研究領域 | デジタル化による高度精密有機合成の新展開 |
研究課題/領域番号 |
21H05212
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
安田 誠 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (40273601)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
37,830千円 (直接経費: 29,100千円、間接経費: 8,730千円)
2024年度: 6,630千円 (直接経費: 5,100千円、間接経費: 1,530千円)
2023年度: 6,760千円 (直接経費: 5,200千円、間接経費: 1,560千円)
2022年度: 7,670千円 (直接経費: 5,900千円、間接経費: 1,770千円)
2021年度: 9,880千円 (直接経費: 7,600千円、間接経費: 2,280千円)
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キーワード | 選択的反応 / 機械学習 / 触媒 / 錯体 |
研究開始時の研究の概要 |
有機合成研究はこれまで多くの実験を行い、その中から適した反応条件や置換基を”力ずくで探し出す作業”が日常的に行われ、膨大な時間とコストを要している。本研究ではこの現状を打破するため、機械学習を用いた迅速かつ的確な触媒設計に基づく新反応開発をめざす。触媒構造情報をパラメータ化し、反応効率・選択性との相関を機械学習のデジタル情報として蓄積し、新しい選択的反応系の開発を行う。機械学習だからこそ見出せる化学選択性制御の基盤構築を行う。
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研究実績の概要 |
有機合成において、選択性の制御は重要である。炭素骨格の立体を制御する立体選択性、鏡像体比を制御するエナンチオ選択性、官能基を選別する化学(官能基)選択性など、多くの制御法が開発されてきた。しかし、炭素骨格の脂肪族/芳香族を見分ける反応はこれまで知られていない。なぜなら、脂肪族と芳香族はどちらも炭素と水素からなり、その分極はほとんどないため、見分けるためのファクターが存在しないと考えられてきた。しかし、弱い相互作用であるπ-πやCH-π相互作用を活用することができれば、芳香族を認識できると想起した。そのような背景から、カゴ型ホウ素錯体に芳香環を配したπポケット型カゴ型錯体を触媒として用いると、いくらかの選択性が発現することがわかった。このような触媒を多数合成し、その選択性との関係を機械学習により検討し、さらなる高選択性を与えると予想される錯体の候補を複数提案した。その中のいくつかを実際合成し、その結果、ベンゾフランを配したπポケット錯体が高い選択性を与えることが判明した。この錯体の類縁体を複数合成し、さらなる高選択的触媒の合成を試みたが、実際の結果としては、シンプルなベンゾフランを配したものが最も高い選択性を与えた。基質の5つ程度試し、いずれの場合もベンゾフランを配したπポケット錯体が良い結果を与えた。機械学習のパラメータ解析から、触媒の双極子モーメントが重要であることがわかり、これは、従来の化学の観点からは予想することができないことであった。このように、機械学習を用いたからこそたどり着くことのできる結論が得られたことは、本触媒の開発と同時に、今後の機械学習を用いた有機合成に対する新しい指針を与えるものであると評価できる。実際の合成的な改良として、フローシステムにこの触媒系を利用したところ、さらに大きな選択性の向上がみられ、実用性への可能性を強く示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
機械学習を活用して、脂肪族と芳香族を見分ける従来にはないタイプの選択性制御法の開発をめざした。最近その端緒となる触媒を見出し報告したところである。さらなる選択性の向上をめざし、鍵となる触媒の設計と合成に注力したところ、従来の結果を大きく超える選択性を与える触媒を見出すことができた。機械学習の活用が設計指針に与えた影響はきわめて大きく、画期的な分子構造を見出すことに大きく貢献した。この点で、当初の計画以上の進展が見られたと判断できる。 今回見出した触媒設計に至る過程において、領域内の共同研究が有効に機能した。領域の4つのグループでそれぞれが役割を分担した。触媒の設計提案、機械学習、合成、触媒反応検討、反応検討、選択性分析、パラメータ解析の各部門をそれぞれの強みを生かした分担により共同研究を実施した。この体制が、計画以上の進展を実現した大きな要因といえる。 機械学習において、多くのアルゴリズム解析を行い、その手法についても新しい試みを導入した。選択的合成反応開発だけでなく、機械学習の有機合成への新しい適応性についても新機軸を立てることができた。共同研究のグループに3つの機械学習に長けたメンバーに入ってもらい、お互いの知見を情報共有しながら進めたことが好結果を導いた。多種の解析法を融合させ、その組み合わせの中で最も信頼度の高い係数を示すものを選ぶ手法は、今後の有機合成解析の多くの反応に適用可能であると期待する。本領域全体への情報共有により、一気にこの手法の利用と実現に向けた展開を行うことが可能である。 その他の多くの有機反応に対して、常に機械学習の解析を取り入れる試みを行っており、多くの場合で、高い相関を示す解析が可能となっている。機械学習を情報として有機合成研究に取り入れる下地ができたことは、たいへん大きな進展であると考えられ、この点も計画以上に進展していると判断した理由である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により、選択性と触媒構造の相関を機械学習により解析が可能であること、そこから新しい触媒構造提案が実現できることを示すことができた。現在すでに、新しい反応系においても、この手法を展開することを考えている。ひとつは、フェノールを触媒とする光反応である。フェノールに少量の塩基を共存させたフォノキシド種は、光励起状態において高い還元能力を示すことが知られている。最近、フェノール誘導体と位置付けられるカテコール種が、きわめて高い光触媒活性を示すことがわかった。この反応では、フォトレドックス型で触媒が機能しており、きわめて興味がもたれる反応である。このカテコールおよびフェノール性化合物の誘導体を多く試し、その反応効率を調査することで、触媒構造と反応効率の相関を機械学習により検討していく。すでに予備的な結果を得ており、相関についてはある程度の目処が立っている。きわめて効率の良い触媒設計をめざした検討を行う予定である。 その他の当研究室で行っている多くの有機金属および配位性金属種の反応において、機械学習を適用した検討を行っていく予定である。いずれの場合もある程度相関関係が認められると予想される。そこから、新しい化学種の設計と合成までを目標として検討を行う予定である。特に、炭素-炭素結合形成反応における新しい反応種を機械学習によって見出すことをめざしている。 すでに以前報告した1,1-ヘテロ原子官能基化 超原子価において、超原子価ヨウ素反応剤の設計を機械学習によって行った。当時はまだ稚拙な機械学習法であったため、あらためて、現在の手法によって解析し、より高い反応性を有する超原子価ヨウ素反応剤の設計等合成を行う予定である。
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