研究領域 | 極限宇宙の物理法則を創る-量子情報で拓く時空と物質の新しいパラダイム |
研究課題/領域番号 |
21H05190
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西岡 辰磨 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (90747445)
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研究分担者 |
本多 正純 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 上級研究員 (00784927)
松尾 泰 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (50202320)
伊藤 悦子 京都大学, 基礎物理学研究所, 准教授 (50432464)
奥田 拓也 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (90595646)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
96,200千円 (直接経費: 74,000千円、間接経費: 22,200千円)
2024年度: 21,580千円 (直接経費: 16,600千円、間接経費: 4,980千円)
2023年度: 21,710千円 (直接経費: 16,700千円、間接経費: 5,010千円)
2022年度: 21,710千円 (直接経費: 16,700千円、間接経費: 5,010千円)
2021年度: 9,230千円 (直接経費: 7,100千円、間接経費: 2,130千円)
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キーワード | 場の量子論 / 量子情報理論 / 量子エンタングルメント / ホログラフィー原理 / 量子計算 / 量子シミュレーション |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では量子多体系の物理現象が顕著に顕れる量子物質のダイナミクスの理解、特に場の量子論の非摂動論的側面を量子情報の視点を利用して解明する。特に近年その重要性が認識されつつある場の量子論と量子情報理論の関係性に主眼を置き、(I) 場の量子論の量子情報的側面とその数理構造の研究、(II) 量子計算を用いた量子シミュレーションによる場の量子論のダイナミクスの解明、の二つの研究に取り組み、極限宇宙の記述に応用する。
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研究実績の概要 |
場の量子論には素粒子のような点粒子だけでなく拡がりをもつ演算子も許容するが、その性質は点粒子に比べるとまだ良く理解されていない。西岡は拡がりのある演算子の存在する共形場理論では拡がりのある演算子が点粒子に対して鏡のような役割を果たし、点粒子の相関関数を決定する際に電磁気学の鏡像法に似た手法が適用できることを示した。また境界や線演算子の存在するO(N)ベクトル模型の臨界点は共形対称性を持つが、その振る舞いをいくつかの自然な公理から決定できることを示した。 ホログラフィー原理の具体例として、AdS/CFT対応は数多く研究されているが、我々の宇宙に近いより現実的なド・ジッター時空を記述する dS/CFT 対応は未だよく理解されていない。西岡は三次元ド・ジッター時空と双対な二次元共形場理論の間の具体的な対応を提唱し、量子エンタングルメントの構造を比較するなど、この対応の妥当性の検証を行った。 伊藤と本多はテンソルネットワーク法によりcharge-q Schwinger模型を調べ、離散カイラル対称性と1-form対称性の間の’t Hooftアノマリーがどのように実現されているかを数値的に調べ、理論的な予言と一致することを示した。また電荷が反対の粒子間に斥力が働く状況を数値シミュレーションにより実現することに成功した。 奥田は境界がある系でのSchwinger模型の局所物理量をボゾン化と密度行列繰り込み群により調べた。また量子計算機の計算エラーを見積もるため、XXX スピン鎖の可積分なトロッター化を量子コンピュータ実機で実装して保存チャージのノイズによる減衰を観測し、減衰率をベンチマークとして用いることを提案した。 他にも本多はフラクトン相に密接に関連する部分系対称性を持った様々な場の量子論を構成し、真空構造・双対性・'t Hooftアノマリーなどの基本的な性質を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究では共形場理論における拡がりを持つ演算子の定性的性質およびそれらの定量的性質を調べる手法を大きく発展させることができた。定性的な性質については電磁気学における境界値問題を解く際の鏡像法に類似した手法が、欠損演算子入り共形場理論の相関関数においても適用できることが明らかになった。その結果、境界条件を与える欠損演算子の情報が欠損演算子の無い共形場理論だけで表現できることになった。これにより今後欠損演算子入り共形場理論の理解が大きく進むと期待される。また欠損演算子入り共形場理論の具体例となる 4-epsilon 次元における O(N) ベクトル模型が、従来とは異なる公理的な手法を用いて解析できることが分かった。同様の手法は広く他の理論にも適用できる可能性がある。 場の量子論の量子計算に関する研究では、二次元のゲージ相互作用を持つフェルミオンを記述するSchwinger模型をベンチマークとして、解析解と比較することで量子シミュレーションの妥当性を検証することができた。また量子計算機の実機ではノイズによる計算エラーが現実的な問題となっているが、可積分模型が有する保存チャージを用いることで量子シミュレーションにおける計算エラーを見積もることができた。将来的にはこれらの手法は現実的な四次元の素粒子標準模型や宇宙創発のシミュレーションにも適用できることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
量子誤り訂正符号から構成できる二次元超対称共形場理論を探索する。特にフェルミオンを含む共形場理論の系統的な構成や新たな超対称共形場理論の発見を試みる。またこのように構成されたクラスの共形場理論と AdS/CFT 対応を通して双対な超重力理論を特定し、量子誤り訂正の観点から量子重力理論の性質を模索する。 量子情報と AdS/CFT 対応を関係づけるうえで特に CFT 側が 2次元の場合、W 代数などの無限次元対称性が果たす役割が大きいと考えられる。これらの代数を系統的に研究する道筋を与える量子トロイダル代数と量子情報の間の対応関係を解明したい。 また、場の理論の量子シミュレーションによる新しい物理現象の探究を目指し、ハミルトン形式での格子ゲージ理論のシミュレ ーション手法をテンソルネットワークを用いて開発する。多様な格子場の理論の測定型量子シミュレーションの手法を確立し古典計算機による シミュレータや mid-circuit 測定が可能な量子コンピュータ実機で実装する。特に、低次元量子電磁気学においてエネルギースペクトルおよび散乱振幅の計算を行う。また量子シミュレーションにおいて、様々な状況においてゲージ対称性や一般化された対称性を可能な限り尊重する方法を確立する。さらにフラクトンやゲージ理論と量子誤り訂正の関係を探求する。量子計算機・量子古典ハイブリッド計算機に適したハミルトニアン形式の場の量子論の有効な計算方法の確立を目指す 。特に、2023度は有限温度系の量子状態を生成するために、非ユニタリー演算子で書かれる「虚時間発展」の有効なアルゴリズムの実装・実行 ・検証を行う。 2023年4月上旬に場の量子論における量子計算の応用に関する研究会を開催する。また2023年10月には大学院生・ポスドクを対象としたサマースクールを開催し、当該分野の裾野を広げる。
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