研究領域 | 土器を掘る:22世紀型考古資料学の構築と社会実装をめざした技術開発型研究 |
研究課題/領域番号 |
20H05810
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅰ)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
小畑 弘己 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (80274679)
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研究分担者 |
MENDONCA・DOS・SANTOS ISRAEL 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 助教 (20900161)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
73,840千円 (直接経費: 56,800千円、間接経費: 17,040千円)
2024年度: 13,390千円 (直接経費: 10,300千円、間接経費: 3,090千円)
2023年度: 13,390千円 (直接経費: 10,300千円、間接経費: 3,090千円)
2022年度: 17,940千円 (直接経費: 13,800千円、間接経費: 4,140千円)
2021年度: 12,090千円 (直接経費: 9,300千円、間接経費: 2,790千円)
2020年度: 17,030千円 (直接経費: 13,100千円、間接経費: 3,930千円)
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キーワード | X線機器 / 土器 / 種実・昆虫 / AI同定 / AI / 基礎研究 / 軟X線機器 / 圧痕種実 / 圧痕昆虫 / 土器包埋炭化物 / 同定 / 付着炭化物 / 土器付着炭化物 / X線機器 / 農耕化 / 社会実装 / AI同定法 / 土器総合分析学 / 土器圧痕法 / AI技術 / 行政組織 |
研究開始時の研究の概要 |
土器内外に残る栽培植物や家屋害虫、有機性混和材、植物質の器具、付着・浸透物質は土器の製作・使用法だけでなく、農耕や栽培の始まりやその発展、土器作りの技術や土器や混入生物に対する製作者の意識なども読み取れる重要な情報源である。これらの情報を遺漏なく精確に得るために、最先端技術であるX線機器やAIを用いて全国の遺跡出土土器を悉皆的に調査しようというのが本研究の目的である。最終的には、開発した手法と機器の行政機関への実装を促し、さらに得られた情報を日本考古学が蓄積した精緻な土器編年網や遺跡情報上で整理し、新たな歴史観を創設する、世界に誇る22世紀型の考古資料学「土器総合土器資料学」の構築をめざす。
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研究実績の概要 |
基礎研究・応用研究:弥生開始期の穀物資料の年代学的研究として,佐賀県東畑瀬遺跡の土器包埋炭化物の年代測定およびX線機器による土器圧痕調査を本年度より長崎県南島原市の権現脇遺跡の土器を対象に実施し,突帯文期を中心に穀物を検出した。さらに,最古の水田址が検出されている佐賀県菜畑遺跡の出土土器においても突帯文期を中心に穀物圧痕を検出できた。現在年代測定中である。 かながわ考古学財団においては,柳川竹上遺跡(縄文時代中期後半)の6・8号住居跡出土土器を中心に軟X線による圧痕調査を行いのダイズやアズキ亜属,エゴマなどの栽培植物やニワトコ・カラスザンショウなどの有用木本類の種子圧痕約30点を検出した。福岡市埋蔵文化財センターにおいては,初期穀物導入期遺跡である福岡市橋本一丁田遺跡の出土土器(弥生時代早期)と縄文時代晩期中頃のアワやアワ圧痕が報告されている早良区重留遺跡出土土器の調査に着手した。他施設においては,鹿児島県姶良市前田遺跡(縄文時代中期後半)・岡山県彦崎貝塚(前期~後期)の表出圧痕土器の調査,千葉県取掛西貝塚(縄文時代早期・前期)・愛媛県宮ノ浦遺跡(縄文時代早期)・長崎県伊木力遺跡(縄文時代前期・後期)などの潜在圧痕調査を実施した。