研究領域 | 不均一環境変動に対する植物のレジリエンスを支える多層的情報統御の分子機構 |
研究課題/領域番号 |
20H05907
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松林 嘉克 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (00313974)
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研究分担者 |
望田 啓子 (桑田啓子) 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特任講師 (70624352)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
60,060千円 (直接経費: 46,200千円、間接経費: 13,860千円)
2024年度: 16,120千円 (直接経費: 12,400千円、間接経費: 3,720千円)
2023年度: 16,120千円 (直接経費: 12,400千円、間接経費: 3,720千円)
2022年度: 11,960千円 (直接経費: 9,200千円、間接経費: 2,760千円)
2021年度: 11,310千円 (直接経費: 8,700千円、間接経費: 2,610千円)
2020年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
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キーワード | シロイヌナズナ / 環境応答 / 窒素栄養 / 長距離シグナリング / 硝酸トランスポーター / 篩管 / ペプチド / 窒素欠乏 / フォスファターゼ / 脱リン酸化 |
研究開始時の研究の概要 |
動き回ることのできない植物は土壌中の窒素などの栄養源に代表されるような空間的に不均一な環境に適応する必要があり、また光合成を行なう気相と栄養吸収を行なう土相という異なる環境空間にまたがって生育するため、地上部と地下部の双方において変動する環境情報を時空間的に統合して適応する必要に迫られる。本研究では、これらの不均一変動環境への適応過程に関わる長距離シグナル伝達に着目し、その分子群の同定や情報統御メカニズムの解明を目指す。
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研究実績の概要 |
動き回ることのできない植物は,土壌中の窒素などの栄養源に代表されるような空間的に不均一な環境に適応する必要がある.また光合成を行なう気相と栄養吸収を行なう土相という異なる環境空間にまたがって生育するため,地上部と地下部の双方において変動する環境情報を時空間的に統合して適応する必要に迫られる.本研究では,これらの不均一変動環境への適応過程に関わる長距離シグナル伝達に着目し,その分子群の同定や情報統御メカニズムの解明を目指している. 1.葉から根に移行する窒素要求シグナルCEPD/CEPDL2が,どのように根でターゲット遺伝子群の発現を誘導するのかを明らかにするために,CEPDL2-GFPをベイトとしたCo-IP/MS解析を行なった結果,転写因子であるTGA1/4が単離された.CEPD/CEPDL2はコアクチベーターとしてTGA1/4を介したターゲット遺伝子群の転写活性化に関わっていると考えられる. 2.CEPD/CEPDL2ペプチドはシロイヌナズナで21個の遺伝子からなるファミリーを形成しているが,その中にCEPDとは逆に過剰発現で窒素吸収を抑制する分子群GrxS1-S8を見出した.これらは,CEPD/CEPDL2と拮抗して窒素恒常性に関わっている可能性が考えられたため,両者の関係性を遺伝子レベルおよびタンパク質レベルで解析している. 3.LRR-RKサブファミリーXIに残された3つのオーファン受容体が,ペプチドホルモンPSYの認識に関わっていることを突き止め,成長とストレス応答との切り替えに関わることを明らかにした.自然界では植物は時空間的に不均一なストレスにさらされているが,ダメージを受けた領域の周辺で局所的にストレス応答が誘導される新たなしくみを見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全身的窒素要求シグナリングでは,これまでに道管移行ペプチドCEP-受容体CEPR-篩管移行ペプチドCEPD-フォスファターゼCEPHなどの主要コンポーネントが明らかになっているが,①窒素欠乏の根におけるCEP誘導のメカニズム,②葉におけるCEPR活性化からCEPD誘導までの分子機構,③根に移行したCEPDが根圏の窒素状況依存的に硝酸取り込みを活性化するメカニズム,などについてはまだ明らかになっていない.それぞれに関わる分子群を見出すことは全身的窒素要求シグナリングを理解する上で不可欠である. 今回の結果から,CEPD/CEPDL2は根で転写因子TGA1/4と直接結合し,コアクチベーターとして下流遺伝子群の発現を制御していることが明らかになった.この知見は,③のメカニズムを解明する上で,大きな前進である.また,CEPD/CEPDL2とは逆に葉の窒素十分を根に伝えるシグナルGrxS1-S8の存在も明らかになったことから,植物体の窒素恒常性は,両者のバランスで維持されている可能性が高い.また,①と②の解析では,トランスクリプトームやリン酸化プロテオミクス,共免疫沈降などによってシグナリングに関与する分子群の探索を進めており,得られた候補分子について欠損株の表現型観察やCEP応答性を解析している.
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に記した①から③の各項目の研究を引き続き進めていく.特にCEPD/CEPDL2が結合する転写因子を同定できたことや,CEPD/CEPDL2と機能的に拮抗するGrxS1-S8が見出されたことは,植物の窒素恒常性メカニズムの理解に大きな前進であるため,これらの相互関係の解明を中心に研究を進めていく.
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