研究領域 | 表面水素工学:スピルオーバー水素の活用と量子トンネル効果の検証 |
研究課題/領域番号 |
21H05098
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研究種目 |
学術変革領域研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森 浩亮 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (90423087)
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研究分担者 |
吉田 秀人 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (00452425)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
36,400千円 (直接経費: 28,000千円、間接経費: 8,400千円)
2023年度: 12,090千円 (直接経費: 9,300千円、間接経費: 2,790千円)
2022年度: 13,000千円 (直接経費: 10,000千円、間接経費: 3,000千円)
2021年度: 11,310千円 (直接経費: 8,700千円、間接経費: 2,610千円)
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キーワード | ハイエントロピー合金ナノ粒子 / スピルオーバー / 金属触媒 / 量子トンネル効果 / 水素スピルオーバー / 表面水素工学 / ハイエントロピー合金 / 特殊合金ナノ粒子 |
研究開始時の研究の概要 |
触媒分野では古くから知られる『水素スピルオーバー』現象の全容は未だ解明されておらず、またその利用は極めて限定的である。本申請課題では、高速に固体表面を移動する高密度かつ高活性なスピルオーバー水素を使いこなすための学理(表面水素工学)構築と、革新的応用分野の開拓をターゲットに、『制御因子の解明』、『特殊合金ナノ粒子合成への応用』を第一の目的とする。また、古典的熱力学に従わず、ポテンシャル障壁を透過して化学反応が進行する『量子トンネル効果』の寄与を実験的に検証することでその発現因子を突き止め、反応制御の可能性を実証することを第二の目的とする。
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研究実績の概要 |
触媒分野では古くから知られる水素スピルオーバー現象の全容は未だ解明されておらず、またその利用は極めて限定的である。本研究では、高速に固体表面を移動する高密度かつ高活性なスピルオーバー水素を使いこなすための学理(表面水素工学)構築と、革新的応用分野の開拓をターゲットに、制御因子の解明、特殊合金ナノ粒子合成への応用を第一の目的とする。 これまで、水素スピルオーバー能に優れた二酸化チタン(TiO2)を用いると、還元電位の異なる5種類の金属元素(Co, Ni, Cu, Ru, Pd)が400 ℃という低温で同時還元され均一なHEAナノ粒子が合成できることを見出している。HEAとは、5種類以上の金属元素をほぼ等原子組成比で含み、かつ単相の固溶体を形成する材料のことを指す。 本年度は、形態制御した酸化セリウム(CeO2)担体を利用し、Co, Ni, Cu, Zn, PdからなるHEAナノ粒子の合成を試みた。特に還元性の高い(110)面を露出したロッド状CeO2を用いたときに水素スピルオーバーが促進されることで担持金属前駆体が急速還元されハイエントロピー合金サブナノクラスターが形成することを見出した。Pd K-edge FT-EXAFSカーブフィッティングにより微細構造を調査したところ、13核からなるクラスターであることが明らかとなった。 さらに、NO還元反応において、CoNiCuZnPd/CeO2は単金属Pd触媒と比較して活性が向上していることが確認された。さらにin situ XAFSを利用したNO-H2を利用した酸化還元応答性測定において、HEAサブナノクラスター触媒はPd自体の酸化還元は起きず、HEAサブナノクラスターの構造変化のサイクルが進行していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで水素スピルオーバー研究は触媒分野のみに限定されており多面的なアプローチはなされなかった。今年度の結果より、当初提唱していたスピルオーバーした原子状の水素種は、気相中の分子状水素に比べ非常に強力な還元力を有し、難還元性卑金属の還元を促進するという概念を実証できた。この概念は『水素スピルオーバー現象』の新たな利用法として可能性を示すものであり、さらに高密度かつ高活性なスピルオーバー水素を使いこなすための学理構築にも貢献する。また、ナノ粒子化による量子サイズ効果、異種金属間で電子的配位子効果(リガンド効果)、ならびに幾何学的協奏効果(アンサンブル効果)を明確にすることができ、先進的なマテリアルサイエンス分野へも多大な波及効果をもたらす。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、水素スピルオーバー現象と量子トンネル効果の関係性に重点を置き研究を遂行する。物質を粒子として扱う古典力学では、化学反応はアレニウスの式に従う。一方、電子や質量の軽いH原子では波動性が顕著であるため、量子トンネル効果によってポテンシャル障壁を透過して化学反応が進む場合がある。重水素原子(D)は水素原子(H)に比べ障壁を透過しにくく、大きな同位体効果が観測できる。そこで担体上での水素スピルオーバー能を、in situ FT-IRを用いたH/D交換反応の追跡により行い、水素スピルオーバー現象と『量子トンネル効果』の関係性を実験的に検証する。 一方で、DFT計算を用い、量子トンネル効果が主体的になるクロスオーバー温度(Tc)を求め、その妥当性を評価する。これらを総合的に判断し、最終的に量子トンネル効果が発現する因子を同定する。固体表面水素スピルオーバー現象と量子トンネル効果の関係性を証明できれば、新たな研究分野の創出が期待でき、学術的な波及効果は極めて高い。
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