研究領域 | 核酸構造による生物種を超えた多元応答ゲノムの機構の解明 |
研究課題/領域番号 |
21H05109
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研究種目 |
学術変革領域研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
建石 寿枝 甲南大学, 先端生命工学研究所, 准教授 (20593495)
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研究分担者 |
鶴岡 孝章 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 准教授 (20550239)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
40,950千円 (直接経費: 31,500千円、間接経費: 9,450千円)
2023年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
2022年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
2021年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
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キーワード | 核酸非二重らせん構造 / 細胞内分子環境評価系 / 遺伝子発現 / 多元応答機構 / 多元応答ゲノムバンク(DiR-GB) / 細胞内環境評価系 / 熱力学的解析 / 多元応答ゲノムバンク |
研究開始時の研究の概要 |
本学術変革領域で、環境に応答して変動する核酸の構造に依存した遺伝子の発現調節(多元応答)に焦点を当て、生命の遺伝情報を担うゲノムの高次機能としての「多元応答ゲノム」の分子機構があらゆる生物種で成立することを明らかにする。そのため、本計画研究(A02班)では、細胞内の環境に応答したゲノムの高次構造を物理化学的手法により解析し、細胞内での核酸構造制御機構を解明する。さらに、これらのデータとA01、A03班から得られる遺伝子発現変化のデータと核酸構造変化の相関を解析し、ゲノムの一次配列から多元応答に関与する核酸構造を予測できる多元応答ゲノムバンク(DiR-GB)を構築することを目指す。
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研究実績の概要 |
本領域研究では、核酸の構造を介した遺伝子発現機構「多元応答ゲノム」機構を明らかにする。そのために、A02班では、環境に応じた核酸構造変化機構を解明し、核酸構造を予測できるデータベースの構築を担当する。2022年度は、細胞内における核酸の構造を簡便に解析するために、実細胞を用いて試験管内で細胞内の分子環境を再現できる細胞内分子環境評価系を開発し、開発した評価系での核酸構造の挙動は、細胞内での挙動と一致していることを見出した(特願2022-189538)。また、細胞内を模倣した分子環境がG四重らせん構造の形態を変化させることを見出した(Chem. Commun., 58, 12459 (2022))。これらの知見をもとに、G四重らせん構造を安定化し、遺伝子発現を制御する小分子を開発した(Chem. Commun., 59, 4891 (2023),日本核酸医薬学会第7回年会(2022年)で発表)。また、金属有機構造体を細胞内の空間模倣系として活用するため、金属有機構造体と細胞の相互作用を解析した(ACS Appl. Mater. Interfaces, 14, 34443 (2022))。 さらに、国際共同研究として、イネ成長に関わる遺伝子の発現を制御する新規のsRNAを見出し、生育温度に依存してsRNAの構造変化がsRNAとmRNAの結合を制御し、イネの制御が制御されていることを見出した(Science Advances, 8, eadc9785 (2022))。本研究成果は、ヒト以外においても、多元応答機構が成立していることを示唆する重要な知見である。 これらの研究成果は、国内学会や国際学会で招待講演として発表し(India|EMBO Lecture Course: Functional nucleic acids, 2022年8月)、研究成果の迅速な発信を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、細胞内の分子環境が核酸構造に及ぼす影響の重要性に注目し、試験管内で迅速かつ正確に核酸構造を解析するため、細胞内分子環境評価系の開発に注力した。その結果、開発した評価系では、試験管内では再現できなかった核酸の構造を再現することができた(特願2022-189538)。次年度には、本評価系を用いて、核酸構造や構造を制御する機能性分子の網羅的解析が可能となると期待できる。また、海外の共同研究者とも連携を強化し、例えば、中国南京大学のX. Fan教授らとはRNAの構造解析(Science Advances, 8, eadc9785 (2022))、スロベニア国立NMRセンターのJ. Plavec教授らとはDNAの構造解析(日本化学会第103回春季年会、2022年3月)を行い、植物やヒト細胞に近い環境下での核酸の構造に関する情報を得ることができた。これらのこれらの知見を基にして、試験管内およびヒトのがん細胞内の核酸構造の制御機構を見出すことができた(Chem. Commun.,58, 12459 (2022), Chem. Commun.,59, 4891(2023))。 本領域研究を推進するにあたり、合成核酸、細胞培養試薬等の実験消耗品を購入し、実験補助を行う研究員およびパートタイムのスタッフを各1名雇用し、本研究が円滑に進むように努めた。そのため、本研究は、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、2022年度に開発した細胞内分子環境評価系を活用し、ヒト細胞だけでなく、イネ、シロイヌナズナなどの植物内の環境を再現できる実験系の構築に着手する。これらの評価系を用い、各生物種の細胞内の特有の環境を見出し、核酸に及ぼす影響を定量的に解析することを試みる。さらに、核酸の構造は溶液の物性の影響を大きく受けるが、実細胞の物性をコントロールすることは難しい。また、細胞内の混雑した環境による効果を厳密に評価するためには核酸周辺の空間を厳密に制御する必要がある。そこで、2022年度に得られた金属有機構造体と細胞の相互作用の知見を基にして、細胞内空間を模倣した細胞内環境評価系の構築も試みる。 これらの細胞内模倣系で解析した核酸構造と、実細胞内での実験結果を集約し、様々な生物種の核酸の“構造”情報を集約したデータバンクの創製を行う。現在、ゲノム配列データベースKEGGに登録されている多様なの生物の遺伝情報基に核酸非二重らせん構造を形成可能な位置を解析している。ヒトゲノムにおける非二重らせん構造は転写プロモータや非翻訳領域に多く形成されると予測されるが、このような特徴が生物種によってどのように変化かするか比較を行う。さらに、非二重らせん構造の検索アルゴリズムは[1][2]の結果応じて最適化し、ゲノム解析をA01班に依頼する。さらにA01班およびA03班によって得られた実細胞内の核酸構造に応じた遺伝子発現変化の情報を集約し、データバンクの創製を目指す。
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