研究領域 | 高密度共役の科学:電子共役概念の変革と電子物性をつなぐ |
研究課題/領域番号 |
20H05864
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
深澤 愛子 京都大学, 高等研究院, 教授 (70432234)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
48,100千円 (直接経費: 37,000千円、間接経費: 11,100千円)
2024年度: 13,260千円 (直接経費: 10,200千円、間接経費: 3,060千円)
2023年度: 8,710千円 (直接経費: 6,700千円、間接経費: 2,010千円)
2022年度: 8,710千円 (直接経費: 6,700千円、間接経費: 2,010千円)
2021年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
2020年度: 9,360千円 (直接経費: 7,200千円、間接経費: 2,160千円)
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キーワード | π電子系 / 非ベンゼン系共役電子系 / 分子間相互作用 / 有機合成化学 / π共役 / 電子受容性π電子系 / 多段階酸化還元系 / 交差共役系 / アジン / 共役オリゴマー / 反芳香族 / 多段階酸化還元 |
研究開始時の研究の概要 |
非ベンゼン系共役電子系や典型元素の特徴を生かした分子設計により,C-H 結合の数を極限まで低減するという基本戦略のもと,電子受容性骨格による電子反発の軽減や,拡張π共役骨格による分散力の増強との相乗効果により,分子間空隙の最小化を目指す。また,中性状態・荷電状態双方の電子構造や構造特性を念頭においた分子設計により,非局在電子(軽い電子)・局在電子(重い電子)のそれぞれに適した分子骨格を創出する。得られた分子系をもとにA02-04班と協働することで,新しい分子間電子共役(“X”-conjugation)の概念を提唱し,従来の電子共役の科学を変革する。
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研究実績の概要 |
2022年度は,過年度に引き続き分子間空隙の極限的な縮小と電子局在性の制御を両立するために最適な新奇π電子系を創出することを目的に,独自に設計した標的分子の合成経路の開拓に取り組んだ.具体的な成果は以下の2点に集約される.
1) 関グループ (A03班) との共同研究により,2021年度に合成を達成したベンゼン縮環ペンタフルバレンオリゴマーの電荷輸送特性の評価を行い,FP-TRMC測定の結果,これまでに得られたオリゴマーの中で最長の三量体が 0.06 cm^2/V s という比較的大きな鎖内の電子移動度をもつことを明らかにした.また,一連のオリゴマーの過渡伝導度には明確な鎖長依存性が観測され,鎖長が短い単量体や二量体と比べて,三量体では1桁以上の過渡伝導度の向上が認められた.以上の結果から,ペンタフルバレンオリゴマーおよびポリマーは「軽い電子」を実現する上での優れた分子ワイヤーであることが確かめられた.
2) 上述のジベンゾペンタフルバレンは,分子内のC-H結合間の立体反発によりわずかにねじれた構造をもつ.より高密度に集積した構造を実現することを指向し,分子内立体反発の解消と分子間の交換反発の軽減が可能な新たな分子骨格として,インデノンアジン (IA) を基本骨格とするπ共役系を新たに設計した.置換基をもたないIA はイミン部位の配置が異なる3種類の異性体混合物として得られるのに対し,分子内にメトキシ基やヒドロキシ基を導入することで単一のジアステレオマーを合成することに成功した.結晶構造解析により,一連の IA が平面性の高い構造をもつことに加え,置換基の立体障害の小さなヒドロキシ置換 IA は 3.4 オングストロームを下回る近接積層構造を形成することを見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請当初に,高密度共役の実現と電子質量制御を両立するための基本指針として,(1) 非ベンゼン系共役電子系と多彩な元素の活用によるC-H結合の軽減,(2)電子受容性骨格による交換反発の軽減,(3)分子骨格の適切な選択による電子質量のデザイン,という3つの分子設計のコンセプトを計画した.過年度までに開発したペンタフルバレン多量体やジアザペンタフルバレンに加え,今年度のインデノンアジンを基本骨格とする高平面性交差共役系の創製を通して,基本コンセプトである (1) (2) の有効性を実証しつつある.さらに,項目(3) に関する成果として,これまでにに合成に成功したペンタフルバレン多量体が,「軽い電子」を実現しうる基本骨格としての潜在性をもつことを領域内共同研究により明らかにすることに成功している.本研究の遂行にあたっては,オンライン会議やチャットツールの活用により未発表結果も含めて領域内で迅速に共有しているほか,領域内研究者との活発な意見交換をもとに既にA01,A03,A04班の研究者との共同研究の取り組みも行っている.以上の状況から,本研究はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度中に論文投稿へ至らなかった進行中の研究を詰めると共に,以下の研究に取り組む. 1) 軽い電子をもつ高密度共役系の候補として,チオフェンやピラジンを縮環部位にもつペンタフルバレンオリゴマーの合成法の開拓に引き続き取り組み,高密度共役により適したπ共役オリゴマーの実現を目指す.また,すでに合成に成功している分子群についても,圧力印加条件で分子間空隙を最小化することで,高密度化がもたらす物性の違いを解明する. 2) 重い電子をもつ高密度共役系の候補として,芳香環縮環型ペンタフルバレンやチオラクトンを用い,アルカリ金属を用いた還元により,アニオンラジカルやジアニオン種の単離,構造解析を引き続き検討する.特に開殻種の空間配置や充填密度に対して,対カチオンとなるアルカリ金属のサイズが及ぼす効果を検証する.精密構造解析へと順次速やかに展開する.
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