の気塊の流入が重要であり,その水蒸気の大部分がメキシコ湾流から,一部は北太平洋から蒸発したことが見出された.3) 大気海洋結合モデル実験から,夏季南インド洋上の亜熱帯高気圧の形成に最も本質的なのは,下降気流の下で広く形成される下層雲による日射の反射が強い海面冷却をもたらし,深い積雲対流とそれに伴う凝結加熱が抑制されることであることを突き止めた.また,この効果が海面水温と太陽高度の季節的な低下に伴って弱まる冬季には,アジアモンスーンからの遠隔影響に加え,アガラス還流に伴う強い海洋前線上で強まる移動性高低気圧からの強制が亜熱帯高気圧を維持・強化させることも見出した. 4)大気大循環モデルの理想化実験から,南半球中緯度域で移動性擾乱活動が半球規模で強弱を繰り返す「傾圧環状モード」の卓越性に,中緯度海洋前線による地表傾圧性の効果的な回復作用が不可欠であることを見出した.5)大気再解析データに基づき北西太平洋上での爆弾低気圧の活動の長期変化を解析し,1980年代終盤を境に1月に有意に増加したことを発見した.その要因として,東アジアモンスーンの弱化に伴い中国南部から東シナ海にかけて対流圏下層の湿潤な前線帯が強化され,そこから日本南岸を経て北西太平洋へ向かう低気圧への暖湿な気流が強化されたことを見出した.6)擾乱に伴う極向き熱輸送や西風運動量輸送,エネルギー変換などオイラー的な診断量への高・低気圧性渦からの極性別の寄与を評価出来る画期的な手法を開発した.7)夏季豪州モンスーンの自励的な変動が極東域にもたらす遠隔影響の力学を解明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように,甚大な災害をもたらした令和2年7月豪雨をもたらした要因や,異常気象をもたらすブロッキング高気圧形成にメキシコ湾流が水蒸気供給と降水活動を通じて影響すること見出した.さらに,南半球中緯度域に卓越する移動性高低気圧活動の変調に果たす中緯度海洋前線の役割を初めて同定したのに加え,大気海洋結合モデルで下層雲の放射影響を人為的にON・OFFにする画期的な実験設定から亜熱帯高気圧・下層雲・海洋表層間の相互作用の本質とその季節性を明らかにし,さらには力学診断において移動性高気圧・低気圧の極性別の寄与を分離できる手法を開発するなど重要な成果を幾つも挙げることができた.また,真冬の北西太平洋にて爆弾低気圧活動が有意に増加した長期変化傾向とその要因を見出したのは,気候力学の難問の1つとされる「真冬の北西太平洋における移動性擾乱活動の抑制」のメカニズム解明に繋がる可能性がある.なお,南半球中緯度域に卓越する移動性高低気圧活動の変調や季豪州モンスーンの自励的な変動が極東域にもたらす遠隔影響の力学を解明はそれぞれの地域における予測可能性の評価にも資する成果である.その一方,R3年度は引き続きコロナ禍によって国内外の学会の多くが延期や中止になったことで,研究成果の発表や研究者間の情報交換が思うようにできなかった.
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今後の研究の推進方策 |
1)日本を初め,中緯度・亜熱帯域に極端降水をもたらす大気状態や擾乱の傾向を衛星観測データから明らかにするとともに,夏季日本域の大気・海洋の急速な温暖化が極端降水に及ぼす影響を領域大気モデル実験から明らかにする. 2)海洋前線帯の影響などを反映した大気の傾圧性が北半球のブロッキング高気圧の形成に,その程度重要かを大気再解析データに基づき定量的に評価する.また,冬季極東・北西太平洋域のブロッキング高気圧の形成が日本海側の豪雪にもたらす影響についても評価する. 3)南半球中緯度の「傾圧環状モード」の本質的なメカニズムを探究すべく,移動性高低気圧に伴う風や気温などの擾乱の変調の実態を再解析データから明らかにし,その変調に中緯度海洋前線が如何なる影響を及ぼすかを大気大循環モデル実験から明らかにする.さらに,南半球中緯度の海洋前線の影響で活発な移動性高低気圧から射出される大気重力波が中層大気循環に及ぼす影響を高解像度大気モデル実験から明らかにする. 4)「真冬の北西太平洋における移動性擾乱活動の抑制」に移動性高低気圧が夫々どう関わるかを新たに開発した評価法を適用して調査する. 5)人為的要因の温暖化傾向と自然変動とを分離する手法を開発し,それを温暖化が進む太平洋やインド洋に適用して,自然変動に伴う海盆間相互作用を調査する.
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