研究領域 | 高速分子動画法によるタンパク質非平衡状態構造解析と分子制御への応用 |
研究課題/領域番号 |
19H05779
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
複合領域
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
朴 三用 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (20291932)
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研究分担者 |
梅名 泰史 名古屋大学, シンクロトロン光研究センター, 准教授 (10468267)
別所 義隆 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 客員研究員 (70242815)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
106,470千円 (直接経費: 81,900千円、間接経費: 24,570千円)
2023年度: 15,860千円 (直接経費: 12,200千円、間接経費: 3,660千円)
2022年度: 15,860千円 (直接経費: 12,200千円、間接経費: 3,660千円)
2021年度: 15,860千円 (直接経費: 12,200千円、間接経費: 3,660千円)
2020年度: 16,770千円 (直接経費: 12,900千円、間接経費: 3,870千円)
2019年度: 42,120千円 (直接経費: 32,400千円、間接経費: 9,720千円)
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キーワード | 光感受性タンパク質 / X線自由電子レーザー / 時分割解析 / cGMP光産生酵素 / 光反応酵素 |
研究開始時の研究の概要 |
光によって感応・応答するタンパク質には、動物や植物などに広く分布する発色団を含み、生命維持に関与するなど重要な役割を果たすものが知られる。近年では、こうした光感受性タンパク質を利用して、細胞などの光操作する技術に応用され(光遺伝学)、これまでに多くの生理現象の解明に利用されてきた。本研究計画では、疾病治療への利用が期待されている、またはツールとしての重要性が高いとされる光感受性タンパク質について、XFELを用いた高速分子動画実験を行うことで、タンパク質内部で起こる光エネルギー移動や高速な構造変化について明らかにする。
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研究実績の概要 |
光によって感応、応答するタンパク質には、動物や植物などに広く分布する発色団を含み、生命維持に関与するなど重要な役割を果たすものが知られる。近年では、こうした光感受性タンパク質を利用して、細胞などの光操作する技術に応用され、これまでに多くの生理現象の解明に利用されてきた。中でも、光遺伝学は、細胞や組織の生理機能を明らかにするための非常に強力な研究手法であると同時に、疾病の治療への応用の観点からも注目されている。光活性化アデニル酸シクラーゼPACは、動物、植物で普遍的な情報伝達物質(cAMP、 cGMP)の生産を光で制御できる生体タンパク質で、生体内での光スイッチとして医学的な応用が期待される分子である。PACは、最初にミドリムシから発見され以後、複数の原核生物からも相同遺伝子が見出されていたが、いずれも原子レベルでの構造・機能解明までには至ってなかったが申請者によって、藍藻由来の光活性化アデニル酸シクラーゼ(OaPAC)における初めて原子レベルでの構造・機能解明に成功した。本研究では解明されたOaPAC光活性化メカニズムの構造科学的解明を基に、細胞内でのセカンドメッセンジャー光制御への光遺伝学の展開や、PACの酵素ドメイン改変によるcGMP光産生酵素の創出、更には脳病変発生などにおける発生学的疾病の機構解明と治療を光制御医学ツールとして基礎医学的研究を目指す。本年度ではOaPACに対して微結晶調製を大量作製し、XFEL(X線自由電子レーザー)の測定と、OaPACの反応時間を追うため、秒単位での測定が可能な、ヨーロッパ放射光施設SLSでの測定を行い、光感受性タンパク質の多様な光応答機構の解明を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光感受性アデニル酸シクラーゼ(OaPAC)については単結晶から得られた静的な構造がすでに明らかであったので、まずこの結晶化条件を微小結晶調製用に改良することを試みた。OaPACの結晶化の再現性はある程度高いものの、回折能のある結晶が得られる頻度が低く、タンパク質の発現条件を検討し、最適化を行った。その結果、暗状態でのタンパク質の発現や精製を行うことで、改善を行いことができまた。また、回折能がある結晶化どうかは見た目では判断できないため、単結晶のX線結晶構造解析で用いる大きさの結晶の回折能チェックを実験室系X線回折装置で実施し、それを微小結晶調製にフィードバックすることで品質管理を随時行いながら微小結晶の大量調製方法の検討を行なった。その結果、タンパク質濃度20 mg/ml、リガンドとしてATPアナログであるApCpp存在下でオイルバッチ方により、微小結晶を確認でき、回折実験から回折能のある結晶であることを確認した。この方法の応用として、1.5 mLチューブ内にOaPACサンプルと結晶化Bufferを加え静置することで微小結晶を大量調整する方法を確立した。一方、課題として結晶サイズの偏りが挙げられたため、別途作製した単結晶を破砕したシードサンプルを結晶化時に添加した。これにより、結晶の安定的かつ単一な結晶の大量調整が可能となった。これらの試料を用いて作製された微結晶での昨年年度にはSACLAにおいて4回の測定を行い、2.2-2.3A前後の分解能で構造解析を行うことができた。今後、OaPACの反応時間を追うため、秒単位での測定が可能な、ヨーロッパ放射光施設SLSでの測定を行い、光感受性タンパク質の多様な光応答機構の解明を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
PACは日本の研究グループによって発見されたタンパク質で、青光により活性化アデニル酸シクラーゼcAMP分子を量産する酵素として、特性解明や生物機能光制御への展開も提唱・実行してきた(Nature, 2002)。本申請者は、PACの相同遺伝子であるOaPACの立体構造解明に世界初めて成功し、光活性化機構に関する構造科学的な研究は本研究グループが先駆的に積み上げてきた。神経興奮の光制御、いわゆる「光遺伝学、optogenetics」が急速に普及し、OaPACによるcAMPを介する生体機能光制御も概念上同類とみなされつつあるが、はるかに広範で多彩な生命活動の光制御につながり、血管新生・脳病変原生・神経回路ネットワーキング・記憶などの光発生医学現象の制御・解明・治療・創薬スクリーニングという広大な新分野の開拓を先導するものであり、かつ独創的な新領域の研究分野であると言える。 このような目標に向け、今後、X線自由電子レーザーとヨーロッパ放射光施設SLS施設を利用した反応分子動画法により、光感受性タンパク質の多様な光応答機構の解明を目指している。 今後の実験方針としては、OaPACは青色光による反応時間帯は約15-20秒程度で反応するタンパク質である。そのため、X線自由電子レーザーSACLAでの時間分解解析には遅い時間帯での測定はできず、ヨーロッパ放射光施設SLSでの測定を予定している。これらの測定に向けてOaPACの単結晶作製と、励起レーザーの検討なども行う。
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