研究領域 | 多様かつ堅牢な細胞形質を支える非ゲノム情報複製機構 |
研究課題/領域番号 |
19H05741
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
生物系
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
有田 恭平 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (40549648)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
80,600千円 (直接経費: 62,000千円、間接経費: 18,600千円)
2023年度: 13,130千円 (直接経費: 10,100千円、間接経費: 3,030千円)
2022年度: 14,950千円 (直接経費: 11,500千円、間接経費: 3,450千円)
2021年度: 16,770千円 (直接経費: 12,900千円、間接経費: 3,870千円)
2020年度: 13,130千円 (直接経費: 10,100千円、間接経費: 3,030千円)
2019年度: 22,620千円 (直接経費: 17,400千円、間接経費: 5,220千円)
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キーワード | 非ゲノム情報 / DNAメチル化 / ヒストン修飾 / 構造生物学 / ユビキチン化 / クライオ電子顕微鏡 / DNA複製 / DNA維持メチル化 / クロマチン |
研究開始時の研究の概要 |
DNAメチル化やヒストンH3K9のメチル化(H3K9me3)は、クロマチンの構造変換を制御する遺伝子発現抑制的な非ゲノム情報である。これらの非ゲノム情報が発生・分化過程でどのように確立し、そして多細胞形質体を維持するために体細胞分裂後にどのように複製されていくのかは不明な点が多い。本研究では、非ゲノム情報による遺伝子発現抑制の確立と複製にかかる構造基盤として、ユビキチン化された複製因子PAF15とSETDB1によるDNA維持メチル化とH3K9me3の確立・複製に注目し、それぞれの分子機構を構造生物学的な観点から明らかにする。
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研究実績の概要 |
非ゲノム情報であるDNAメチル化やヒストン修飾は、細胞形質を決定する。細胞が獲得した非ゲノム情報は個体の生涯を通して維持され、多細胞形質が維持される。本研究では、遺伝子発現抑制的な非ゲノム情報であるDNAメチル化とH3K9me3の確立と維持機構に着目し、構造生物学的な研究を行う。 【項目1】DNAメチル化維持はDNAメチル化酵素DNMT1とそのリクルーターであるUHRF1が必須である。複製直後に起こる維持メチル化では、UHRF1は複製因子PAF15をユビキチン化し、これがDNMT1を複製サイトに呼び込む働きをする。この複製と連携した維持メチル化機構の解明のために複製因子とDNMT1の複合体のクライオ電子顕微鏡解析を行った。 【項目2】ヒストンH3K9メチル化酵素SETDB1は内因性レトロエレメントや組織特異的に遺伝子の発現抑制に寄与する。SETDB1のヒストンメチル化活性はユビキチン化により制御されるが、その活性化の分子機構は不明である。ユビキチン化によるSETDB1の活性化機構を構造生物的な観点から解明するために、大腸菌内共発現系を構築して均一にユビキチン化されたSETDB1の調製を試みた。 【その他】UHRF1によってユビキチン化されたヒストンH3はDNMT1を後期複製領域に呼び込み活性化する。この活性化機構の解明のためDNMT1とユビキチン化H3複合体の構造解析に取り組む。また、卵子形成の初期ではUHRF1は母性因子DPPA3によって核外に移行する。このメカニズムの解明のために、UHRF1:DPPA3複合体の構造解析に取り組む。本研究はDNAメチル化/脱メチル化の包括的な理解につながる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【項目1】これまでにDNMT1:ユビキチン化PAF15:PCNA:DNAの4者複合体をクライオ電子顕微鏡で観察した。しかし、DNAが解離している粒子が多いことがわかったので、DNAを安定的に複合体に留めるためにDNA polδを加えた5者複合体の調製を行った。5者を混ぜ合わせクライオ電顕で粒子を観察した。粒子ピッキングをし、2次元クラス分けを行った。しかし、明確に5者複合体に相当する粒子像を選別できておらず、5者複合体が解離していることが考えられた。 【項目2】SETDB1のSETドメインを大腸菌内でユビキチン化させたが、可溶化能が悪く大量調製ができない問題点があった。そこで精製タグをGSTからMBPに変更したところ可溶化能が向上し、収量が向上した。このMBP融合ユビキチン化SETDB1をクライオ電子顕微鏡で観察したところ、2つの塊から成る3次元マップの構築に成功した。しかし、分解能が上がらず高分解能構造解析には至っていない。また、並行して結晶化も行っているが現在のところ結晶は得られていない。 【その他】DNMT1:ユビキチン化H3:ヘミメチル化DNAの3者複合体の立体構造をクライオ電子顕微鏡を用いて決定し、新規の酵素活性化機構を解明した。また、UHRF1 PHDドメインとDPPA3のC末端領域の複合体構造を溶液NMR法で決定し、DPPA3によるUHRF1のクロマチン局在阻害の分子機構を解明した。
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今後の研究の推進方策 |
【項目1】複合体からDNAが解離する問題点の克服のために、化学架橋による複合体の安定化を行う。またこれまでの実験から、DNMT1は還元条件下で電顕観察する方が望ましいことがわかっている。現状のユビキチン化PAF15は還元環境下で使用できないので、化学合成によるユビキチン化PAF15の調製を目指す。 【項目2】ユビキチン化SETDB1の構造均一性を上げるために、H3ペプチドやSAH存在下でサンプルを調製し、結晶化やクライオ電顕による観察を行う。また、SETDB1のC末端にH3を融合させてSETDB1の安定化も試みる。 【その他】DNMT1の新たな活性制御部位の変異体解析を行い、論文化を目指す。また、UHRF1:DPPA3複合体に関しても、DPPA3によるUHRF1のクロマチン局在の阻害機構を構造生物学と細胞生物学的な観点から明らかにできたので論文化を目指す。その他、エピジェネティック修飾を導入したヌクレオソームと維持メチル化因子の複合体の調製を行い、より高次構造体レベルでDNAメチル化の維持機構の解明を目指す。
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