研究領域 | 「当事者化」人間行動科学:相互作用する個体脳と世界の法則性と物語性の理解 |
研究課題/領域番号 |
21H05176
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅰ)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳下 祥 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (50721940)
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研究分担者 |
多田 真理子 順天堂大学, 大学院医学研究科, 准教授 (70758193)
植松 朗 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (90716242)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
223,730千円 (直接経費: 172,100千円、間接経費: 51,630千円)
2024年度: 37,570千円 (直接経費: 28,900千円、間接経費: 8,670千円)
2023年度: 37,700千円 (直接経費: 29,000千円、間接経費: 8,700千円)
2022年度: 36,790千円 (直接経費: 28,300千円、間接経費: 8,490千円)
2021年度: 73,840千円 (直接経費: 56,800千円、間接経費: 17,040千円)
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キーワード | ドーパミン / 統合失調症 / 個体差 / 性差 / マウスMRI / 聴覚系 / PTSD / 消去 / トラウマ / 聴覚予測課題 / 皮質脳波 / 聴覚予測 / 超高磁場MRI / EEG / トラウマ・モデル |
研究開始時の研究の概要 |
人は世界と相互作用する際に法則性と物語性の2面性を状況に応じて切り替えたり、多元的に内在化したりすると考えられる。これら脳法則性と脳物語性が実際にどのように統合的に機能するかについては不明であった。そこで、個体脳の法則性と物語性を統合的に扱う動物モデル研究を考案し、人での実験的研究と相補的に進めることで、個体が世界と相互作用する際の脳基盤を明らかにする。さらに物語性におけるトラウマ体験があった状態から回復する当事者化の脳基盤を明らかにする。
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研究実績の概要 |
柳下は個体ー世界相互作用による個体脳への影響を調べるためにマウスを用いて認知課題中およびホームケージでの行動を長期記録する実験系の構築・大量データを解析するパイプラインを整備してきた。これにより個体特性と認知課題の相互作用により、新規に統合失調症の発症モデルになりえる行動変化を見出してきた。さらにはマウス脳をMRI計測し、統合失調症で知られる脳構造変化に対応する変化を見出した。これらのことから統合失調症の発症の過程が遺伝子等により決定論的に出現するというよりは個体と環境の相互作用の中で出現するものである可能性を示し、精神疾患理解に新たな視点を与える。環境からの情報の内在化機序をしらべるため前頭葉のシナプス基盤を探索してきたが、このシナプス基盤が他個体から情報に基づく学習に関与することが明らかになり論文執筆中である。加えて、個体ー世界相互作用の中で報酬獲得のために環境に対して行動を変化させていくトラジェクトリーに明瞭な個体差の描出を進めており、検証のための神経回路仮説を導出した。 多田は個体ー世界相互作用における法則的処理と物語的処理の相違について、ヒトを対象に音刺激を複雑にした新規課題を用いて、複雑な予測活動が聴覚野から広域に観察されることを論文発表した。この成果をもとに、聴覚予測と社会への適応性の関連について、個体要因と環境要因の相互作用を検討し、精神的不調の罹病期間の影響を見出した。 植松は個体ー世界相互作用において、マウスを用いることで、恐怖情動の再編モデルを用いて海馬における役割を検討した。恐怖情動の再編時において、海馬には学習を阻害する特徴的なシグナルがあることを見出した。次に、幼若期にストレスを与えることで成熟時に再編がしづらくなるモデルにおいて、脳の解剖学的変化をMRIを用いて検討した。幼若期の隔離する週齢により脳構造に異なる影響があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
柳下は個体ー世界相互作用による個体脳への影響を調べるためにこれまで開発してきた行動実験系を駆使して、新規に相互作用の結果生じる統合失調症の関連の行動変化や、個体行動の多様性を見出してきた。特に統合失調症関連の行動変化について、従来のように単純な異常ととらえるのではなく、マイノリティ特性と環境の相互作用の中で連続的にとらえる新規視点を構築しつつある。 多田は昨年度までに開発した複雑な音刺激の構造変化を検出する新たな課題中の脳活動が、聴覚野にとどまらず前頭葉でも観察されることを明らかにし、論文発表した。本成果から聴覚予測が感覚領域を超えた高次の連合野での情報処理と関連することを推測し、すでに知られていた聴覚予測と社会への適応性の関連に寄与する、効果量の大きい要因を検討した。 植松は個体ー世界相互作用において、法則性と物語性の神経機構解明を進めた。マウスを用いて再編時の海馬の機能解析を進めた。これまでの経験とミスマッチな事象がある際に、海馬において特徴的な神経応答があることを見出した。またこのシグナルを人為的に操作すると学習を阻害する機能があることが明らかとなった。さらにA01田中班との共同で、海馬のシグナルは状態の遷移モデルにより説明できることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
柳下はこれまで構築した系で得られた行動特性について神経基盤仮説を設定し、解析を進める。単に神経機能原因となり、それが行動を生み出すというのではなく、環境との相互作用の中で神経基盤が相互作用を中継点としてどのような可塑性を持つかなどの観点で解析を進めていく。 多田は今後、聴覚予測における個体ー世界相互作用に注目し、法則性処理と物語性処理の各要因が当事者化や適応性に与える影響について、計測コンテキストの効果を考慮しながら検討する。得られた回路候補について、マカクザルECoG計測での広範囲高密度計測によって、詳細に検討する。 植松は恐怖情動の再編中において法則性に関わる側坐核を中心とした回路が雌雄脳においてどのように異なるかを回路レベルで解明する。さらに側坐核における1細胞レベルでの記録から、雌雄差や個体差について解析する。また幼若期ストレスが脳の領域間結合に与える影響についてMRIデータを解析する。
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