研究領域 | 核酸構造による生物種を超えた多元応答ゲノムの機構の解明 |
研究課題/領域番号 |
21H05108
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研究種目 |
学術変革領域研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
遠藤 玉樹 甲南大学, 先端生命工学研究所, 准教授 (90550236)
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研究分担者 |
凌 一葦 新潟大学, 医歯学系, 助教 (70804540)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
40,950千円 (直接経費: 31,500千円、間接経費: 9,450千円)
2023年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
2022年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
2021年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
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キーワード | 多元応答深化 / 核酸構造 / 環境応答 / バイオインフォマティクス / オミクス解析 |
研究開始時の研究の概要 |
本計画研究では、様々な環境要因で変動する核酸構造に依存した遺伝子の発現調節(多元応答)に着目し、生命システムに維持されている「多元応答」の分子機構を解明する。そのために、 1. 生物種がさらされ得る環境変動に対する「多元応答」の網羅的解析 2. バイオインフォマティクス解析による「多元応答」を誘起する核酸構造の抽出 3. 生物種間に存在する「多元応答」機構の共通点、相違点の解析 の研究課題を進める。
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研究実績の概要 |
2021年度に、微粒子上にDNAのライブラリを固定化し、グアニン四重らせん(G4)構造のプローブとなる分子の蛍光シグナルでG4構造を形成するDNAを取得する手法を確立した。2022年度は、枯草菌のゲノムDNAからG4構造を形成する配列を実験的に取得し、ゲノムデータベースから網羅的に抽出されたG4構造の形成可能配列(G4候補配列)との比較解析を行った。細胞内の分子環境を特徴づける分子クラウディング環境中でG4構造を形成する配列を取得した結果、3枚のG-カルテットからなるG4候補配列のほとんどが、実験的にもG4構造を形成する配列として獲得された。この結果は、分子クラウディング環境中では、ほとんどのG4候補配列が実際にG4構造を形成し得ることを示している。この成果にもとづき、カリウムイオン濃度や分子クラウディングを誘起する共存溶質の濃度を変化させた際に構造変化を示すG4構造を実験的に解析することができるようになる。 2022年度はさらに、タンパク質との結合に重要な役割を果たすG4構造を明らかにすることができた。ヒトのラミニン遺伝子のmRNAのイントロン領域に存在するRNAが、カリウム濃度に依存してG4構造を形成し、新型コロナウイルスの複製を担うタンパク質の活性を抑制できることを示した(Chem. Commun., 59, 872 (2023))。国際共同研究成果としても、イネの細胞内に存在する短鎖のRNAの存在を明らかにした。そして、このRNAが外気温上昇にともない構造を変化させ、イネの生長に関与する遺伝子(高親和性硝酸トランスポーターOsNRT2.3)の発現を抑制して成長阻害を引き起こす可能性を見出した(Sci. Adv., 8, eadc9785 (2022))。本研究成果はA02班との共同研究でもあり、植物における「多元応答」の存在を示す重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
G4構造を形成する配列をゲノム断片のライブラリから実験的にかつ網羅的に取得する技術を確立することができた。そのため、分子環境に対して多元的に応答して構造を変化させ得るG4構造領域を抽出することが可能となった。3枚のG-カルテットから構成されるG4候補配列のほとんどが分子クラウディング環境で取得されてきたことから、希薄溶液中では不安定な2枚のカルテットから形成されるG4構造にも焦点を当てて解析をしていくことの重要性も浮かび上がってきている。適度に不安定なG4構造は、細胞内のカリウム濃度などに敏感に応答して遺伝子発現に影響する可能性が考えられる。既にバイオインフォマティクス解析により2枚のG-カルテットから構成されるG4候補配列の網羅的な抽出が終了しており、実験的に取得された配列との比較解析ができる状態になっている。 2022年度はさらに、タンパク質への結合とタンパク質機能の変動に重要な役割を果たすG4構造を明らかにすることができた。カリウム濃度に応答してタンパク質機能が抑制される結果を得たことで、本研究領域で想定している「多元応答」を引き起こす要因としてのG4構造の重要性を示すことができた。 A01班との連携による国際共同研究の成果としても、植物の「多元応答」を引き起こし得る、外気温に依存したRNAの構造変化による遺伝子発現の変動を見出すことができた。本研究成果は、イネ(植物)における「多元応答」に関与する核酸構造の存在を示す重要な知見である。 以上の様に、遺伝子発現の「多元応答」を引き起こし得る核酸構造に関して、網羅的な解析研究の技術基盤を確立できただけでなく、個別の核酸構造を用いた検証での成果も出ている。そのため、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
現在まで、分子クラウディング環境やカリウム濃度に対して安定性の変動を示すG4構造を中心に解析を進めてきた。G4構造については、網羅的な解析技術が確立されたことから、溶液環境を様々に変動させて構造変化を示す配列領域の網羅的な抽出を進めていく。特に、2枚のカルテットからなるG4候補配列、および、相補鎖が存在する状態でもG4構造を形成し得る配列領域に焦点をあてて実験的に配列を抽出して解析を進めていく。 その他の核酸構造についても遺伝子発現の「多元応答」に寄与する可能性を検証する。一例として、シトシンに富んだ配列から形成される四重らせん構造であるi-motif構造について、ゲノム配列から構造形成領域の網羅的な抽出を行う。i-motif構造は酸性条件下で安定化することが知られるため、溶液のpHを変化させた際に構造の変動を示す領域を抽出し、A02班との連携で物理化学的な解析を進める。 G4構造、i-motif構造共に、得られる解析結果は統括班との連携でデータベースへの登録を行い、公開することを目指す。また、データベース構築の過程で、生物種間で同一の遺伝子ファミリーに存在しているG4構造、i-motif構造の比較を行い、「多元応答」を引き起こし得る核酸構造の保存性を解析することも進める。 RNAの構造としては、高次構造中に頻繁にみられるシュードノット(PK)構造に関して、希薄な溶液環境中ではその二次構造中の配列から熱安定性予測が可能であることを示す成果を既に得ている。そのため、生体内を考慮した分子環境での解析を進め、PK構造の多元的な構造変化に寄与する生体内の物理化学的要因を明らかにする。
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