研究領域 | 高密度共役の科学:電子共役概念の変革と電子物性をつなぐ |
研究課題/領域番号 |
20H05865
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
久保 孝史 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (60324745)
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研究分担者 |
瀧宮 和男 東北大学, 理学研究科, 教授 (40263735)
芥川 智行 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (60271631)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
176,670千円 (直接経費: 135,900千円、間接経費: 40,770千円)
2024年度: 36,920千円 (直接経費: 28,400千円、間接経費: 8,520千円)
2023年度: 38,220千円 (直接経費: 29,400千円、間接経費: 8,820千円)
2022年度: 38,220千円 (直接経費: 29,400千円、間接経費: 8,820千円)
2021年度: 32,370千円 (直接経費: 24,900千円、間接経費: 7,470千円)
2020年度: 30,940千円 (直接経費: 23,800千円、間接経費: 7,140千円)
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キーワード | 高密度共役 / X-conjugation / 分子間相互作用 / 分子積層 / 熱運動抑制 / 分子集積 |
研究開始時の研究の概要 |
有機化合物が集合化してできる分子性固体では,分子間に働く相互作用が弱いことから分子が緩やかに結合した状態にあり,分子間には多くの隙間が存在する。本研究課題では,不対電子間相互作用,静電相互作用,カルコゲン結合などの分子間相互作用を徹底的に活用することで,分子間空隙を極端に排除した高密度の分子集積状態を達成し,熱による分子の運動を極限まで抑制し制御することと,分子の波動関数を物質全体に広げることで,“分子”を超越した新しい電子状態“X”-conjugation を物質内に固定化することを目指す。
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研究実績の概要 |
有機化合物が集合化してできる分子性固体では分子間に働く相互作用が弱いことから,分子が緩やかに結合した状態にある。そのため,室温程度の低いエネルギーであっても,電気伝導や超伝導などの巨視的物性を妨げる要因となる。また,緩やかな結合状態であるために分子間の波動関数の重なりが大きくならず,分子の個性を大きく超える物理現象を発現させるのが難しいという欠点にもつながる。このような有機物質の“常識”を覆すには,分子を著しく密集させることで常態からの脱却を図る必要がある。本研究課題では,分子間に働く相互作用を極大化することで,分子間空隙を極端に排除した高密度の分子集積状態を達成し,熱による分子の運動を限りなく抑制することと,分子の波動関数を物質全体に広げることで,分子を超越した新しい電子状態“X”-conjugationが備わる物質を生み出すことを目指している。 2021年度は,不対電子間相互作用,静電相互作用,カルコゲン結合を利用した高密度共役実現のための分子合成を行った。具体的には,ハロゲン原子を導入したフェナレニルラジカル誘導体の合成,アニオン性n型半導体材料であるNDI誘導体の分子集合体の構築,セレノメチル基を導入したピレン系半導体化合物の合成,メチルカルコゲノ基を有するベンゾジカルコゲノフェン誘導体(計9種)の合成,の成果を得た。また,合成した化合物や分子集合体の物性評価を行った。得られた研究成果は,高密度共役を実現するための重要な知見を与えるものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の成果を以下に述べる。 1)不対電子間相互作用を用いた分子間空隙の極小化・固定化(久保):π平面同士が極限まで密着・固定化された分子集積体を得るため,分子骨格周辺部にハロゲン原子を導入したフェナレニルラジカル誘導体の合成に挑んだ。既知化合物であるフェナレノンを出発物質として7段階でトリブロモフェナレノンの合成・単離に至った。今後は還元,脱水素反応により,目的のラジカルの生成を行う。また,フェナレニルラジカルを分子内に3個有するプロペラ状化合物の合成・単離に至った。この成果はラジカル二次元集積体の構築につながる重要な知見である。 2)静電相互作用を用いた分子間空隙の極小化・固定化(芥川):多彩な分子間相互作用が共存する分子集合体では,静電相互作用と多点van der Waals相互作用のバランスが,優れた電子輸送特性の実現に重要であった。結晶格子の熱的な揺らぎが小さくする最適な対カチオン鎖長が存在し,その設計指針の提出に成功した。 3)カルコゲン結合を用いた分子間空隙の極小化・固定化(瀧宮):カルコゲン原子相互作用が固体状態における分子間相互作用に与える影響を検討するため,ヘテロアセン系有機半導体やカルコゲノメチル基をもつ種々の有機半導体の開発に成功した。また,量子化学計算,分子動力学シミュレーションなど,カルコゲン原子が分子固体中で如何なる効果を持つか検討するための計算化学的な手法を検討し,種々の含カルコゲン有機半導体に適用できる準備を整えることができた。さらに,単結晶トランジスタによる低温での評価が可能なセットアップを構築し,移動度の温度依存性評価を行えるようになるなど,今後の研究のための新たな手法を確立できた。
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今後の研究の推進方策 |
分子間空隙を極小化し固定化するには,分子軌道の広がりや結晶中における分子同士の相対配置などが重要であることから,かなり緻密な分子設計が要求される。これまでの研究で,強い分子間相互作用に関する知見はある程度得られているものの,著しく接近した距離でπ平面同士を固定化するには不十分であることから,新たな分子設計指針に資する知見を得る必要がある。そこで,全研究期間の前半においては,強い相互作用を生み出す基本分子骨格や,置換基の種類・位置・数などを多角的に検討し,有望な分子をいくつか選出することを目標とする。 2022度は前年度に引き続き,全体計画の一部を継続的に実施する。 1)不対電子間相互作用を用いた分子間空隙の極小化・固定化(久保):フェナレニルラジカルにハロゲン原子を導入した化合物の合成を引き続き行う。また,不対電子の数を増やすことでπ平面同士が極限まで密着・固定化された分子集積体を得るため,マルチラジカル性を有する新規分子の合成を行う。 2)静電相互作用を用いた分子間空隙の極小化・固定化(芥川):アニオン性n型有機半導体材料であるNDI骨格のさらなる分子設計を試みる。高い電子移動度を示す高密度共役を実現するために,アニオン部位の構造自由度を増加させたエチルスルフォネート置換誘導体における検討を進める。 3)カルコゲン結合を用いた分子間空隙の極小化・固定化(瀧宮):今年度確立したメチルセレノ基の効率的導入法,縮合多環芳香族の選択的置換基導入法などを用い,種々の含カルコゲン有機半導体を合成するとともに,計算化学を用いた解析を実施し,高密度共役を実現しうる分子設計法を導出すべく,分子構造ー結晶構造ー電気的特性の相関を明らかにしつつ研究を進める。また,分子間相互作用の評価を出発点とする結晶構造予測についても検討を行う。
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