研究領域 | 全能性プログラム:デコーディングからデザインへ |
研究課題/領域番号 |
19H05752
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
生物系
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
青木 不学 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 客員共同研究員 (20175160)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
107,380千円 (直接経費: 82,600千円、間接経費: 24,780千円)
2023年度: 20,540千円 (直接経費: 15,800千円、間接経費: 4,740千円)
2022年度: 20,540千円 (直接経費: 15,800千円、間接経費: 4,740千円)
2021年度: 22,490千円 (直接経費: 17,300千円、間接経費: 5,190千円)
2020年度: 22,490千円 (直接経費: 17,300千円、間接経費: 5,190千円)
2019年度: 21,320千円 (直接経費: 16,400千円、間接経費: 4,920千円)
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キーワード | 遺伝子発現プログラム / 着床前初期胚 / 胚性遺伝子活性化 / 初期発生 / ヒストン変異体 / 初期胚 / クロマチン構造 / 全能性 / リプログラミング / 転写因子 / zygotic gene activation / DNA複製 / 着床前初期発生 |
研究開始時の研究の概要 |
受精により全能性を有する1細胞期胚が生み出されるが、その際にそれまでの親世代の遺伝子発現プログラムが刷新され、新たに新世代のプログラムがスタートする。このプログラムは、発生を順調に進行させるために厳密に調節されていることが考えられるが、その実態はほとんど明らかにされていない。そこで、受精後に全能性を獲得した1細胞期胚からスタートする発生プログラムの完全理解に向けて、その基盤となる遺伝子発現プログラムの調節機構を明らかにする。
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研究実績の概要 |
受精後における胚性遺伝子の活性化(zygotic gene activation: ZGA)は1細胞中期から2細胞後期にかけて起こるが、2細胞中期に遺伝子の発現パターンが大きく変化する。そこで、1細胞期から2細胞期初期までの遺伝子発現の活性化はminor ZGA、2細胞中期から後期までをmajor ZGAと呼び分けられている。すなわち、この発現変化が受精後の遺伝子発現プログラムの最初のプロセスと考えられている。そして、この変化を調節するメカニズムにおいて、緩んだクロマチン構造から締まったものへの変化が重要な役割を果たしていると考えられている。また、このクロマチン構造の変化にヒストンH3の変異体であるH3.1/3.2が関与していることが示唆されている。さらに報告者のこれまでの研究で、2細胞期にH3.1/3.2のクロマチンへの取り込みを抑制すると、クロマチン構造が緩んだままになり、さらにその後の発生率が低下することを明らかにした。 そこで、本年度はH3.1/3.2が実際にminorからmajor ZGAへの変化に関与しているかどうかを明らかにするために、H3.1/3.2をノックダウン(KD)した胚についてRNAseqを行い、その遺伝子発現変化への影響を網羅的に調べるとともに、H3.1/3.2のゲノム上の取り込み位置との関連についても解析を行った。その結果、minorおよびmajor ZGAの間で発現の変化がない遺伝子群については、H3.1/3.2のKDで発現量の変化が見られなかったが、minor ZGAからmajor ZGAで発現が抑制される遺伝子群では、H3.1/3.2のKDによってmajor ZGAでの発現抑制がみられなくなった。さらに、これらの遺伝子は、minorからmajor ZGAにかけてプロモーター付近へのH3.1/3.2の取り込みが著しく増加することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以前の研究で、minor ZGAからmajor ZGAへ遺伝子発現プログラムが進行していく時期に、H3.1/3.2のクロマチンへの取り込みが著しく増加すること、さらにクロマチン構造が緩んだ状態から締まった状態へと変化することを明らかにした。そこで、これらの変化が遺伝子発現プログラムの進行を調節しているとの仮説の下、まずminor ZGAで発現してmajor ZGAで発現が抑制される遺伝子群の転写開始点付近におけるH3.1/3.2の局在を調べた。その結果、これらの遺伝子群では他の遺伝子よりもH3.1/3.2が多く存在していることが分かった。次いでH3.1/3.2をノックダウン(KD)して、実際の遺伝子発現の変化をRNAseqで網羅的に解析した。その結果、minor ZGAで発現してmajor ZGAで発現が抑制される遺伝子群ではKDによりmajor ZGAでの発現抑制が起こらなかった。以上の結果は、当初の仮説と合致し、その正しさを強くサポートするものであることから、遺伝子発現プログラムの進行を調節するメカニズムの解明に大きく貢献するものと考えられる。 以上より、本研究プロジェクトは、全体としてはここまでおおむね順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、遺伝子発現の最初期の進行(minor ZGAからmajor ZGA)を調節するメカニズムに関して、この時期にpermissiveなクロマチン状態からrepressiveなものへ変化することが知られていたことから発現抑制系について集中して研究を進めてきた。しかし、発現パターンが変化する際には、発現量が増加する遺伝子も同時に多数存在することから、次年度(2023年度)はminorからmajor ZGAに変化する際に発現量が増加する遺伝子の調節機構に関する研究を行うことにした。 これまでに、minor ZGAで発現する遺伝子であるDuxがmajor ZGAにおける一部の転写調節に関わっていることが明らかにされた。しかしその後、Duxをノックアウトしても発生への影響が小さいことが報告された。そこで、Duxにその構造が類似したタンパク質がDuxの機能を相補していることを考え、その候補を探索したところDuxblが見つかり、その発現を1細胞期と2細胞期で調べたところ高いレベルでの発現が見られた。そこで次年度は、minorからmajor ZGAの遺伝子発現におけるDuxblの役割と、DuxblとDuxの遺伝子発現調節への関連を明らかにすることで、遺伝子発現プログラムの最初期の進行を調節するメカニズムの解明に挑む予定である。
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