研究領域 | 動的エキシトンの学理構築と機能開拓 |
研究課題/領域番号 |
20H05838
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 岡山大学 (2022-2024) 豊田工業大学 (2020-2021) |
研究代表者 |
山方 啓 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 教授 (60321915)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
72,930千円 (直接経費: 56,100千円、間接経費: 16,830千円)
2024年度: 9,230千円 (直接経費: 7,100千円、間接経費: 2,130千円)
2023年度: 9,230千円 (直接経費: 7,100千円、間接経費: 2,130千円)
2022年度: 18,460千円 (直接経費: 14,200千円、間接経費: 4,260千円)
2021年度: 30,550千円 (直接経費: 23,500千円、間接経費: 7,050千円)
2020年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
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キーワード | 光エネルギー変換 / 時間分解分光計測 / キャリアダイナミクス / 有機太陽電池 / 発光材料 / 光励起キャリアダイナミクス / 時間分解赤外分光計測 / 有機発光素子 / 電子移動 / エキシトン / 電荷分離 / バルクヘテロ接合 / 非フラーレン型アクセプター / 再結合 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では紫外から中赤外の過渡吸収をフェムト秒から秒の領域で測定できる独自の分光システムを利用してドナー・アクセプター(D・A)相互作用系における光キャリアの動きを解析することを目的としている。実験はまず構造が比較的単純なD・Aモデル分子を用い、次に複雑なD・Aデバイスにおける光励起ダイナミクスを解析する。さらに他の測定結果や理論計算と比較検証しながら統合解析を行う。このような研究を通じて核や格子の運動に連動したD・A相互作用系における動的エキシトンの学理を構築しデバイス性能向上に有用な知見として領域内にフィードバックする。
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研究実績の概要 |
近年、新しい非フラーレン型アクセプター(NFA)の開発に伴い、有機太陽電池の発電効率が飛躍的に向上している。したがって、さらなる発電効率の向上には、これらのNFAにおける光励起電子と正孔の動きを詳しく理解することが重要である。そこで、本研究では、分子振動数が局所的な電荷密度変化に敏感に応答することを利用して振動数変化からNFAの分子内における電子と正孔の分布を解析することを目的とした。 まず、NFAとして最も良く用いられるITIC薄膜にポンプパルスを照射してC≡N基の振動数変化を時間分解赤外分光計測を用いて調べた。その結果、暗状態で観察された2220 cm-1のピークは、光照射によって強度が減少し、2205 cm-1と2175 cm-1に新しいピークが出現した。これらのピーク強度はいずれも同じ速度で変化し、1000 ps以内に始状態に回復した。 次に電子ドナーであるPBDB-T分子とバルクヘテロ接合薄膜を調製し、ITICを光励起すると、ITIC単膜と同様に2220 cm-1の強度が減少し、2205 cm-1と2175 cm-1に新しいピークが出現した。しかし、2205 cm-1のピーク強度は光照射10 ps以内に減少し、2175 cm-1は1000 ps経っても減衰しなくなった。C≡Nの振動数は電子密度の増加と減少に対し、いずれも結合が弱くなり、振動数低下をもたらす。したがって、これらの新しいピークはそれぞれC≡N近傍に正孔と電子が局在化した状態に帰属される。そして、これらのピーク強度の時間変化から、ITIC単膜の場合には分子内あるいは分子間で電子と正孔が分離した状態が出現し、複合膜の場合にはITICからPBDB-Tへの正孔移動は10 ps以内に進行することが分かった。すなわち、時間分解赤外分光測定により、NFA分子内における電子と正孔の分布の変化を追跡できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非フラーレン型アクセプター分子における光励起キャリアの再結合過程は可視域の時間分解計測を行うことで詳しく調べられている。しかし、赤外域の時間分解計測を行うことで、分子内における電子と正孔の局所的な分布の変化を詳しく解析できることを世界に先駆けて示した。このようなNFAにおける時間分解赤外分光計測はまだほとんど普及していないため、このような計測を行うことで今後新しい情報が得られることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
近年、さまざまな非フラーレン型アクセプター分子が開発されているが、これらの構造の違いが、分子内電荷分離過程や異種接合界面における電荷分離過程にどのような影響を与えるのかまだ十分に理解されていない。現在報告されているNFAのほとんどはC≡N基を有しており、本研究で見いだした振動数変化を追跡する手法がそのまま適用できる。今後、様々なNFA分子に対してこのような時間分解赤外分光計測を応用し、得られた結果を蓄積していけば、発電効率の向上に役立つ知見が得られると期待している。
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