計画研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
本研究の概要は、これまで得られた情報と開発した解析技術をもとに、転移因子(トランスポゾン)が哺乳類の全能性プログラムに寄与する可能性を検証するための研究である。
哺乳類ゲノムの半分近くを占める転移因子(トランスポゾン)は、近年の解析から、哺乳類ゲノムの進化を駆動してきたことが明らかになってきている。初期胚においては各種転移因子が一過的に発現上昇し、これは転移因子が有胎盤類の全能性プログラムに寄与する可能性を示唆する。私達は、これまで、生殖細胞や初期胚における転移因子制御機構の解析を行い、転移因子と宿主との相互作用を検証してきた。また、生殖細胞・初期胚の解析を推進していくために不可欠な、少ない細胞数で行うエピゲノム修飾、トランスクリプトーム(mRNA, long non-coding RNAs及び小分子RNA)、そして、プロテオーム解析技術開発を進めてきた。本研究では、これまで得られた情報と開発した解析技術をもとに、全能性プログラム形成と維持機構及び全能性プログラムから多能性プログラムへの遷移機構を解明するために、初期胚における転移因子関連因子の同定とその機能解析を行う。
1: 当初の計画以上に進展している
理由 :本年度の研究では、MERV-Lの発現を効率よくノックダウンするアンチセンスオリゴ(ASO)を受精卵に注入する系を確立し、この系を用いて、MERVLをノックダウンしたところ、初期胚発生の異常が観察された。これは従来宿主にとって有害であると考えられていたトランスポゾンの発現が胚発生に必須であることを示す。本成果はNature Genetics誌に掲載された (Sakashita et al., Nat Genet. 2023. ji2200525)。 また、従来マウスにおいてはDUXが唯一のパイオニア転写因子であると思われていたが、DUXと冗長的に機能する新規パイオニア転写因子として Obox4を同定した(Nature Genetics under revison)。一方、LINE1 ORF1タンパク質に対する特異的なモノクローナル抗体を作製し、L1 ORF1タンパク質と特異的に相互作用するタン パク質を同定した。さらに、これら相互作用因子の機能解析のためにLINE1転移能をアッセイする系を立ち上げ、この系を用いて、相互作用因子がLINE1転移能に 及ぼす影響を調べたところ、初期胚において、amyotrophic lateral sclerosis (ALS)の主要危険因子であるTDP-43が強くL1の転移を抑制することを見出した。これはTDP-43が初期胚ゲノムをL1転移 から守護していることを示す。また、これらの結果はALSの新奇発症機構モデルを提案するものである。本成果はScience Advances誌に掲載された(Li et al., Science Advances. 2022. eabq3806)。
上述の研究により得られた成果を基にして、哺乳類初期胚における全能性獲得機構及び全能性から多能性へ遷移機構の解明を目指す。特に、マウス初期胚におけるトランスポゾン(MERVL, L1)の解析を並行して進め、必要に応じて順次、新規因子に対する抗体や機能欠失動物の作製を行う。また、DUXと Obox4の冗長性の詳細を理解し、ZGA (Zygotic genome activation)を駆動する仕組みの解明に迫る。このため、DNAメチル化 等のエピゲノム解析や一細胞RNA解析等を、野生型と機能欠失変異体を比較することで進めていき、完全未分化状態(つまり、全能性)の形成とその維持、そして多能性への遷移機構に迫る。
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すべて 雑誌論文 (15件) (うち査読あり 15件、 オープンアクセス 14件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 10件、 招待講演 20件) 備考 (1件)
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