研究領域 | 全能性プログラム:デコーディングからデザインへ |
研究課題/領域番号 |
19H05751
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
生物系
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
宮本 圭 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (40740684)
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研究分担者 |
島本 勇太 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 准教授 (80409656)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
106,860千円 (直接経費: 82,200千円、間接経費: 24,660千円)
2023年度: 20,540千円 (直接経費: 15,800千円、間接経費: 4,740千円)
2022年度: 20,540千円 (直接経費: 15,800千円、間接経費: 4,740千円)
2021年度: 20,540千円 (直接経費: 15,800千円、間接経費: 4,740千円)
2020年度: 20,540千円 (直接経費: 15,800千円、間接経費: 4,740千円)
2019年度: 24,700千円 (直接経費: 19,000千円、間接経費: 5,700千円)
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キーワード | 全能性 / 核形成 / 核アクチン / 物性 / 再プログラム化 / 核構造 / 核骨格 / リプログラミング / 転写 / 機械特性 / マウス |
研究開始時の研究の概要 |
受精卵の全能性を支える核、即ち「全能性核」は、初期発生の特定の時期のみ存在する。全能性核の構築機構の解明は、全能性獲得の本質を理解する上で重要で、さらには全能性を有する核の再構築へとつながる。しかし、全能性核のどのような性質が他の分化した核と異なるかについての知見は極めて乏しい。そこで本研究では、①全能性核の形成過程を詳細に調べ、核形成に必要な因子を同定する。さらに、②全能性核のみが有する機械的特性を明らかにする。③これらの解析を通じ、最終的には全能性核の再構築を試みる。
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研究実績の概要 |
精子核や体細胞核は卵細胞内で再プログラム化され、全ての細胞へと分化する全能性を獲得する。全能性獲得過程で、これらの核は急激に膨化し、脱凝縮したクロマチンを有する特徴的な形態を示す。このようにして胚の全能性を支える核、即ち「全能性核」がつくり上げられるが、その核内構造や核形成にかかわる因子が全能性のプログラムといかに関連しているかについてはほとんど分かっていない。さらに近年、核の機能がその機械的性質と相関することを示唆する研究結果が数多く報告されているが、全能性核についての知見は極めて乏しい。そこで本研究では、全能性を有するマウス受精卵や初期胚期における核の機能に着目し、少数細胞解析技術や生物物理解析手法を駆使し、核形成や機能維持に関わる因子やその作用機序解明を目指す。 マウス受精卵前核内の核骨格構造を調べたところ、核内に存在するアクチンタンパク質(核アクチン)が、通常の体細胞では見られない特殊な重合化核アクチンのネットワークを作り出していることを発見した。この前核内アクチンを受精卵特異的重合化核アクチンと名付け、その機能を探ったところ、受精後にゲノムに蓄積するDNA損傷の修復に重要であることがわかった。さらに、受精卵と比較して低い発生能を示すことが知られる体細胞クローン胚において、1細胞期の核内に形成される重合化核アクチンの構造に顕著な異常が確認された。このように、受精卵特異的重合化核アクチンの発生における役割の一つを明らかにするとともに、体細胞クローン胚に観察される異常として核骨格の形成不全を新たに発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和2年度の実験においては、受精卵特異的重合化核アクチンの発生における役割として、受精後にゲノムに蓄積するDNA損傷の修復促進機能があることを示した。特に、この重合化核アクチンによるDNA損傷修復促進によって、マウス1細胞期胚におけるDNA損傷チェックポイントの活性化を妨げ、結果として受精卵の正常な発生が担保されるという胚発生モデルを示した。また、重合化核アクチンの検出条件を最適化したうえで、体細胞クローン胚におけるアクチンの核骨格構造を調べた結果、クローン胚の核骨格形成異常を発見した。 次に、マウス初期胚における核の硬さや粘弾性の変化を調べる実験においては、単離した初期胚核を用いて、初期胚核が体細胞核と比較して極度に柔らかい特殊な性質を有することを見出した。そこで、生細胞において核の粘弾性の変化を計測する実験システムを構築するため、マウス初期胚のライブセルイメージングを通じた核の形状変化に着目した。Histone H2Bに蛍光タンパク質を標識した融合タンパク質を初期胚に発現させ、核形状変化を計測したところ、初期胚の特定の時期に核が特殊な形状変化を示す現象を発見した。 最後に、全能性核の特性を模倣した核の再構築について進捗を述べる。我々は、細胞周期を人為的に停止させた初期胚に培養細胞核を移植することで、移植した細胞核がレシピエントの胚のクロマチン・転写状態に近づくことを発見した。この実験系を利用し、分化した細胞核を停止した2,4細胞期胚に移植すると、それぞれの発生時期特異的マーカーの活性化が移植核から確認され、移植核の状態が初期胚様に変化する可能性を示した。このように、細胞核のクロマチン・遺伝子発現状態を直接的に初期化するシステムを立ち上げた。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、昨年度に引き続き以下に示す3つの方向性で研究を進める。 (1) 受精卵特異的核骨格構造の発生生物学的意義の解明:令和2年度の実験により、受精卵特異的重合化核アクチンのDNA損傷修復促進を介した胚発生への寄与を示した。引き続き重合化核アクチンの機能を探索した結果、胚性ゲノム活性化への関与を示唆するデータがRNA-seq解析により得られた。そこで、重合化核アクチンが胚性ゲノム活性化を制御する分子機序の解明を目指す。また、重合化核アクチンが受精卵にのみ多く存在する理由の解明に向けて、その上流因子についても調べる。 (2) マウス初期胚における核の硬さや粘弾性の変化:令和2年度の実験から、初期胚の特定の時期に核の形状が顕著に変化することを見出した。そこで本年度は、この核の形状変化が遺伝子発現や胚発生に与える影響を明らかにすることを目標にする。この目標達成のためには、人為的に核の形状を変化させる実験システムの構築が必要となり、2つのアプローチでその実現を目指す。1つは、磁気ビーズを用いた核膜の人為的変形誘導である。さらにもう1つのアプローチとして、核の形状変化に関わることが知られている核アクチン重合化因子の発現制御を計画する。これらのアプローチを通じて、胚発生の特定時期に一過的に起こる核の形状変化の生物学的意義を探る。 (3) 全能性核の特性を模倣した核の再構築系の探索:我々が独自に開発した核移植法を用いて、全能性を有する2細胞期胚を停止させ、停止胚への核移植により、2細胞期様の特性を持った初期胚核を人為的に作出できる可能性を示した。今年度はこの新規核移植法を利用し作出した人工2細胞期様核の特性を、網羅的遺伝子発現解析などを用いて調べる。
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