研究領域 | ハイパーマテリアル:補空間が創る新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
19H05821
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
出口 和彦 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (40397584)
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研究分担者 |
中村 真 中央大学, 理工学部, 教授 (00360610)
枝川 圭一 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (20223654)
橋爪 洋一郎 東京理科大学, 教養教育研究院北海道・長万部キャンパス教養部, 准教授 (50711610)
杉本 貴則 大阪大学, 量子情報・量子生命研究センター, 特任准教授(常勤) (70735662)
古賀 昌久 東京工業大学, 理学院, 准教授 (90335373)
高際 良樹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 独立研究者 (90549594)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
156,780千円 (直接経費: 120,600千円、間接経費: 36,180千円)
2023年度: 16,770千円 (直接経費: 12,900千円、間接経費: 3,870千円)
2022年度: 16,770千円 (直接経費: 12,900千円、間接経費: 3,870千円)
2021年度: 16,770千円 (直接経費: 12,900千円、間接経費: 3,870千円)
2020年度: 20,670千円 (直接経費: 15,900千円、間接経費: 4,770千円)
2019年度: 85,800千円 (直接経費: 66,000千円、間接経費: 19,800千円)
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キーワード | ハイパーマテリアル / 準結晶 / 高次元 / 補空間 / 物性 / 近似結晶 / 磁性 / 超伝導 / フェイゾン |
研究開始時の研究の概要 |
準結晶や近似結晶など、補空間を含む高次元空間で統一的に記述される物質群を高次元空間(ハイパースペース)のマテリアル、すなわち「ハイパーマテリアル」とする。ハイパーマテリアルは、その高次元性に起因して「補空間」という実空間と直交する隠れた空間の構造自由度を有する特徴がある。ハイパーマテリアルに特徴的な磁性・超伝導、熱電物性、格子物性、輸送現象のような物性を中心に据えて、実空間では複雑なハイパーマテリアルのダイナミクス・磁気秩序・電子状態等を補空間を使った物理で理解し、そこに潜む法則性(hidden order)を見出すことを目指す。
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研究実績の概要 |
1. 格子物性:異常高温比熱(余剰エントロピー)測定による補空間自由度の観測 様々な準結晶・近似結晶の高温比熱を測定した結果、準結晶は高温域でDulong-Petitの値から大きくはずれ、2/1、1/1、1/0近似結晶の順でDulong-Petitの値からのずれは小さくなることが明らかになった。これらの結果は準結晶の高温域における比熱上昇が補空間の自由度に結び付いたフェイゾン弾性に関連して生じている可能性を強く示唆するものである。フォノン-フェイゾン結合弾性についても実験が進行し、明らかになりつつある。 2. 電子状態と超伝導:電子状態の補空間マッピング、可視化 準周期系の電子状態について調べ、高次元性に着目した補空間マッピングによる準周期系の電子状態の可視化に成功した。準周期系の光学応答について理論研究を進め、準周期系に特有の光学応答について調べ特徴的な応答について明らかにした。超伝導についてはAu-Ge-Yb近似結晶をベースにした物質開発により、新たにAu-Ge-La近似結晶で超伝導を発見した。特筆すべき点として、準結晶・近似結晶の物質系ではじめての非従来型超伝導が発現している可能性が高い。加えて、2次元系のTa-Te準結晶で超伝導が発現することが明らかになった。 3. 量子臨界現象と磁性:準結晶の高次元性と物性、補空間と物性を結び付ける端緒 量子臨界現象を示すAu-Al-Yb準結晶・近似結晶の同形置換を行い、系統的に物性を調べた結果、Tsai型クラスター構造をもつYb系準結晶・近似結晶の磁性を共通の高次元結晶の格子定数を用いて整理することに成功した。Ybを含む新しい4元系の準結晶・近似結晶の開発に成功し、Yb系準結晶の非従来型量子臨界現象がAl系以外でも発現することを発見した。この系は1/1・2/1近似結晶、準結晶が作成可能であり、重要な物質系となると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
