研究領域 | 身体-脳の機能不全を克服する潜在的適応力のシステム論的理解 |
研究課題/領域番号 |
19H05726
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
複合領域
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
高草木 薫 旭川医科大学, 医学部, 教授 (10206732)
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研究分担者 |
花川 隆 京都大学, 医学研究科, 教授 (30359830)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
135,200千円 (直接経費: 104,000千円、間接経費: 31,200千円)
2023年度: 26,130千円 (直接経費: 20,100千円、間接経費: 6,030千円)
2022年度: 26,390千円 (直接経費: 20,300千円、間接経費: 6,090千円)
2021年度: 26,390千円 (直接経費: 20,300千円、間接経費: 6,090千円)
2020年度: 26,390千円 (直接経費: 20,300千円、間接経費: 6,090千円)
2019年度: 29,900千円 (直接経費: 23,000千円、間接経費: 6,900千円)
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キーワード | ドーパミン作動系 / コリン作動系 / 遂行機能 / 加齢 / 変性疾患 / アセチルコリン作動系 / 神経伝達物質 / 前頭-頭頂ネットワーク / 脳活動ダイナミクス / 脳変性疾患 |
研究開始時の研究の概要 |
老化や脳変性疾患における遂行機能障害の背後には脳細胞や神経伝達物質の障害が存在する.本研究では「加齢や脳変性疾患に伴うドーパミン(DA)やアセチルコリン(ACh)の減少に伴う脳活動の変容に対する行動遂行則の変更が超適応を誘発する」という仮説を検証する.臨床研究では加齢やパーキンソン病による中脳DA系の障害と脳活動や遂行機能の低下の因果関係を脳機能画像と脳磁気刺激で証拠立て,加齢に依存する脳活動パラメータを同定する.動物実験ではアルツハイマー病で障害されるACh系にも着目し,ネコのACh系とDA系を分子遺伝学手法で低下させた際の遂行機能障害とその回復過程の脳活動を神経生理学的手法で解析する.
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研究実績の概要 |
動物実験では,中脳から橋外側部に下行するドーパミン(DA)作動系がこの領域に存在する姿勢筋緊張調節領域(脚橋被蓋核;PPN)と歩行調節領域(中脳歩行誘発野;MLR)にどのように作用するのかを解析した.一側のPPNにDAを微量注入すると2分以内に両側下肢の姿勢筋緊張が減弱消失した.一方,DAをMLRに注入すると数分後に自発的な歩行運動を誘発した.除脳ネコの歩容はトレッドミルの速度に対応して変化した.この成績は,① DAがPPNに存在するアセチルコリン(ACh)作動性ニューロンを活動させて脳幹から脊髄に下行する抑制性網様体脊髄路系を賦活することによって筋緊張を消失させること,そして,② MLRのグルタミン酸作動性ニューロンに起始する歩行誘発系を活動させること,の2点を推測させる.以上の結果より,中脳から脳幹に下行するDA系が歩行のみならず姿勢の調節にも関与することを世界に先駆けて証明した. ヒトの臨床研究では以下の2点の実績を得た.第一点は,これまでの研究期間において構築してきた「脳波と機能的MRIの同時計測法」を用いることにより,大脳基底核の一部である被殻の活動が若年健常者によるbrain-computer interface(BCI)の操作の成否を反映することを示したことである.第二点は,安静時機能結合MRI法を用いて,パーキンソン病(PD)のすくみ足(歩行開始時や歩行転換時に足が地面に吸い付いたように前に出なくなる)の病態において,皮質下運動回路,扁桃体を含む情動回路,認知・注意に関わる前頭頭頂回路の機能障害が関与することを見出すと共に,これらの領域間の結合指標を用いてすくみ足の程度や有無を推定できる可能性を示したことである. これらの研究成果は,PDにおける姿勢-歩行障害の病態には,大脳半球ならびに脳幹に作用するDA系の機能障害が関与することを推定させる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動物実験においては,分子遺伝学的研究(ウイルスベクター感染実験)において明確に報告できる研究成果は得られていない.その一方で神経薬理学的研究によって,中脳から脳幹に投射するDA作動系が姿勢制御に関与するという結果を得ることができた.この研究成果はPDの病態ならびに治療を考慮する上で極めて重要な知見であるとともに,世界初の成果である.すなわち,動物実験での研究は予想通り進捗していない項目もあれば,予測以上の成果が得られた項目も存在することから,全体としての研究進捗状況は「おおむね順調」であると結論付ける. 一方,臨床研究においては,これまでの研究期間において構築してきた「脳波と機能的MRIの同時計測法」が適切に働いていることを証明することができた.特に,この手法を利用して被殻活動がBCIに利用可能であるという知見を得たことは,脳疾患における運動障害を克服する治療法としてBCIを活用できる可能性を見出した点において極めて重要である.さらに,安静時機能結合MRI法においてPDのすくみ足が「運動系」のみならず「認知系」や「情動系」という,複数の脳情報処理系の機能異常によって誘発されることとを示したことは,これまで想定されていたPDの運動障害の病態生理機構の存在を実際に証明した点において極めて重要な知見である.このように臨床研究では当初の予定通りの研究成果が得られている(おおむね順調).
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今後の研究の推進方策 |
動物実験では,これまで同様にDA系とACh系による行動遂行則原理の解明を推進する.前年度の姿勢-歩行研究(急性実験)に加えて,ネコの姿勢制御-前肢リーチングのマルチタスク課題(慢性実験)を用いてこれを評価する.急性実験においては,中脳-橋におけるDA系とACh系の相互作用が脳幹-脊髄下行路の活動をどのように修飾して「姿勢と歩行の統合的制御」に関与するのかを解明する.慢性実験においては,DREADD法と光遺伝学的手法・神経薬理学手法を組み合わせ,先行性姿勢制御に関与する大脳皮質内ネットワークと皮質-脳幹投射系を同定すると共に,先行性姿勢制御における大脳皮質投射性ACh系の役割の解明を試みる. ヒトの臨床研究においてもこれまでの研究を継続する.具体的には健常高齢者やPD患者のコホートから取得した MRIやドパミントランスポーター(DAT)SPECTテータを活用し,(昨年度開発に成功したDAT標準化指標とDA機能を反映するMRI解析;ニューロメラニンMRI)に基づいて,年齢依存的なDA減少の個人差を評価する.また,安静時MRIの動的機能結合解析に基づいて,各個人の脳神経回路ダイナミクスを抽出し,これとDA系や認知機能との関係を解析・評価することにより,DA系と認知機能を媒介する脳神経回路ダイナミクスの同定を試みる.加えて,同意済コホート参加者における脳波と機能的MRIの同時計測研究を進め,脳神経回路ダイナミクスの周波数分析,時-空間解像度,機能局在同定能を向上させるための技術開発を推進する.ただし,ニューロメラニンMRIがDA細胞の活動や機能をどの程度反映しているのかは不明確なため,ヒト死後脳や齧歯類の ex vivo MRIと顕微鏡解析を組合せることによって,DA系の機能を反映するニューロメラニンMRIと中脳DA細胞数やDA投射線維などの量的関係についての検討を押し進める.
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