研究領域 | 情動情報解読による人文系学問の再構築 |
研究課題/領域番号 |
21H05060
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研究種目 |
学術変革領域研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅰ)
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研究機関 | 株式会社アラヤ(研究開発部) |
研究代表者 |
近添 淳一 株式会社アラヤ(研究開発部), 研究開発部, チームリーダー (40456108)
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研究分担者 |
地村 弘二 群馬大学, 情報学部, 教授 (80431766)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
49,140千円 (直接経費: 37,800千円、間接経費: 11,340千円)
2023年度: 16,380千円 (直接経費: 12,600千円、間接経費: 3,780千円)
2022年度: 16,380千円 (直接経費: 12,600千円、間接経費: 3,780千円)
2021年度: 16,380千円 (直接経費: 12,600千円、間接経費: 3,780千円)
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キーワード | 脳機能画像 / 神経科学 / 情動 / 経済学 / 倫理学 / 脳機能計測 / 情報科学 / 価値 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、情動的価値判断の神経基盤が経済的・道徳的判断に転用されているという仮説の下、摂食・経済・道徳的判断課題において、快・不快の情動を同時に引き起こす刺激(両価的刺激)の提示を行う。課題遂行中の脳活動を機能的MRIを用いて計測することにより、刺激の快さ・不快さ・統合的価値情報にそれぞれ関連する脳領域を同定し、経済的・道徳的判断における情動の役割を明らかにする。さらに本研究では、ホメオスタシスによって、経済学・倫理学上の現象の説明を試みる。
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研究実績の概要 |
経済的判断と倫理的判断が共通の神経基盤によってなされるという仮説を検証するために、約40名の被験者に経済的判断と倫理的判断を行う実験にそれぞれ参加してもらい、これらの判断を行っているときの神経活動を機能的MRIによって計測した。経済実験においては、期待値は同一で利得と損失の大きさと確率が異なる、二つのくじのいずれを選ぶかの判断を行ってもらった。また、倫理実験においては、Greene et al., 2004に用いられたシナリオを和訳したものを用いて、これらが倫理的に正しいと感じられるかどうかを回答してもらった。経済実験においては、特に、利得の可能性がなく、どちらのくじを選んでも損失の可能性のみが存在する試行と、損失の可能性がなく、どちらのくじを選んでも利得の可能性のみが存在する試行に着目し、これらの試行における脳活動から、利得に反応する脳領域と損失に反応する脳領域を同定した。これらを用いて、損失と利得の可能性が混在する試行における期待値を、脳活動に基づき計算した。 また、倫理的判断実験の脳活動データにおいても、多ボクセルパターン解析を適用し、被験者が「倫理的に正しい」と判断した試行と「倫理的に正しくない」と判断した試行を分類可能な脳領域を同定した。 経済的判断に関与する脳領域と倫理的判断に関与する脳領域は一部オーバーラップしており、これらが共通の神経基盤を持つ可能性が示唆された。この仮説を支持する、より強い証拠が得られるよう、さらに解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、経済的判断と倫理的判断が共通の神経基盤によって行われるという仮説を検証するために、約40名の被験者に対して両方の判断を行う実験を成功裏に実施した。この被験者数は統計的に有意な結果を得るために十分であり、被験者選定とデータ収集の面で問題がなかったことが示されている。 実験の具体的な内容においても、計画通りに進行している。経済実験では、期待値が同一で利得と損失の大きさと確率が異なる二つのくじを選ぶ判断を行わせた。これにより、被験者が異なるリスク状況下でどのような経済的判断をするかを詳細に観察することができた。また、倫理実験においては、Greene et al., 2004に用いられたシナリオを和訳し、被験者に倫理的判断を行わせた。これにより、国際的に認知されたシナリオを基に、被験者の倫理的判断を測定することができた。 脳活動の計測も順調に進んでいる。機能的MRIを用いて、被験者が判断を行っている際の神経活動を計測し、経済実験では異なる条件下での反応を解析することで、経済的判断に関与する脳領域を明らかにした。倫理的判断実験においても、高度な解析手法を適用し、被験者の判断に対応する脳領域を特定することができた。これにより、経済的判断と倫理的判断に関与する脳領域がそれぞれ明確にされ、研究の進展に重要な成果を得ることができた。 以上の理由から、現在までの進捗状況は「おおむね順調に推移している」と評価できる。今後、さらに詳細な解析を進めることで、仮説をより強固に支持する証拠を得ることが期待される。このような計画的かつ綿密な進行状況に基づき、研究の成功に向けた確かな基盤が築かれていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
経済的判断と倫理的判断が共通の神経基盤によってなされるという仮説を検定するために、経済的判断遂行時の脳活動で作成した予測器を、倫理的判断遂行時の脳活動データに適用し、内的な利得と損失のスコアを計算する。倫理的判断遂行時の脳活動データを5 fold交差検証法により、トレーニングデータとテストデータに分割する。トレーニングデータを用いて、内的な利得と損失のスコアに基づき、各試行をプロットし、「倫理的に正しい」と判断された試行と「倫理的に正しくない」と判断された試行を分ける境界線を機械学習的手法の一つであるsupport vector machineを用いて策定する。この境界線をテストデータに適用し、被験者の判断を的確に推定できるか検証する。経済的判断に基づいて作成された予測器によって、倫理的判断が予測されることを示すことができれば、経済的判断と倫理的判断が共通の神経基盤によってなされることを示す証拠となる。このような境界線は、利得や損失への感受性の個人差や、倫理的問題への感受性の個人差を反映して、被験者間で大きく異なるものとなることが予想される。このため、境界線の策定は個人毎に行う必要がある。 また、個人差を考慮した詳細な分析を行うことで、被験者ごとに異なる判断パターンを明らかにすることができ、倫理的判断における個人の内的な基準や価値観の違いを理解する助けになる。このようなアプローチにより、倫理的判断と経済的判断の神経基盤の共通性だけでなく、個別の神経メカニズムも明らかにすることが期待される。 これらの結果は、倫理的な意思決定における神経科学的基盤の理解を深めるとともに、経済的意思決定との関連性を探る上で重要な知見を提供する。さらに、この研究は、倫理教育や意思決定支援システムの設計においても応用可能な洞察をもたらすことが期待される。
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