研究領域 | 「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
19H05769
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
複合領域
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
石森 浩一郎 北海道大学, 理学研究院, 教授 (20192487)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
78,520千円 (直接経費: 60,400千円、間接経費: 18,120千円)
2023年度: 14,950千円 (直接経費: 11,500千円、間接経費: 3,450千円)
2022年度: 15,470千円 (直接経費: 11,900千円、間接経費: 3,570千円)
2021年度: 14,040千円 (直接経費: 10,800千円、間接経費: 3,240千円)
2020年度: 14,560千円 (直接経費: 11,200千円、間接経費: 3,360千円)
2019年度: 19,500千円 (直接経費: 15,000千円、間接経費: 4,500千円)
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キーワード | 生命金属科学 / 細胞内鉄動態 / アミノレブリン酸合成酵素 / ヘム / シグナル伝達 / ヘム制御モチーフ / 鉄制御蛋白質 / 鉄応答要素(IRE) / 鉄応答要素 / 金属生命科学 / ヘムシャペロン |
研究開始時の研究の概要 |
本新学術領域における「生命金属科学研究基盤」の確立のため、本研究課題では、生命金属の中でも、生命維持のための種々の生理学的に重要な過程で様々な機能を果たしている鉄に注目し、鉄が関与する制御系を構成する蛋白質の機能解析及び相互作用解析を基盤として、そのヘムを介した細胞内鉄動態制御機構の解明を目指す。一方、研究項目A03の目的である有害金属の生体内動態と作用機序の解明については、細胞内の鉄動態制御機構が、種々の要因で「攪乱」されることにより、細胞がどのような応答をするのか、生化学的、細胞生物学的に解析することにより、必須金属である鉄が有害金属に変容する機構の解明を試みる。
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研究実績の概要 |
1.細胞内鉄恒常性を維持するシグナル伝達分子としてのヘムの機能 細胞内鉄恒常性維持機構を担う鉄制御蛋白質(IRP)のヘム結合部位として、アミノ酸置換からはヘム制御モチーフのCys残基であるCys118とCys300が、一方、結晶構造解析に成功したIRP1変異体(IRP1 C437/503S)では、ヘム制御モチーフではないCys506が示さた。そこでIRP1 C437/503Sのヘム結合部位について、岐阜薬大の平山が開発したヘム結合部位修飾プローブ法を利用し、京大の田村による質量分析解析から検討した結果、Cys506だけでなくCys300へのヘムの配位も明らかになった。以上の結果は、IRP1のヘム結合部位は一つではなく、その標的mRNAであるIRE結合部位付近の複数のCys残基であることが示唆された。 2.分子シャペロン機能におけるヘムのシグナル伝達分子としての機能 ヘム生合成酵素の一つであるアミノレブリン酸合成酵素(ALAS1)は、ヘム存在下では分子シャペロン複合体ClpXPにより分解される。この反応機構解明のため、生命創成探究センターの青野との連携研究として、ALAS1のヘム結合による構造変化を追跡したところ、ヘムのCys110への結合により、αヘリックス含量が減少し、構造の熱安定性も低下するものの、変性過程の解析からは構造形成が示唆された。ALAS1はN末端側約100残基が天然変性状態であることから、Cys110へのヘム結合によるN末端側での疎水的コア形成が示唆され、このことは疎水性残基を認識してペプチド鎖を切断するサーモライシン分解反応のヘム添加による阻害からも支持された。つまり、ALAS1はヘム結合によりN末端側の天然変性領域に疎水性コアが形成されることでC末端側の構造の不安定化が誘起され、このような構造変化をClpXPが認識し、その分解を進行させると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでアミノ酸置換体を用いたヘム滴定実験や、標的mRNA配列であるIREへの結合実験からは決定できなかったIRP1におけるヘム結合部位について、ヘム結合部位修飾プローブを用いることで、IRE結合部位の複数のCys残基が関与することが明らかになった。このような部位特異性の低いヘム結合様式は、これまで報告されているヘムを活性中心として有する蛋白質では観測されず、IRP1で初めて明らかになったもので、当初の目的通り、ヘムを情報伝達分子とする蛋白質の構造的特徴を明らかにすることができた。 ALAS1におけるヘム結合についても、どのような構造変化によって分子シャペロン複合体ClpXPとの相互作用が変化し、ALAS1の成熟化とその分解が区別されるのか、これまでその分子機構に関する情報は全くなかったところ、ヘム結合による天然変性領域での疎水的コアの形成が引き金となって蛋白質全体の不安定化が誘起され、それをClpXPが認識し、分解へ導くという新たな仮説を提案できた。今回の結果から、ヘムによる分子シャペロンとの相互作用の制御に基づく新たな分子機構が示唆できた。
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今後の研究の推進方策 |
IRP1のヘム結合様式の同定に関しては、これまでのヘム結合部位修飾プローブを用いた実験の条件では、本来の結合部位のほか、非特異的なヘム結合部位も検出されていることから、種々の反応条件を変化させることで、機能的に意味のある親和性の高いヘム結合部位の同定を試みる。さらに、変異体IRP1だけではなく、野生型IRP1についても同様な実験を行い、そのヘム結合様式を明らかにする。IRP1との相同体で、もう1か所、ヘム制御モチーフを有するIRP2についても、ヘム結合部位修飾プローブを用いて、そのヘム結合様式を明らかにする。また、このようなヘム結合がIRPの立体構造にどのような変化をもたらすのかについては、X線小角散乱やクライオ電子顕微鏡の応用のほか、横浜市大の明石との連携研究としてネイティブ質量分析も予定している。 ヘム結合によるALAS1の分子シャペロンClpXPによる分解機構については、ヘム結合によるN末端側での疎水性コアの形成により、ALAS1の立体構造が大きく変化することから、IRP同様、X線小角散乱やクライオ電子顕微鏡の応用を試みる。さらに、ヘム結合によるALAS1とClpXPとの相互作用の変化については、X線小角散乱やクライオ電子顕微鏡の応用といった実験的なアプローチだけではなく、ドッキングシミュレーションも視野に入れて研究を進める。
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