研究領域 | 素材によって変わる、『体』の建築工法 |
研究課題/領域番号 |
20H05948
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
秋山 正和 富山大学, 学術研究部理学系, 准教授 (10583908)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
72,930千円 (直接経費: 56,100千円、間接経費: 16,830千円)
2024年度: 13,780千円 (直接経費: 10,600千円、間接経費: 3,180千円)
2023年度: 13,780千円 (直接経費: 10,600千円、間接経費: 3,180千円)
2022年度: 13,780千円 (直接経費: 10,600千円、間接経費: 3,180千円)
2021年度: 13,130千円 (直接経費: 10,100千円、間接経費: 3,030千円)
2020年度: 18,460千円 (直接経費: 14,200千円、間接経費: 4,260千円)
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キーワード | 数理モデル / 形態形成 / 数値計算 / 反応拡散方程式 / 形づくり / 応用数学 / 現象の数理モデル / 後期発生 |
研究開始時の研究の概要 |
複雑な生命現象の理解では,本質のみを抽出した数理モデルが有効であると考え,「現象を出来るだけ少ない変数の数理モデルで表す」という手法を用いて,これまでに,実験研究者との共同研究成果を挙げてきた.形態形成は,生命現象としての複雑さに加え,3D形態という幾何学の複雑さを含むからこそ,それを理解するためには,現象を少ない変数の数理モデルで表現することが有効である.本研究では,カワカイメンとゼブラフィッシュのヒレ骨形成を対象とし,「剛性の高い棒(針)状素材の組み立て」を表す数理モデル化を行う
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研究実績の概要 |
本領域では,生物の形態形成に着目し,その形成過程から得られる知見を,我々の身の回りにあるような製品等へ応用展開することを最終的な目標としている.特に,秋山班では,針状素材もしくは形の数学的表現方法といった理論的研究だけでなく,数理モデルを用いたトップダウン的研究,実際の計測データを用いたデータ解析的研究,計測データの取得方法を提案する理論研究など,数学を用いて多面的にアプローチすることで,針状素材を用いた建築原理を明らかにしようとしている. 本年度は,カイメン動物の骨片骨格のデータ解析を行った.骨片一本は,3D空間内において複数の線分からなる集合として多数記録されている.この時,どのように骨片が他の骨片と絡まっているかを線分同士の角度(内積値)を用いて分析した.結果として,ある限定された領域内では直交していることがわかった.なお,井上班と共同研究している3次元のカイメン骨格シミュレーターでも骨片の直交性を確認できている. また,公募班の小島班は,昆虫肢の形態形成を研究しているが,その中で上皮細胞,基底膜,クチクラといった構造がどのように連携して,パルテノン神殿様の構造を作っているかは不明であり,特に上皮細胞群が最終的に,側方の近接関係を保ったまま基底膜付近に整然と並ぶメカニズムが不明であった.そこで, toyモデルの作成を行った.具体的には,上皮細胞,基底膜,クチクラを質点や関数として表現し,これらの変数を線形バネモデルとしてカップルさせたものである.上皮細胞同士の接着力,細胞と基底膜との接着力,細胞とクチクラとの接着力をパラメタとしていくつか動かしたところ,上皮組織としてある程度の構造を維持するためには,たとえクチクラや基底膜の起伏が少なくなくとも,ある程度接着力があったほうがいいことが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大澤班との共同研究では,ショウジョウバエ翅・脚の形態形成に関する共同研究を行っている.翅・脚は発生の際に形が大きく変形し,袋状の構造物を作る.この構築の際,細胞はほぼ分裂せず,細胞死もほとんど起こらないとされる.また,細胞の隣接関係もほぼ変わらず変形することから,一種のゴム風船のように膨らむような変形様式と考えられる.しかし,形態の変化は一定ペースで生じるのではなく,ある時間から急速に変化することがわかっている.このような形態の変化が生じるメカニズムに関しては,これまでの大澤班の研究により,分子遺伝学的な知見は溜まりつつある一方で,マクロな形態をつくるための力学的なプロセスに関しては不明である.この問題に対して,Vertex Dynamics Modelを用いて2次元の数理モデルを構築した.モデルは一層の細胞からなり,Apical/Basal/Lateralそれぞれで辺の長さを保存し,さらに細胞の面積も保存するように設計した.モデルに対するいくつかの考察の結果,Basal面は最終的には縮み,Apical面は伸びる形態変化が起こるパラメタ条件を見つけた.しかし,この変化は実際の実験条件で見られるような急速なものではなく,ゆるやかに生じるものであり,実験と符合しないことが問題である.そこで,細胞極性の効果を導入した新しいモデルを構築しつつある. また,領域の活動をアピールするために,数理生物学会において「生物の形態形成と細胞運動に関する実験・数理的な取り組み」と題して,本領域の班員をメインとしてオーガナイズシンポジウムを開催した.
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今後の研究の推進方策 |
大澤班との研究では,プロトタイプとなる数理モデルが構築できているため,パラメタ探索によりまず現象の再現を試みることが先決である.上述のように,変形の時間スケールとして緩慢フェーズと急速フェーズがあり,実験的にも矛盾のないモデル構築を行う計画である.また,モデルは複数の計算項からなるため,どの計算項が主要な働きをしているかを数理解析によって明らかにしたい.具体的には,細胞の変形をどの程度まで許すかという点において,ある程度パラメタの範囲は決まっているが,この範囲の中で,最も効率よく変形を生じるようなパラメタを計算によって求め,それを実際の系と比較することで,形態変化の意味づけを検討したい. また,Vertex Dynamics Modelの研究を数学的に進めるにあたり,与えられた頂点での法線を計算する必要性が生じた.連続曲線では,曲率や捩率などのような幾何的な不変量を考えることが可能であるが,離散点しかない場合は,端点で通常の意味では微分を考えることができない.このため,微分の概念を拡張するか,幾何的な不変量自体を離散点でも定義できるようにする必要があった.そこでスキーム:「連続曲線の場合で成立するような条件式(例えばフレネセレ機構)が離散の世界でも成り立つように,幾何的な不変量を定め,その数値計算スキーム」をつくることを目標としたい.予備的な検討で,ある種の界面現象で未解決問題とされていた問題に対して,スキームが作れるかがわかりつつある.このスキームを使うと,例えば,数値計算で計算精度を落とすことなく,計算をすることが可能となる.
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