その結果,前田遺跡からはコクゾウムシ圧痕とともに,九州でも古い部類に入るダイズ属圧痕が検出された。取掛西貝塚では,割れたミズキの核が多量に入った土器を検出した。これ以外に,長崎県佐世保市泉福寺洞穴出土の豆粒文土器~隆線文土器文化層(縄文時代草創期)出土土器の混入物(植物繊維)の調査を実施した。 開発研究:旧同定システム(ArchAIological)について,英国の考古科学雑誌に掲載された。さらに画像処理工程を加えることで,70%の同定精度から78.2%まで向上させることに成功し,現在学術雑誌への投稿・査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
大陸系穀物の伝来時期の解明という課題を解決する新たな手法である「土器包埋炭化物測定法」により,二つの遺跡での研究成果が公開され,テレビ番組や新聞報道,科学雑誌の特集号などで大きく取り上げられた。これら手法を使用した北部九州地方を中心とした遺跡出土土器の調査によって,確実に穀物資料は増加しており,年代的な検証も可能となった。本計画研究の最も大きな成果の一つである。本手法は今後,弥生時代開始期の穀物資料と土器型式の関連,穀物の正確な流入時期を得ることのできる手法として,既存研究成果を再検証するとともに,それ以前の縄文時代の栽培植物自体の高精度年代編年の構築にも大きな効力を発揮するものと予想される。 X線機器による潜在圧痕の調査は,種実のみならず,蛾の幼虫の糞や縄文時代の網や繊維の検出にも大きな効力を発揮し,従前の研究では見えなかった,または発見できなかった考古資料群を検出しつつある。土器圧痕として検出される貝類や昆虫圧痕も当時の気候(住環境)や食利用,製塩,食料貯蔵などの証拠として注目されつつあり,これも新たな資料群として注目を集めつつある。 また,縄文時代のマメ類やシソ属などの栽培植物の多量混入土器の出土事例も日々増加し,X線機器による調査も各地で実施され,これらの意義の解明も課題となってきた。栽培植物以外の有用植物(木本類)の種子を入れた土器も多数検出されるようになった。これもX線機器による潜在圧痕調査が可視化した新たな研究対象であり,今後は弥生時代のイネ籾入り土器との関連性などが検討課題である。 これらはすべて本研究手法が新たに見出した資料群であり,考古学に新たな資料群と視点をもたらした本研究の大きな成果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
福岡市埋蔵文化財センターにおいては,弥生時代早期資料の悉皆的調査を中心に縄文時代全期にわたる資料の調査を行い,縄文時代早期~弥生時代早期にかけての植物利用の実態の解明を行う予定である。かながわ考古財団では最近調査された多量の縄文時代中期~後期前半期の土器資料が得られており,引き続きこれらを悉皆的に調査することで,縄文時代中期~後期にかけての植物利用や植物栽培の変遷を検証したい。そのため縄文時代後期前半の遺跡を選定しX線による調査を行う。これら2機関におけるX線機器による土器圧痕調査は,これら機器の考古学資料検出の有効性の検証でもあり,この点についても有効性に関する情報を得たいと考えている。 大陸系穀物資料の動向については,北部九州地方における調査がほぼ終了しつつあるので,それらの年代測定を実施し,穀物導入期に関する圧痕の出土状況を把握したい。さらには,東伝していく東日本~東北地方の状況については,既存圧痕研究に基づき,イネ籾入り土器を中心に調査を実施する。また,これを縄文時代の多量種実混入土器と比較することで,種実混入の意義についての一定の見解を示したい。 本年度は以下のようなスケジュールで調査・組織運営を行う。 5~6月:かながわ考古学財団への技術支援者の導入・研修,6月~3月:(福岡市)市内出土の縄文時代早期~弥生時代早期の土器群の軟X線による悉皆調査を実施,(神奈川県)子易遺跡をはじめとする縄文中期~後期土器群の軟X線による悉皆調査を実施,(熊本大学)長崎県権現脇遺跡・佐賀県十連B遺跡などの九州各地の縄文時代末~弥生時代早期相当期の土器群の調査を実施,6~12月:AIによる3D種実・昆虫画像のディープランニングとシステム開発,6~3月:国内外での研究成果発表。
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