研究領域 | 「当事者化」人間行動科学:相互作用する個体脳と世界の法則性と物語性の理解 |
研究課題/領域番号 |
21H05174
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅰ)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
笠井 清登 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (80322056)
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研究分担者 |
北中 淳子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (20383945)
金原 明子 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (30771745)
五十嵐 智子 (澁谷智子) 成蹊大学, 文学部, 教授 (90637068)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
165,360千円 (直接経費: 127,200千円、間接経費: 38,160千円)
2024年度: 32,240千円 (直接経費: 24,800千円、間接経費: 7,440千円)
2023年度: 32,500千円 (直接経費: 25,000千円、間接経費: 7,500千円)
2022年度: 32,370千円 (直接経費: 24,900千円、間接経費: 7,470千円)
2021年度: 35,490千円 (直接経費: 27,300千円、間接経費: 8,190千円)
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キーワード | 当事者化 / 時代 / 世代 / 社会 / 個体ー世界相互作用 / トラウマ / 医療人類学 / ヤングケアラー / 大集団科学 / 都市化 / 社会モデル / 大集団脳科学 / ジェンダー |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、相互作用する個人の脳と世界のループにおける時代、世代、およびジェンダーの影響を解明します。そのために、大集団脳科学と個人のナラティブの分析という二つの方法を用います。前者では、数千人規模のデータを用いて、時代、世代、地理的環境、ジェンダーが脳機能に与える影響を解明します。後者では、マイノリティがその苦悩に対して与えられた精神医学的言語によって自己を振り返ることで、医療の「物語化」とあらたな「当事者化」が起きる時代経過を医療人類学的に検討したり、子どものおかれた社会状況をことばにすることが、個人の認識と社会を変える時代経過をコーダとヤングケアラーの語りから社会学的に分析したりします。
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研究実績の概要 |
笠井と金原は、ACE (Adverse Childhood Experience) の体験を調査する尺度を開発し、発生と精神障害との関連性を調査し、水平的トラウマ(いじめ)と垂直的トラウマ(親による虐待)の発生頻繁などについて、まとめた(Yamagishi 2022)。また、東京ティーンコホート参加者におけるヤングケアラー状況と世界への主体的コミットメントの関連、およびサブサンプルにおける脳画像解析を行っている。具体的には、10~16歳時データを用いた、ヤングケアラー状況と脳画像・ストレス・性ホルモンとの関連解析に着手するとともに、英ノッティンガム大学との国際共同研究による日本の中高生ヤングケアラー調査研究のため、尺度の標準化を行い、論文が国際誌に掲載された(Kanehara 2022)。上記のテーマについて、隔月で、A03-B02研究推進を開催し、多様な研究手法に関する専門家を招くなどして、丁寧な議論を行ってた。ヤングケアラーについては、得られた結果に基づき、 普及と実装研究(dissemination and implementation[D&I]研究)を実施した。北中は当事者化の国際比較総論を『精神神経学雑誌』に掲載し、マギル大学医学部、エジンバラ大学人類学部、ポーランド学術会議、日本学術会議等での招聘講演を行った。櫛原は『メンタルクリニックの社会学』、東畑は『聞く技術 聞いてもらう技術』を刊行、狩野はASD臨床の民族誌的調査を行った。熊谷班との協働でアジアにおける当事者研究に関する国際ワークショップを、また班全体で若者のメンタルヘルスに関する調査を行い、その結果を日米比較シンポジウムで発表した。医療や教育の現場でヤングケアラーが見過ごされる状況等を分析し、滝島はきょうだい児への予防的支援について、澁谷は忙しい大人の事情で子どもがケアを担う構造があることを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
笠井と金原は、2009-2020年度までのN=4,000データを対象に、ACEs、主観・客観症状の時代変遷、都市居・移住状況の後方視的調査とデータベース化を行っている。また、東京ティーンコホート参加者におけるヤングケアラー状況と世界への主体的コミットメントの関連、およびサブサンプルにおける脳画像解析を行っている。具体的には、10, 12, 14, 16歳時データを用いた、ヤングケアラー状況と脳画像・ストレス・性ホルモンとの関連解析に着手するとともに、英ノッティンガム大学との国際共同研究による日本の中高生ヤングケアラー調査研究のため、尺度の標準化を行い、論文が国際誌に掲載された。北中は熊谷班との協働による当事者研究の紹介をPsyche誌に執筆中であり、さらに若者のメンタルヘルス国際比較研究を、アメリカ心理人類学で発表している。インタビューデータのさらなる分析を行うと同時に、班として今後北米のみならず、ブラジル、インド、イギリスとの若者のメンタルヘルス比較の可能性を検討中である。また認知症・脳神経疾患、自閉症に関する文献調査と民族誌調査のデータに関して現在国際比較の視点からの分析を進めており、英語論文の執筆を行っている。澁谷は、今年度は聞こえない親をもつ聞こえる子(コーダ)へのインタビュー13件と5回のワークショップを実施し、2023年度はそのデータを基に生活書院から著書を出版する。長谷川はヤングケアラーの離家に関する論文の『福祉社会学研究』掲載が決まり、滝島はきょうだい児支援の現状と課題についての論文を投稿中である。長谷川と滝島と澁谷は、教育や行政関係者への研修や講演などでヤングケアラーときょうだい児に関する啓発を進めている。これらの理由から、おおむね順調に進展していると自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
笠井と金原は、2009-2020年度までのN=4,000データのサブサンプルについて、脳画像とACEs、urbanicityとの関連を検討する。また、東京ティーンコホート参加者におけるヤングケアラーまたは医療的ケアを要する状況と脳画像の関連解析を行う。英ノッティンガム大学との国際共同研究により、2021年度に標準化された尺度を用いて日本の中高生ヤングケアラー調査研究を行う。上記のテーマについて、隔月で、A03-B02研究推進ミーティングを行い、各テーマ・研究手法について分野横断で議論を行い、研究を進める。ヤングケアラーについては、得られた結果に基づき、 普及と実装研究(dissemination and implementation[D&I]研究)として、引き続きヤングケアラーサポートに関する中高生向け講義を実施したり、学校のスクールカウンセラーや養護教員に授業をしてもらえるための研修会を開催し、フィードバックに基づきさらなる改良を目指す。北中は認知症・脳神経疾患の調査と医療人類学の英語の本を編集・執筆中である。櫛原は主として統合失調症、東畑は心理療法、狩野はASDに関する調査をそれぞれ進めている。北中・狩野は今年アジア太平洋精神医学会での発表を行うとともに、北中は当事者化の国際比較をTrancultural Psychiatry誌の特集号として組む予定である。澁谷は専門職に向け、これまでの家族ケアを前提とした制度ではヤングケアラーにしわ寄せがいく状況を分析し、家族支援やアセスメントツールの活用や研修のあり方などについて、論文や講演等で発信する。さらに、多様なコーダの語りに関する著書を出版する。長谷川は、家族を頼れない若者が自分の人生と家族のバランスをどう取るか、インタビューと理論を中心に分析を進める。滝島は、成人のきょうだいに関する調査と論文執筆を行う。
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