研究領域 | DNAの物性から理解するゲノムモダリティ |
研究課題/領域番号 |
20H05934
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高田 彰二 京都大学, 理学研究科, 教授 (60304086)
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研究分担者 |
剣持 貴弘 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (10389009)
石本 志高 佐賀大学, 理工学部, 教授 (30391858)
山本 哲也 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任准教授 (40610027)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
135,850千円 (直接経費: 104,500千円、間接経費: 31,350千円)
2024年度: 23,790千円 (直接経費: 18,300千円、間接経費: 5,490千円)
2023年度: 26,000千円 (直接経費: 20,000千円、間接経費: 6,000千円)
2022年度: 29,380千円 (直接経費: 22,600千円、間接経費: 6,780千円)
2021年度: 33,020千円 (直接経費: 25,400千円、間接経費: 7,620千円)
2020年度: 23,660千円 (直接経費: 18,200千円、間接経費: 5,460千円)
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キーワード | クロマチン構造転移ダイナミクス / ゲノムDNAの構造転移ダイナミクス / SMCタンパク質 / 染色体ダイナミクス |
研究開始時の研究の概要 |
「ゲノムモダリティ」領域は、ゲノムの3次元的な物理構造とそれに起因した機能研究を目指す。領域内で唯一の理論研究である本研究課題は、領域の実験研究者との共同研究を通じて、計測データを物理モデルで説明することによって生物学的知見を深化させる。まず物理基盤として、DNAからヌクレオソーム、クロマチン、染色体に至るゲノムの階層構造をマルチスケールな物理理論・シミュレーション研究によって明らかにする(図1)。また、間期および分裂期の染色体構造はいかにして形成されるのかをSMCタンパク質(コヒーシン・コンデンシン)のDNAループ押出し機能を中心に、構造シミュレーションと物理モデルによって解明する。
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研究実績の概要 |
(1)バクテリアSMCタンパク質が、ATP加水分解依存的に基質であるDNAを移動させる分子機構を解明するために、分子動力学シミュレーションを実施し、DNAセグメント捕捉によるDNA移動を実現し、その一方向性の原因として kleisinループの非対称配置が重要であることを見出した。 (2)ゲノムサイズDNAの高次構造と遺伝子発現活性との関連を明らかにすることを中核的な課題と位置付けて研究を進めた。特に、蛍光顕微鏡によるDNA一分子計測およびMD/MCシミュレーション解析を実施し、ゲノムサイズDNAの動的挙動について明らかにする。また、無細胞系発現実験を行い、DNA高次構造転移による遺伝子発現活性制御機構に関して定量的に検証した。 (3)メゾスケールモデルの開発を進めた。具体的には、シミュレーション実行環境を整え、ヌクレオソーム衝突マルチスケールアルゴリズムの開発を行った。後者により近接ヌクレオソームのμ秒スケールの挙動をより忠実に再現できた。また、A01-2班・瀧ノ上らと新プロジェクトを始動し、A02-1班・岡田らと連携し、DNA液滴相分離や非ヌクレオソーム型精子クロマチン凝縮に関する理論およびシミュレーション研究を行った。 (4)分裂期染色体の形成におけるコンデンシンの役割を明らかにするために、トポイソメラーゼIIとコンデンシンのループ押出しが抑制された系で、DNAが形成するビーン構造の形成機構を理論的に解析した。本理論によって、コンデンシン-コンデンシン相互作用とヌクレオソームの形成によるエネルギー低下が、ビーン構造のコンパクトなコアとその外側に形成されるハローをそれぞれ安定化することを理論的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)前年度に引き続いてバクテリアSMCタンパク質によるDNA移動の分子機構解明のために、分子動力学シミュレーションを実施し、その結果の分析を進めた。とくに、DNA移動の一方向性の原因を探求し、それがkleisinループの非対称な配置によることを突き止めた。分子動力学シミュレーションによってSMCタンパク質のDNA移動を実現したのは世界で初めてであり、おおきな成果である。 (2)ゲノムサイズDNAの動的高次構造変化に関して、蛍光顕微鏡を用いて溶液中のDNA一分子ゆらぎを計測し、DNA直軸長の時系列データの自己相関関数を求めることにより、一分子レベルの粘弾性係数を定量的に評価可能であることを示した。また、無細胞系発現実験を行い、DNA高次構造転移が遺伝子発現の促進および抑制に関して直接的に寄与し、遺伝子発現活性を制御可能であることを明らかにした。 (3)メゾスケール高分子モデルに関しては、ヌクレオソーム衝突アルゴリズムの見直しを行い、計算機実験結果に基づいた2スケールアルゴリズムの開発を行った。また、新規計算機システムの設置、初期構築を行い、高速シミュレーション実施基盤を整えた。岡田らとの精子DNA凝縮に関する議論を深め、新たに瀧ノ上らとDNA液滴に関する議論およびシミュレーション初期設計を行った。 (4)前年度の絡み合ったDNAの体積相転移の理論モデルを拡張し、コンデンシン-コンデンシン相互作用を多価と仮定した時のビーン構造の理論モデルの構築を行った。昨年度行った転写凝集体とスーパーエンハンサによる転写活性化の理論モデルの拡張として、核小体のサブコンパートメントの制御機構の理論を構築している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)真核生物のSMCタンパク質であるコヒーシンにおいても、バクテリアSMCと同様の作動原理が働いているかを解明することが、次の大きな課題である。また、基質DNAにタンパク質が結合した状態におけるDNA移動のメカニズムも興味深いものである。今後はこれらの分析を進める。 (2)ヒストンやポリアミン、各種の多価カチオンなどのDNAの高次構造に対する作用を、蛍光顕微鏡による一分子DNA観察の手法を活用することにより調べる。また、遺伝子発現活性変化の定量的な計測も進める。静電相互作用を取り入れたMDシミュレーション解析も行い、対イオンの併進エントロピーの効果なども含めて、DNA高次構造転移と遺伝子発現活性に関する新規な理論モデルの創出を目指す。 (3)モデル構築をさらに進める。具体的には、ヌクレオソーム衝突アルゴリズムの数学的整備と高速精緻化に向けたさらなる改良、衝突アルゴリズム高速化とリンカーDNA物性や周囲環境の実装を進め、シミュレーションの完成および実験との比較・検証を目指す。また、A01-2班・瀧ノ上、A02-1班・岡田らと連携し、DNA液滴相分離や非ヌクレオソーム型精子クロマチン凝縮に関する理論およびシミュレーション研究を行う。 (4)今年度の研究で構築したビーン理論によって、トポイソメラーゼIIとヒストンシャペロンを抑制した時に形成されるスパークラー構造に関するアイデアを得ることができた。来年度は、平野計画班と連携して、スパークラーの理論モデルを構築し、ヒストンシャペロンとコンデンシンの活性に関する相図の完成を目指す。また、進捗が滞っている転写モデルの構築も深谷公募班と連携して行う。
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