研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
19H05717
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
原田 慈久 東京大学, 物性研究所, 教授 (70333317)
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研究分担者 |
瀬戸 秀紀 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (60216546)
池本 夕佳 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 分光推進室, 主幹研究員 (70344398)
菱田 真史 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 准教授 (70519058)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
202,280千円 (直接経費: 155,600千円、間接経費: 46,680千円)
2023年度: 36,400千円 (直接経費: 28,000千円、間接経費: 8,400千円)
2022年度: 39,130千円 (直接経費: 30,100千円、間接経費: 9,030千円)
2021年度: 41,860千円 (直接経費: 32,200千円、間接経費: 9,660千円)
2020年度: 41,470千円 (直接経費: 31,900千円、間接経費: 9,570千円)
2019年度: 43,420千円 (直接経費: 33,400千円、間接経費: 10,020千円)
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キーワード | 放射光軟X線分光 / 放射光赤外分光 / 中性子散乱 / テラヘルツ分光 / 水の構造・運動 / 水素結合構造 / 中性子準弾性散乱 / 中性子反射率 / 第二水和圏 / 水の運動状態 / ずり流動場 / 水圏機能材料の機能発現機構解明 / 先端計測手法の最適化 / 水圏機能材料の構造解析 / 水圏機能材料の運動解析 / 水と材料の相互作用解析 / 中性子小角散乱 / その場計測 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、「水環境」や「生体」と調和しながら機能する様々な材料群に対し、その機能を精密に制御、あるいは最大化する条件を見出すために、先端分析手法を駆使して、材料と水の相互作用を明らかにする。 具体的には、放射光X線を用いた電子状態解析、中性子を用いた運動状態解析、放射光赤外を用いた水・官能基の相互作用評価、テラヘルツ分光と熱分析によるマクロな運動状態解析を軸として、X線・中性子小角散乱、原子間力顕微鏡等の手法を組み合わせ、機能に関わる材料・水の構造、運動状態の抽出を行い、水圏機能材料の最適設計の指針となる学理を構築・確立する。
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研究実績の概要 |
本年度は以下の研究を推進した。 ①A01公募河野のプロパンジオナト基をもつ液晶性化合物のらせんカラムナー液晶層について偏光赤外分光を行い、官能基の配向特性を明らかにした。またA01公募藤野のニッケル錯体をX線小角散乱および軟X線吸収分光で分析し、水中での分子凝集状態の違いが光学特性に大きく影響することを明らかにした。 ②A03-2 田中賢の生体親和性高分子PMEAに関して、A02-1原田、池本、A02-2鷲津、A02公募鳥居らが共同して、水素結合で吸着した水分子の状態を明らかにした。また中性子準弾性散乱とテラヘルツ分光を用いて水分子の運動状態の定量化と高分子鎖の運動状態の関係を調べることにより、水和水がクラスター状になっていることを示唆する結果を得た。テラヘルツ分光により、官能基の違いによって水和水の運動状態が全く異なり、それがタンパク質の安定性に大きく寄与することを明らかにした。A01-2福島、A01公募寺島らと共同して、合成高分子の凝集構造や熱的性質、生体親和性に第二水和圏の水の運動状態が大きく関わることをテラヘルツ分光で明らかにした。A02-2樋口と共同して、第二水和圏の水の状態が溶質によって大きく異なる原因を全原子計算によって解明した。A02公募今清水と共同して、タンパク質に対するテラヘルツ光照射効果が水和状態の変化にあることを解明した。 ③A03公募児島のポリエチレングリコールデンドリマーについて、赤外分光およびX線散乱の温度変化により、水共晶混合物の状態を明らかにした。A03公募桶葭の配列多糖ネットワークについて、放射光赤外分光とA01公募原のX線散乱を組み合わせてカチオン選択の異方性機構を調べた。A03公募松本(拓)の超臨界CO2を用いてアセチル化したPVAの中性子反射率測定を行い、アモルファス領域に選択的に含水させることができることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の各項目は、ほぼ予定通りに進展している。理由を以下に列挙する。 (1)機能性イオン液晶膜のイオン選択機能と水の構造の関係について、A01公募原と行った加湿赤外分光とX線散乱測定の結果をA02鷲津、石井らの分子シミュレーションと組み合わせて解析を進めている。(2)タンパク質や細胞を選択的に吸着する機能を支配する水の状態解析が進展した。すなわち、加湿赤外分光と分子シミュレーションにより官能基・水分子配置ごとの水素結合の解析が実現し論文化した。テラヘルツ分光とX線散乱により、中間水の量が高分子のコンフォメーションに大きく依存することが示された。さらに中性子準弾性散乱結果のMDA解析により、不凍水、中間水、自由水の相互関係が明らかになった。また部分重水素化高分子の運動状態との関係も分かってきた。A02公募今清水との共同研究では、テラヘルツ光照射によってタンパク質の水和状態が変化することも明らかにし論文化した。第二水和圏の水の運動性についても論文化を進めている。これらの知見を統合して高性能の生体親和性材料の設計にフィードバックできる。(3)赤外自由電子レーザーを用いてA01武田のベイポクロミズムを示すカルバゾール誘導体の分子振動を強励起し、大きな摂動への応答から水の吸着機構を調べる研究に着手した。(4)テラヘルツ分光の測定技術で進展があり、共同研究を加速する準備が整った。また軟X線吸収分光用の界面水分析セルを汎用ビームライン用に改造し、Photon Factory BL2に導入した。放射光赤外分光では蒸発のような非常に速い過程の追跡が困難との結果が得られたため、純水ではなくリン酸緩衝生理食塩水などで蒸発速度を制御する方法を検討している。 以上のように、公募研究を含んで幅広い共同研究に展開することで、水の学理を基盤とした材料機能の起源解明に迫っていることが進捗状況の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
水と材料の相互作用の素過程解析を通じた機能発現の学理の構築を目指して、昨年度に引き続き、以下の6つの項目について研究を進める。 (1)A01-1 加藤のイオンチャネル内の水とイオン機能部位の構造・運動を捉えるために、X線吸収分光、X線散乱、赤外分光、シミュレーションの結果を組み合わせて検討し、総合的な理解を深める。(2)A03-1 田中求、中畑のファイトケラチン着想型高分子について、赤外分光やNMRなどのこれまでの実験結果と、実用化を想定したフィルター機能評価かを組み合わせて論文化する。(3)A03-2 田中賢の生体適合性高分子材料表面および界面水の構造・運動を放射光軟X線・赤外分光、中性子散乱、テラヘルツ分光およびAFMを駆使して解析した結果をまとめることで、高性能設計のための材料提案などにフィードバックする。とりわけ高分子の主鎖や側鎖の運動状態と水和水の関係を明らかにすることにより、中間水形成と材料の生体適合性の本質的理解に迫る。 (4)A03-3 高島の超分子ヒドロゲルの放射光軟X線・赤外分光、テラヘルツ分光の結果をまとめ、ホスト・ゲスト分子の配向、水和構造を抽出し、水分量に依存する接着メカニズムを明らかにする。(5)A02-2と共同することで、界面から長距離に及ぶ水の状態を決定づけるような因子の予測を行い、A01、A03の材料設計へとフィードバックする。(6)これまで網羅的に行ってきた計画研究や公募研究との共同研究の結果をまとめ、普遍的な界面水の性質や機能とのかかわりについての普遍性の理解を進める。 (1)~(6)の素過程解析を通じて水と材料の相互作用および水の役割を明らかにすることにより、水圏機能材料の機能発現の学理を構築する。
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