研究領域 | 超温度場材料創成学:巨大ポテンシャル勾配による原子配列制御が拓くネオ3Dプリント |
研究課題/領域番号 |
21H05198
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
戸田 佳明 国立研究開発法人物質・材料研究機構, マテリアル基盤研究センター, 主幹研究員 (60343878)
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研究分担者 |
御手洗 容子 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (10343881)
中野 貴由 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (30243182)
松永 哲也 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 准教授 (30595905)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
111,280千円 (直接経費: 85,600千円、間接経費: 25,680千円)
2024年度: 20,410千円 (直接経費: 15,700千円、間接経費: 4,710千円)
2023年度: 20,540千円 (直接経費: 15,800千円、間接経費: 4,740千円)
2022年度: 20,540千円 (直接経費: 15,800千円、間接経費: 4,740千円)
2021年度: 29,120千円 (直接経費: 22,400千円、間接経費: 6,720千円)
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キーワード | チタン合金 / 積層造形 / 組織制御 / 高温特性 / 高温強度 / 析出 / 単結晶 / 力学特性 |
研究開始時の研究の概要 |
ジェットエンジン用材料であるチタン合金の超温度場下での単結晶化および微細粒化による適材適所の特性向上のため、3次元積層造形による結晶成長と相変態挙動を明らかにし、それによる組織制御と特性向上を目指す。特に、レーザー/電子ビームによる溶融・凝固プロセス中に発生する超温度場における組織の微細化を生かした組織形成と、力学特性を向上させた材料創成をめざす。
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研究実績の概要 |
2023年度は、実用材としてジェットエンジン圧縮機に使われているnear-β型Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo (mass%) 合金の粉末から、粉末床溶融結合型レーザービーム積層造形装置を用いて、レーザーパワーやスキャン速度を変えて積層造形体を作製し、これらの組織観察を行うことで積層条件と微細組織の関係について実験的に調べた。また、シングルスキャンレーザー照射実験と熱流体力学によるシミュレーションを行い、積層造形中の組織形成過程を解明した。その結果、一方向凝固的な組織、単結晶のような組織、多結晶組織等、積層条件によりβ相の結晶粒組織が様々に変化することが分かった。また、全ての積層条件において積層造形材に典型的な溶融池形態が観察され、冷却中に溶融池内にα相が生成した。そして、積層造形の体積エネルギー密度VEDが低いほど、形成されるα相のサイズが大きくなり、通常の積層造形されたチタン合金で観察される組織と傾向が異なる特異な組織が観察された。VEDが高い場合は転位密度が高くなることにより、α相の核生成サイトが増加し、微細なα相が生成したと考えられる。また、積層造形したチタン合金の高温特性向上に最適な析出形態を得るために、合金組成・積層条件・熱処理条件を計算で効率的に探索できると便利である。そこで、チタン合金の析出予測における組織自由エネルギー法の有用性を調査した結果、β型Ti-13V-11Cr-3Al合金のβ相過飽和固溶体におけるα相とTiCr2相の等温析出曲線図を、少ない入力パラメータで迅速に再現できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではこれまでに、near-α型Ti-6Al-4Nb-4Zr (mass%) の粉末から、粉末床溶融結合型レーザービーム積層造形装置を用い、レーザーパワーやスキャン速度を変えて冷却速度の異なる積層造形体を作製した。そして、積層造形材に異なる条件の熱処理を施すことで組織形成過程を明らかにし、これらの組織がクリープ特性に与える影響について調べた。その結果、クリープ寿命は粒径や溶融池サイズに依存し、その変形機構は粒界すべりが優先的に起こること、冷却速度の違いによる組成分配や等軸α相の有無がクリープ寿命に影響を及ぼすことを明らかにした。そして、等軸α相の生成を抑制し、組成分配を十分に行ったβ相/α相層状組織のクリープ特性が優れていることを見出し、この組織を用いることでクリープ強度と疲労のバランスが優れた新規耐熱チタン合金の創製が可能であることが示された。 さらに、実用材のnear-β型Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo (mass%) 合金の粉末から、粉末床溶融結合型レーザービーム積層造形装置を用いて、レーザーパワーやスキャン速度を変えて積層造形体を作製し、これらの組織観察や、シングルスキャンレーザー照射実験と熱流体力学によるシミュレーションを行うことで、積層条件と微細組織の関係について調べた。その結果、一方向凝固的な組織、単結晶のような組織、多結晶組織等、積層条件によりβ相の結晶粒組織が様々に変化すること、通常の積層造形されたチタン合金で観察される組織と異なり、体積エネルギー密度VEDが低いほど、サイズの大きなα相が形成されることを明らかにした。 2023年度までに実施する予定だった実験や計算を計画通りに遂行することができ、概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
① β相過飽和固溶体中にα相を析出させた積層造形体の強度とクリープ強度を測定し、組織形態と力学的特性の関連を得る。特に本年度は、超温度場により形成される固溶形態に注目する。金属および合金は、それら固有の電子構造を持つことが知られており、形成される電子構造に対する超温度場の影響を得る。本研究では、近赤外レーザーを利用した超高速パルスレーザー分光を実施する。この手法では、レーザー光による強電場により励起された非線形光学応答である高次高調波の偏光依存性(材料を中心に考えた場合は、結晶方位依存性)やスペクトル強度から金属の電子構造を計測・評価し、力学的試験から取得する特性データと電子構造を関連づける。 ② Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo (mass%) 合金の積層造形では、レーザービームのエネルギー密度が大きい条件でより微細なα相が生成するなど、特異な析出挙動を示した。この特異な組織形成を明らかにするために、他班と連携して、凝固のその場観察や凝固中の残留応力シミュレーションを行う。 ③ 従来型のα安定型チタン合金は、α相がマルテンサイト組織として生成するために、β安定型チタン合金のように結晶の成長方向を安定的に制御できないことが分かった。そこで、α相以外の第三相で析出強化を図ったβ安定型析出強化チタン合金を新たに開発する。今年度中に合金組成を検討して粉末を作成し、最終年度で積層造形ができるように準備する。単結晶ライクな粒内に析出物析出することで、当初の目的を達成する。 ④ エネルギー最急降下パスの仮定により、連続冷却中および等温時効中のβ相過飽和固溶体からα相や第三相の析出開始を迅速に予測する組織自由エネルギー法と、情報工学に基づく探索アルゴリズム(例えばモンテカルロ木探索法)と組み合わせ、積層造形に最適な析出開始時間・温度および析出量を有する合金組成を計算により探索する。
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