研究領域 | 次世代アストロケミストリー:素過程理解に基づく学理の再構築 |
研究課題/領域番号 |
20H05849
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
今田 裕 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 上級研究員 (80586917)
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研究分担者 |
日高 宏 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (00400010)
杉本 宜昭 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (00432518)
清水 智子 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (00462672)
金 有洙 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (50373296)
数間 恵弥子 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (50633864)
香内 晃 北海道大学, 低温科学研究所, 名誉教授 (60161866)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
186,290千円 (直接経費: 143,300千円、間接経費: 42,990千円)
2024年度: 23,140千円 (直接経費: 17,800千円、間接経費: 5,340千円)
2023年度: 23,140千円 (直接経費: 17,800千円、間接経費: 5,340千円)
2022年度: 23,140千円 (直接経費: 17,800千円、間接経費: 5,340千円)
2021年度: 43,940千円 (直接経費: 33,800千円、間接経費: 10,140千円)
2020年度: 72,930千円 (直接経費: 56,100千円、間接経費: 16,830千円)
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キーワード | 塵モデル表面 / 走査プローブ顕微鏡 / 反応素過程 / 単分子分光 / 透過型電子顕微鏡 |
研究開始時の研究の概要 |
分子雲から原始惑星系円盤形成までの構造形成の場は、化学反応が非常に活発に起こる分子進化の場であり、塵表面での分子の表面反応素過程の理解は、分子進化の全容を解明する上で非常に重要である。従来の星間化学では、極低温環境下における物理的にシンプルな仮定に基づき学理が構築されてきた。しかし近年、極低温から中間温度(10-300 K)にかけて、熱励起に起因する豊かな化学反応プロセスの重要性が指摘され、学理の再構築が必要不可欠な状況にある。本研究では、単一分子・原子レベルでの実空間観測・表面分光に基づき塵表面での反応素過程の詳細を解明し、極低温から中間温度における表面反応素過程の学理の再構築を目指す。
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研究実績の概要 |
原子レベルで平坦なモデル表面を作製するため、下部電極SrRuO3(SRO)と基板単結晶SrTiO3の表面の最適化を検討した。TiO2末端の平坦な表面を得るため、希薄な酸でSTO表面をエッチングした結果、ステップ-テラス構造が得られた。カンラン石群から3種類の膜(Mg2SiO4、FeSiO4、MgSiO3)を反射型高エネルギー電子回折でモニタしながら作製したところ、Mg2SiO4とMgSiO3はステップ-テラス構造を有し、SROの表面構造が膜の表面構造にとって重要であることが判明した。 星間分子雲での化学進化において本領域で重要性が指摘されている一酸化炭素の結晶を分析する準備段階として、酸素分子の単層膜の精密な分析を行った。STMとAFMによって、単層膜を高分解能観察したところ、これまでに言及されていないモアレ構造が確認できた。これを詳細に分析することによって、酸素分子の格子形状や基板に対する単層膜の回転角度を精度よく分析できることがわかった。AFMにおける構造解析が可能であることが確かめられたので、絶縁体である一酸化炭素分子の固体表面を分析する準備が整った。 極性を持つH2O分子の堆積により形成されるアモルファス氷は、分極により表面が負の電位を持つ。ナノスケール凹凸構造を持つアモルファス氷表面形状に依存した表面電位構造をAFMにより調べた。100Kの基板上に作成したアモルファス氷では、表面負電位の大きさは凹凸の大きさ(氷厚さ)でスケールできるのに対し、15Kの基板上で作成したアモルファス氷では氷の厚さではスケールできない複雑な表面電位構造を示すことが明らかになった。 多種類のガス吸着物が表面に存在する場合の走査型トンネル顕微鏡(STM)像に対する解析手法を改良した。数種類の吸着物が共存する場合に、極大点を見つけ、周囲との高さの差をヒストグラムにするプログラムを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原子レベルで平坦なモデル表面を作製するため、下部電極SrRuO3(SRO)と基板単結晶SrTiO3の表面の最適化を検討した。TiO2末端の平坦な表面を得るため、希薄な酸でSTO表面をエッチングした結果、ステップ-テラス構造が得られた。カンラン石群から3種類の膜(Mg2SiO4、FeSiO4、MgSiO3)を反射型高エネルギー電子回折でモニタしながら作製したところ、Mg2SiO4とMgSiO3はステップ-テラス構造を有し、SROの表面構造が膜の表面構造にとって重要であることが判明した。 銀基板上に超高真空中で酸素を低温吸着せることによって、酸素分子の単層膜を作製した。低温超高真空AFM/STMによる高分解能観察によって、酸素分子の格子形状と基板との回転角度を精密に分析することができた。回転エピタキシーとなっているドメインでは、基板との相互作用によって、格子が二等辺三角形から著しく歪んでいることが判明した。一方、不整合となっているドメインにおいては格子歪みが測定誤差の範囲で認められなかった。絶縁体である分子性固体を精密に分析する準備が整った。 アモルファス氷形状に依存した表面電位構造を調べるため、100Kと15Kの二つの蒸着温度でSi(111)7×7表面上に作成したアモルファス氷を用いて実験を行ったAFMによる形状測定により、氷表面の幾何構造が明らかに異なることを確認し、200nm×200nm観察視野内の400カ所で接触電位差測定を複数の氷試料で行い、形状データと局所的な表面電位データの取得を完了した。 データ解析手法の改善により、磁鉄鉱(111)面に水を吸着させた系において、ヒドロキシ基、水素、水分子の3つに分類できるようになった。酸化鉄ナノ粒子については、有機被膜の除去の必要性が明らかとなったが、酸素雰囲気下による脱離など、見込みある手法も見つけることができた。
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今後の研究の推進方策 |
パルスレーザー堆積(PLD)を用いてルテニウム酸ストロンチウム(SRO)薄膜上に作製した超薄膜Mg2SiO4およびMgSiO3の表面構造の測定結果から、SROの平坦なステップテラス構造は、Mg2SiO4およびMgSiO3の原子レベルに平坦な表面を得るための鍵であることがわかった。SROの微細な成長条件を調整し、原子レベルで平坦な表面構造を持つターゲット材料を成膜させる。 酸化鉄単結晶表面およびナノ粒子のSTM観察を継続する。単結晶表面に水と一酸化炭素を共吸着させた系のSTM像には多くの輝点が存在するため、吸着種の自動分類が可能なプログラムを構築した上でデータを解析する。ナノ粒子に対しては、酸素アニールまたはオゾン酸化により有機被膜を除去した上で原子配列の可視化を目指す。有機被膜の除去は、走査トンネル分光による電導度の確認に加え、散乱型近接場顕微鏡から振動情報を取得することで確認する。 試料に含まれる有機物、隕石やリュウグウ試料に含まれる有機物を超高真空低温原子間力顕微鏡(UHV-AFM)によって調べる。個々の有機物の形状を詳細に比較し、化学進化の過程に関する知見を得る。また、水や一酸化炭素の氷表面の構造やその上の原子分子の吸着構造と拡散の様子を調べるため、高力分解能を持つUHV-AFMを開発する。高力分解能を達成するため、レーザー干渉計からの光ファイバーを超高真空装置へ導入し、低温環境を維持したシステムを構築する。 低温で作成したアモルファス氷を結晶化しない程度の温度まで昇温させた時の表面構造と、初めから高温で蒸着した時の表面構造比較を行い、蒸着時の過渡拡散およびエネルギー散逸過程や各基板温度における熱拡散など、アモルファス氷形成過程においてその構造を決める各要素の影響の大きさについて研究を行う。
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