研究領域 | 「当事者化」人間行動科学:相互作用する個体脳と世界の法則性と物語性の理解 |
研究課題/領域番号 |
21H05175
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅰ)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
熊谷 晋一郎 東京大学, 先端科学技術研究センター, 准教授 (00574659)
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研究分担者 |
綾屋 紗月 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任講師 (40641072)
外谷 弦太 帝京大学, 先端総合研究機構, 研究員 (70847772)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
165,230千円 (直接経費: 127,100千円、間接経費: 38,130千円)
2024年度: 28,990千円 (直接経費: 22,300千円、間接経費: 6,690千円)
2023年度: 29,120千円 (直接経費: 22,400千円、間接経費: 6,720千円)
2022年度: 29,120千円 (直接経費: 22,400千円、間接経費: 6,720千円)
2021年度: 48,620千円 (直接経費: 37,400千円、間接経費: 11,220千円)
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キーワード | 当事者研究 / 認知科学 / 複雑系科学 / 組織論 / インクルージョン / 共同創造 / 心理的安全性 / 謙虚なリーダーシップ / 介入研究 / ファカルティディベロップメント / 参加型自閉症研究 / 知識の共有 / 表出された謙虚さ / eConsent |
研究開始時の研究の概要 |
気づかれにくい困難を抱える当事者が、仲間とともに、その困難のメカニズムや対処法を探る当事者研究は、障害や依存症、子育てや仕事の苦労など、様々な領域に広がりつつあり、新しい当事者参加型研究である「共同創造」の方法としても、リカバリー支援の技法としても、注目されている。 しかし、当事者研究が本人や組織に与える影響は、これまで十分に研究されてこなかった。加えて、どのような方法を採用すれば、安全で公正な実践になるのかも検討が不十分だった。 この研究では、認知科学や複雑性科学と連携し、当事者研究によって起きる変容過程を個体内、組織内のレベルで明らかにする。
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研究実績の概要 |
■理論的研究:自伝的記憶研究と認識的不正義概念を架橋した当事者研究の考察(熊谷, 京都大学学術出版会 2024; 明石書店 2024)、ジェンダー構造と自閉症との交差性(綾屋, 明石書店 2024)などの検討を行った。また、個体-社会相互作用における発言権の格差が社会的地位と相互作用する条件とそうでない条件を比較分析するため、計算機シミュレーションを用いてプレスティージバイアス下での文化進化プロセスの解析を行い、論文を発表した(Nakata et al., Evolutionary Human Sciences 2024)。また、ラットの社会的相互作用を長期にわたって追跡・解析し、個体の性質と社会関係構築の相関を調べて論文を発表した(Hakataya et al., Plos One 2023)。 ■観察研究:企業における当事者化の候補となる指標(「謙虚なリーダーシップ」「職場の心理的安全性」「知識の共有」など)と、ウェルビーイングやパフォーマンス指標との関連を調べた観察研究を論文として出版した(Matsuo et al., Work 2024)。 ■介入研究:複数企業から27チーム、173名の研究参加者を登録し、2024年3月には全リーダーに対して当事者研究導入講座の実施を完了した。学術への介入としては前年度に製作した動画の一部を領域内に展開するとともに、2023年6月20日に開催した東京大学総長補佐研修でも利用した。刑事施設への介入としては、元受刑者と共同創造した研修を「全国刑事施設長会同」「矯正研修所高等科研修」「上級幹部マネジメント研修」「上級管理科研修」で行った(熊谷, 刑政 2023)。 ■具体的な研究の共同創造:強度行動障害のある当事者が過ごしやすいグループホームの条件について建築学の専門家等と検討し論文化した(神門ほか, 日本建築学会計画系論文集 2024)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
■当初計画との照合:中間評価までに、様々な組織を対象に、個人レベルや組織レベルの当事者化指標のベースライン測定を行い、当事者研究導入後6か月目、1年目の測定を継続するとともに、個体脳モデルと環境モデルを組み合わせた当事者化および共同創造のシングルエージェントシミュレーションと、VRロールプレイ実験環境の構築・予備実験を実施する計画だったが、企業の観察研究は論文化し介入も完了、刑事施設の観察研究は論文執筆中で釈放時悉皆調査に向けて準備しており、大学に対しても各種研修の提供や観察研究の計画を進めている。また、社会的地位と社会的環境の再帰的構築シミュレーション、及び動物の社会的相互作用と社会関係構築の研究など、個体-世界相互作用に迫る研究も論文化されるなど、順調に進んでいる。 ■当初の計画以上の社会的インパクト:東京大学全体に共同創造を実装させるため、2024年4月1日に多様性包摂共創センター(Center for Coproduction of Inclusion, Diversity and Equity)という全学組織を設置した。またインクルーシブなSTEM研究環境の構築のために必要な政策を提言した報告書が2023年6月2日に「日本工学アカデミー会員が選ぶ報告書賞」を受賞し、政策実現に向けて、2024年2月14日に参議院事務局文教科学調査室との共同ワークショップを行った。 また、障害者コミュニティと学術者コミュニティとの対等な共同創造を実現するために、障害者団体のリーダーと計画班代表者との座談会を行いニュースレターに掲載した。 ■当初の計画にはなかった国際連携:Global Autistic Task Force on Autism Researchのつながりで、国際自閉症デーにおいて各国の自閉当事者活動を紹介する動画を作成し公開した。また、韓国、フィンランド、チリで参加型自閉症研究を行う当事者研究者との交流が活発化し、国際シンポジウム開催に向けて調整がすすんでいる。
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今後の研究の推進方策 |
■理論的研究:社会的地位の形成シミュレーションと社会的環境の再帰的構築シミュレーション、及び動物の社会的相互作用と社会関係構築の研究から得られた成果を元に、人間を対象とした心理実験を設計し実施する予定。また、ユーザー・リサーチャーや共同創造経験者とともに、研修教材を開発するとともに、実際の共同創造のケースに沿った定例カンファレンスを行う。 ■観察・介入研究:法務省を対象とした観察研究の成果を論文化する。また、東京大学多様性包摂共創センターと共同し、アカデミアにおける横断調査の準備を進め、組織(企業・刑務所・アカデミア)での介入研究を継続する。加えて、DPI・JDFとの座談会を通じてリストアップされた優先的研究課題の具体化に向けて、引き続き研究計画書の共同創造を進める。また、職場への実装戦略を立てるため、当事者研究の普及実装に関する阻害因子と促進因子を明確にすべく、実装研究のための統合フレームワーク(Consolidated Framework for Implementation Research: CFIR)を用いて質問票を作成し、インタビュー調査への協力を介入研究参加者に依頼する。 ■国際連携:9/14-9/16に、韓国、フィンランド、チリから、参加型自閉症研究を行う研究者を招聘し、障害学会とも連携し、国際シンポジウムを行う。また、Alberta大学のYelena Gluzman氏と、カナダでの当事者研究の実装に向けた共同研究を行う。また、チリ大学のAbel Wajnerman、Gabriela Arriaga、Francisco Pizarro Olivaresとも、チリでの当事者研究の実装に向けた共同研究を行う。
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