研究領域 | 炎症性組織レジリエンスと組織障害エントロピーの統合的理解と炎症収束学の創成 |
研究課題/領域番号 |
21H05123
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研究種目 |
学術変革領域研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
三上 洋平 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (80528662)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
40,950千円 (直接経費: 31,500千円、間接経費: 9,450千円)
2023年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
2022年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
2021年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
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キーワード | 炎症収束 / クローン病 / 線維化 / 炎症性腸疾患 / 神経免疫 / 1細胞遺伝子発現解析 / 線維芽細胞 / 神経 / シングルセル解析 / 組織障害エントロピー / 炎症収束学 / 肝硬変 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、分子標的薬をはじめとする免疫統御療法の進歩に伴い、消化器系臓器の免疫難病における炎症制御成績は飛躍的に向上した。しかし、炎症が収束する過程で蓄積する不可逆的な組織障害に関しては、その病態に関与する責任細胞や背景の病態生理を含めて不明な点が多い。消化器系臓器における炎症・再生・線維化のプロセスにおいて、炎症収束に関わる責任細胞を特定するとともに、不可逆的な組織障害の蓄積の予防、治療に直結する病態メカニズムを解明する。
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研究実績の概要 |
近年、IBDやNASHを含む腸管および肝臓の慢性炎症性疾患において、炎症統御療法の成功により一見臨床的に寛解状態にある様に見える患者において進行性に蓄積する組織障害、すなわち組織障害エントロピーの増大が顕在化してきている。すなわち、これらの臨床的データの蓄積より、組織の不可逆的なダメージの蓄積である組織障害エントロピーは、腸管および肝臓の慢性炎症性疾患の病態生理を解明するにあたり非常に重要な概念であることが予測される。 我々は、前年度までの検討で、ヒト検体を用いて腸管ストローマ細胞のなかでも線維芽細胞に着目して1細胞遺伝子発現解析を行なったところ、2つの明確な細胞集団の存在が存在し、これらの線維芽細胞集団は遺伝子発現プロファイルが大きく異なる集団であることを見出した。さらに、慢性DSSモデルを用いて腸管内の組織常在細胞を測定したところ、DSSを2サイクル投与後の腸管は、組織学的には正常マウスと明らかな変化は認めないレベルに炎症収束を認めているものの、細胞レベルにおいては、線維芽細胞分画の存在比率が定常状態とは異なり、不十分な組織修復レジリエンスの結果として蓄積する腸管エントロピーが細胞レベルで存在する可能性が示唆された。腸管エントロピーのさらなる理解のために、慢性炎症収束時におけるストローマ細胞の遺伝子発現パターンを経時的にscRNA-seq解析を行い、慢性炎症収束時に増加する組織常在細胞集団のマーカーをscRNA-seq解析により洗い出しに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々は、前年度までの検討で、ヒト検体を用いて腸管ストローマ細胞のなかでも線維芽細胞に着目して1細胞遺伝子発現解析を行なったところ、腸管上皮幹細胞維持に必須の因子であるR-spondinやWNT2Bなどを高発現する分画(FB1)と、WNT5AやBMP5などの上皮分化に重要な因子を高発現する分画(FB2)が存在すること、さらに、両者は遺伝子発現プロファイルが大きく異なる集団であることを見出した。さらに、慢性DSSモデルおよびヒトクローン病患者の腸管切除検体を用いて腸管内の組織常在細胞を測定したところ、FB1/FB2の割合が定常状態とは異なり、不十分な組織修復レジリエンスの結果として蓄積する腸管エントロピーが細胞レベルで存在する可能性が示唆された。この慢性炎症収束時におけるストローマ細胞の遺伝子発現パターンを経時的にscRNA-seq解析を行い、慢性炎症収束時に増加する組織常在細胞集団のマーカーをscRNA-seq解析により洗い出しに成功し、慢性炎症収束時に増加する組織常在細胞集団のマーカーに高発現するいくつかの候補遺伝子の中から、Creマウスを導入・作成し、tdTomato、DTAマウスとの交配をすでに開始しており、今年度中に組織常在細胞集団の線維化への関与のデータを得ることが可能と考える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの検討で得られた知見を元に、今年度は、それぞれの線維芽細胞分画に重要な制御機構および転写因子などの細胞を決定する因子を絞り込み、生物学的な意義を解析し、臨床応用の可能性を検討することを目的とする。慢性炎症収束時に増加する組織常在細胞集団のマーカーに高発現するいくつかの候補遺伝子の中から、腸管組織エントロピー増大とともに蓄積する細胞の性質解析に加えて、遺伝子改変マウスおよびDepletion抗体を用いた細胞分画の除去による炎症収束への生物学的意義を解明する。得られた結果より、ヒト検体を用いて解析、検証することで、ヒト炎症収束における病態解明を目指す。
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