研究領域 | 地下から解き明かす宇宙の歴史と物質の進化 |
研究課題/領域番号 |
19H05803
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井上 邦雄 東北大学, ニュートリノ科学研究センター, 教授 (10242166)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
236,990千円 (直接経費: 182,300千円、間接経費: 54,690千円)
2023年度: 47,190千円 (直接経費: 36,300千円、間接経費: 10,890千円)
2022年度: 55,380千円 (直接経費: 42,600千円、間接経費: 12,780千円)
2021年度: 57,980千円 (直接経費: 44,600千円、間接経費: 13,380千円)
2020年度: 46,540千円 (直接経費: 35,800千円、間接経費: 10,740千円)
2019年度: 29,900千円 (直接経費: 23,000千円、間接経費: 6,900千円)
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キーワード | 二重ベータ崩壊 / マヨラナニュートリノ / 宇宙物質優勢 / 極低放射能 / 地球ニュートリノ |
研究開始時の研究の概要 |
KamLAND-Zen800の主要バックグラウンドである宇宙線起源の10Cを低減する新型電子回路を開発・導入する。観測停止期間を最小限にする導入で高い稼働率を維持し、期間内に逆階層構造に切り込み複数の理論モデルを検証できる40meVをきる探索感度を実現する。逆階層構造をカバーする20meVに達する感度実現のための開発も並行する。また、極低放射能を究める上で必須なスクリーニング環境も構築し、領域内やコミュニティでの共有化を図る。さらに地球ニュートリノ観測では、原子炉ニュートリノの影響が少ないデータで観測精度を向上し、宇宙の化学進化到達点の直接的な観測により、宇宙の物質進化解明を推進する。
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研究実績の概要 |
ニュートリノレス二重ベータ崩壊探索では、世界をリードする探索を継続し、PRL 130, 051801 (2023) では、世界に先駆けてニュートリノ質量の逆階層領域に到達し、複数の理論予測にもかかる新たな節目に到達した。この論文は、Editors’ suggestionおよび Featured in Physicsに選ばれている。また、地球ニュートリノ観測の質を高め、GRL 49,16 (2022), e2022GL099566 では、地球モデルの選別が始まり、高めの地熱量を予測するモデルを含めた複数のモデル排除に成功した。地球内部のダイナミクスやそれに関係する地球内部組成に対して新たな知見を与えるもので、地球内部観測の新たなツールとしての質的変革をもたらした。この論文は、AGU Research Spotlight に選ばれている。マルチメッセンジャー天文学の一角をなす天体ニュートリノ研究においても、カムランドでの長時間観測で超新星爆発由来のニュートリノが観測されなかったことから、40~80kpcまでの範囲内での超新星爆発頻度について厳しい制限を与えた。さらに銀河系での星形成率に対しても初めてニュートリノ観測による制限を与えることに成功した。また、太陽ニュートリノ観測においても、高度な宇宙線による原子核破砕の弁別手法、放射性不純物Tl208に対する日オーダーのveto手法を開発し、世界初の2MeV閾値での観測に成功した。その他、IceCubeニュートリノ信号との相関解析など幅広い低エネルギーニュートリノ天文学を展開した。さらに、カムランドの高い中性子検出効率を活かした大気ニュートリノの中性カレント反応によるストレンジネス軸性電荷の測定や、極低放射能環境を活かした励起エネルギー1.0-17.8MeVを持つ暗黒物質に対する世界で最も厳しい制限を与えるなど幅広い成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ニュートリノ質量の逆階層領域に大きく切り込むニュートリノレス二重ベータ崩壊探索を実現したことで、当初の目標を前倒しで達成した。さらに、機械学習による粒子識別や位置・エネルギー再構成、ミューオン束の再構成など新たなツールの開発に成功している。 地球ニュートリノ観測においても、地球モデルの精度を凌駕する観測精度で当初目標を達成しており、さらに一部の地球モデルを排除できたことで、地球科学の新しい知見を得ることに成功しており、質的な変革をも実現した。 ニュートリノ天文学・ニュートリノ反応・暗黒物質探索などの副次的な成果も次々に生まれており、当初の計画以上の進展である。
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今後の研究の推進方策 |
ニュートリノレス二重ベータ崩壊はいつ発見があってもおかしく無い状況なので、データ蓄積と新技術導入で更なる感度向上を行い、世界最先端を継続する。特に、ニュートリノを伴う二重ベータ崩壊と太陽ニュートリノ以外のほとんどのバックグラウンドはガンマ線を伴い、機械学習を使った粒子識別がその低減に有効であることが判明しているので、積極的に機械学習を導入していく。機械学習は位置再構成やエネルギー再構成、長寿命原子核生成の識別でも既存ツールを上回る性能を発揮しており、系統誤差を慎重に評価しつつ実際の解析に適用していく。また、ミューオンの再構成においては、複数ミューオンの再構成に加え、突き抜けミューオン以外の事象にも対応できるプログラムの開発が進んでおり、ニュートリノ反応で生じる始点や終点が検出器内にあるような事象についても取り扱える目処が立ってきた。これらは高性能ながらまだ計算が遅いため、高速化しつつ導入を進める。また、これらの新技術の性能実証には、実データでの較正が重要であるため、よく理解できたデータサンプルの蓄積を並行する。 地球ニュートリノ観測に関しては、観測精度が地球モデルの精度を凌駕し、国外の原子炉ニュートリノのモデル化も十分高精度で実現できているため、今後は地球モデルの精度改善が最重要課題となる。カムランド実験としてはデータ蓄積による観測精度の向上を続け、並行して地球科学者と連携した地球モデルの精度向上、特に地球内部のダイナミクスも考慮する地球ダイナミクスモデルの構築を目指す。 カムランドの性能向上計画に対しても、開発が進みプロトタイプ検出器による性能試験の最終段階に入っている。これらの試験を通して設計の詳細を詰めていく。
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