研究領域 | 極限宇宙の物理法則を創る-量子情報で拓く時空と物質の新しいパラダイム |
研究課題/領域番号 |
21H05186
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
石橋 明浩 近畿大学, 理工学部, 教授 (10469877)
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研究分担者 |
村田 佳樹 日本大学, 文理学部, 准教授 (00707804)
前田 健吾 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (10390478)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
75,140千円 (直接経費: 57,800千円、間接経費: 17,340千円)
2024年度: 18,460千円 (直接経費: 14,200千円、間接経費: 4,260千円)
2023年度: 18,590千円 (直接経費: 14,300千円、間接経費: 4,290千円)
2022年度: 15,600千円 (直接経費: 12,000千円、間接経費: 3,600千円)
2021年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
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キーワード | ブラックホール / 量子情報 / 一般相対論 / 重力 / 宇宙 / 宇宙論 / 量子重力理論 / 量子重力 / 重力理論 / AdS/CFT対応 / ゲージ重力対応 / 超弦理論 |
研究開始時の研究の概要 |
宇宙のブラックホールは極限的に強い重力により発生する「空間の極限」といえよう。その内部には物理法則の破綻する「特異点」が存在し、一方、外部領域における場の量子論的考察からは「ブラックホールの情報損失パラドックス」という物理法則と情報理論に関する根源的問題が発生する。こうした量子ブラックホールの不思議に対して、本研究計画は、新しい量子エネルギー条件など、一般相対論と最新の量子情報理論とを結びつける基礎方程式を導出し、量子ブラックホールの数理を解明する。そして時空・量子・情報にまたがる「極限宇宙」の基礎学理の創造に挑む。
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研究実績の概要 |
漸近平坦ブラックホールのような重力孤立系の場合は、アインシュタイン方程式に現れるストレスエネルギーテンソルを用いた様々なエネルギーに対する非負性(エネルギー条件)を調べることで、時空の安定性などの特徴を理解することができる。 エネルギー条件には様々なものが知られているが、その中で特に重要なものは、光的世界線に沿った観測者の見るエネルギーの正値性を表す「光的エネルギー条件(NEC)」とよばれるものである。NECのもとでの重力の振舞いを用いて、特異点定理やブラックホールの面積則など、重力に関する様々な基礎定理の証明がなされている。しかし、NECは場の量子論を考慮すると一般に局所的には破れることが分かっている。そこで、NECを興味ある光的測地線に沿って積分することにより得られる「平均化された光的エネルギー条件(ANEC)」が提案された。このANECが一般にどのような量子効果のもとで満たされるのか、または破れるのかを理解することは、重力系の安定性の観点からも重要である。そこで、ANECが果たして曲がった時空上の場の量子効果のもとで成り立つかどうかを、AdS/CFT対応(ホログラフィー原理)を用いて調べた。特に共形不変なANECや重み付きANECの成否について、量子場の効果が顕著となるブラックホールの蒸発過程においてAdS/CFT対応を用いて調べた。AdS/CFT対応は、漸近AdS時空の古典的な重力理論と、その時空の共形無限遠に実現される一つ時空次元の低い平坦時空上の共形量子場の理論が同等であるとする仮説である。本研究ではAdS/CFT対応を用いることで、強結合量子場の効果を取り入れることが出来る点が大きな特徴である。また、本研究では漸近AdS時空の共形無限遠が蒸発するブラックホールを表すような時空モデルを設定した。その意味で、時空幾何学の観点からも、従来の設定を大きく変更したAdS/CFT対応を用いている点も特徴である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題について一定の成果を得ることができた。特に、本研究テーマに関する分野において、従来良く使われてきた「光的エネルギー条件」を一般化した共形不変な「CANEC」や「重み付きANEC」の研究について、成果を得ることが出来た。この重み付きANECを、量子場の効果が本質的になると予想されるホーキング輻射をともなって蒸発過程にあるブラックホール時空上で検討した。この場合、時空は閉じた宇宙にはなっていないが、蒸発過程にあるブラックホール地平面の振舞いは閉じた宇宙とよく似た構造をもっているため、これまでのANEC研究を応用することができ、結局、われわれの提案した重み付きANECは、蒸発するブラックホール時空上で成立し得ることを示すことができた。この研究成果を学術論文として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績欄で述べたANEC、及び、その拡張にあたるCANECや重み付ANECは、対象とする時空次元によってその表式が異なる。例えば時空次元が偶数の場合には、「アノマリー」と呼ばれる特徴的な量子効果を考慮することが重要となる。特に、偶数次元の場合の重み付きANECが、奇数次元のCANEC同様に共形不変性を持つかどうかを確認することは重要な課題であると考える。重み付きANECの証明を、ホログラフィー原理の具体例であるAdS/CFT対応を用いて考察したのであるが、このようなホログラフィー原理を用いるのではなく、より直接的に場の量子論の手法を用いて、重み付きANECの成否を確認することは一つの課題であろう。また、AdS/CFT対応の文脈において、重み付きANECが成り立つ系に双対なバルク時空を考え、バルク重力理論のエネルギーの正値性に対する帰結が得られるかどうかを検討することも重要な課題である。さらに、これまでに得られた重み付きANECを用いて、時空の不安定性を議論することは本研究の主要な発展テーマと考えている。研究実績の概要欄でも述べたように、本研究では、従来の設定を変更したAdS/CFT対応を用いている。このような修正したAdS/CFT対応の正当性について吟味することも必要と考える。
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