研究領域 | 脳の若返りによる生涯可塑性誘導ーiPlasticityー臨界期機構の解明と操作 |
研究課題/領域番号 |
20H05921
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
金丸 隆志 工学院大学, 先進工学部, 教授 (10334468)
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研究分担者 |
合原 一幸 東京大学, 特別教授室, 特別教授 (40167218)
信川 創 千葉工業大学, 情報変革科学部, 教授 (70724558)
スヴィリドヴァ ニーナ 東京都市大学, 情報工学部, 講師 (70782829)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
53,950千円 (直接経費: 41,500千円、間接経費: 12,450千円)
2024年度: 11,050千円 (直接経費: 8,500千円、間接経費: 2,550千円)
2023年度: 11,050千円 (直接経費: 8,500千円、間接経費: 2,550千円)
2022年度: 11,050千円 (直接経費: 8,500千円、間接経費: 2,550千円)
2021年度: 10,400千円 (直接経費: 8,000千円、間接経費: 2,400千円)
2020年度: 10,400千円 (直接経費: 8,000千円、間接経費: 2,400千円)
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キーワード | 臨界期 / E-I balance / 神経回路モデル / 擬アトラクタ― / リザバー計算 / 擬アトラクター / 神経回路網モデル |
研究開始時の研究の概要 |
ヒトをはじめとする動物の脳の神経回路は、生後発達期に外界から受けた刺激に大きく左右される。この時期は「臨界期(critical period, CP)」と呼ばれる。さらに、脳卒中などの脳損傷後に機能回復の能力が高い一種の「臨界期」が生ずることが知られている。臨界期の開始・終了・再開のメカニズムを知り神経回路の可塑性をコントロールできれば、脳損傷後の機能回復を促進できると考えられる。 そこで本研究では、臨界期を発達期に限らず「神経回路の再編成が顕著に高い限られた時期」ととらえ直し、その開始・終了・再開のメカニズムを計算論的神経科学の観点から明らかにすることを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、「神経回路網再編成の可能性が高い限られた時期」である「臨界期」の開始・終了・再開のメカニズムを計算論的神経科学の観点から明らかにすることを目指している。これまで、皮質第2/3層の興奮性細胞集団と第4層の抑制性細胞集団からなる数理モデルを構築し、その解析を行ってきた。臨界期の開始には細胞の興奮性集団と抑制性集団の活動のバランス(E-I balance)の成立が関わっていると言われているが、このE-I balanceがもたらす情報処理性能の向上について研究を進めている。 ネットワークの情報処理性能を評価するため、「リザバー計算」の概念を導入した。それにより、ネットワークの非線形ダイナミクスを、入力信号の情報を記憶する「リザバー」とみなし、ネットワーク外部のリードアウトと呼ばれるニューロンで入力信号を再現する「短期記憶タスク」の実験を行った。その結果、E-I balanceの実現によってネットワークの記憶容量が最大化することが明らかになった。 この結果は、2つの独立なネットワークで確認されている。1つ目のネットワークでは、「カオスの縁」に位置するシステムのカオス的な同期遷移により、2つ目のネットワークでは結合強度が従う確率分布のロングテール性により、記憶容量の最大化が起こっていると考えられる。このように、E-I balanceによる記憶容量の最大化は様々なネットワークにおいて共通して成り立つ性質である可能性がある。さらに、脳の神経修飾機構を模した自己制御機能をリザバーネットワークに導入して、注意機構との関係などを議論した。 以上の結果は、「臨界期」における神経細胞集団の情報処理能力を調べるための第一歩と言える。リザバー計算の異なるタスクの検討や、リザバー自体の非線形ダイナミクスの解析、リザバー内部のネットワークへの学習の導入など、様々な観点から研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「臨界期」を理解するための基礎となる神経ネットワークモデルの構築とそのダイナミクスの特徴づけが完了していること、さらにリザバー計算の導入により、E-I balanceが情報処理能力を向上させる可能性を、2つの独立なネットワークモデルにより提示できていることがその評価の理由である。 E-I balanceによる記憶容量の最大化を2つのネットワークモデルにより示すことができたのは、令和4年度に信川博士とスヴィリドヴァ博士を研究分担者として迎えたことによる成果であり、その点も評価の理由として挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
臨界期下におけるネットワークダイナミクスの情報処理能力については、「リザバー計算」の考え方に基づいた学習手法を用いた研究を一つの柱として継続する。その研究においては、実験データと定量的な比較ができるモデルとするということを目標の一つとしている。例えば、神経活動の実験データでみられるガンマ帯域(40Hz前後)の自発活動や刺激応答との比較が行えることを目指す。それにより、臨界期における情報処理についてのさらなる知見が得られると考えられる。 その一方で、「リザバー計算」の「リザバー」の部分の学習、いわゆるリカレントニューラルネットワークの学習則のモデルへの導入も行う。様々なネットワークでの学習におけるE-I balanceの役割を探ることで、臨界期の意義についての理解も深まると考えられる。 また、臨界期と「注意」との関わりに関しては、瞳孔径の実験データに対して非線形時系列解析を実施し、決定論性と複雑性に関する解析を行っている。その結果、注意欠陥多動性障害により瞳孔径の複雑性が低下すること、すなわち注意機能の状態が神経活動ダイナミクスに反映されることを明らかにしてきた。今年度は、昨年度の研究費により導入したアイトラッカーと脳波計との同時計測により、瞳孔径からの神経活動の成分の抽出を目指す。
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