準結晶や近似結晶など、補空間を含む高次元空間で統一的に記述されるハイパーマテリアルは、その高次元性に起因して「補空間」という 実空間と直交する隠れた空間の構造自由度を有する特徴がある。Ybを含むTsai型のクラスター構造をもつ新しい4元系の準結晶・近似結晶の開発に成功し、Yb系準結晶の非従来型量子臨界現象がAl系以外でも発現することを発見した。この系は1/1・2/1近似結晶、準結晶が作成可能であり、貴重な物質系である。理論面からは準周期系の電子状態について調べ、高次元性に着目した補空間マッピングによる準周期系の電子状態の可視化に成功した。準周期系の光学応答について理論研究を進め、準周期系に特有の光学応答について調べ、実験で検出するための理論提案を行った。ハイパーマテリアルの補空間自由度を最も単純な形で反映した物性であると考えられている準結晶の高温比熱におけるDulong-Petit則の破れについて様々な準結晶・近似結晶について高温比熱を測定した結果、準結晶は高温域でDulong-Petitの値から大きくはずれ、2/1、1/1、1/0近似結晶の順でDulong-Petitの値からのずれは小さくなることが明らかになった。フォノン-フェイゾン結合弾性についても実験が進行し、いくつかの準結晶について明らかにありつつある。超伝導についてはAu-Ge-Yb近似結晶をベースにした物質開発により、新たにAu-Ge-La近似結晶で超伝導を発見した。特筆すべき点として、準結晶・近似結晶の物質系ではじめての非従来型超伝導が発現している可能性が高い。加えて、2次元系のTa-Te準結晶で超伝導が発現することが明らかになった。準結晶の熱電応用についても測定が進み、系統的な研究が進みつつある。以上のことからコロナ禍の影響は受けているが、研究計画は進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ハイパーマテリアルに特徴的な磁性・超伝導・量子臨界状態、熱電物性、格子物性、輸送現象を中心に据え、補空間に潜む法則性(hidden order)と補空間ダイナミクス・低エネルギー励起について下記のように役割分担して、理論・実験の双方から研究を行う。 ①磁性(実験:出口、理論:古賀、杉本、橋爪、中村):磁性・格子物性についてダイナミクス・低エネルギー励起に関する研究をA02班の松浦直人主任研究員(J-PARC CROSS:中性子散乱実験)と共同で中性子非弾性散乱の実験を進める。準結晶及びその近似結晶における磁気秩序・量子臨界現象に対して、有効模型を用いて準結晶の構造に由来する物性の解明と実験に対する理論的提案を行う。A02班と協力して新たな準周期タイリングの可能性について探索し、結晶とは異なる準結晶の物性とその起源について理論的な探求を進める。 ②格子物性(実験:枝川、理論:中村):A03班と協力してで異常高温比熱(余剰エントロピー)を観測する実験と分子動力学シミュレーションを組み合わせて、準結晶の高温域における比熱上昇が高次元の補空間の自由度との関係を調べる。フォノン-フェイゾン結合弾性に関して、単準結晶・一軸圧縮・X線回折を組み合わせた実験によりフェイゾン歪、結合弾性定数を調べる。A02班と共同で中性子非弾性散乱の実験を進め、準結晶のフォノンの分散関係の構造を詳細に調べる。準結晶に特徴的な格子物性について、音響フォノン+拡散モードとしてのフェイゾン(ギャップレスモード)に着目して研究を進める。 ③輸送現象(実験:出口、枝川、理論:杉本):超伝導ハイパーマテリアルについてA03班・A01班と連携して、新物質・新超伝導体探索を進める。また、正20面体準結晶に加えて正12角形準結晶についても純良準結晶・近似結晶の作製と準結晶や関連の近似結晶および新規金属間化合物の探索を進める。
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