研究領域 | 神経回路センサスに基づく適応機能の構築と遷移バイオメカニズム |
研究課題/領域番号 |
21H05243
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐々木 拓哉 東北大学, 薬学研究科, 教授 (70741031)
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研究分担者 |
船水 章大 東京大学, 定量生命科学研究所, 講師 (20724397)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
79,560千円 (直接経費: 61,200千円、間接経費: 18,360千円)
2024年度: 14,430千円 (直接経費: 11,100千円、間接経費: 3,330千円)
2023年度: 14,560千円 (直接経費: 11,200千円、間接経費: 3,360千円)
2022年度: 14,560千円 (直接経費: 11,200千円、間接経費: 3,360千円)
2021年度: 21,320千円 (直接経費: 16,400千円、間接経費: 4,920千円)
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キーワード | 海馬 / 遺伝子発現解析 / 電気生理計測 / 同期活動 / 記憶 / トランスクリプトーム解析 / 単一神経細胞 / スパイク / 傍細胞記録 / イメージング計測 / 遺伝子発現 / イメージング / エレクトロポレーション / マウス / レーザー顕微鏡 / 細胞多様性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、動物の適応行動に必要な記憶遷移を担う神経細胞1つ1つについて、遺伝子発現・形態・生理特性を網羅的に調べる実験技法を確立する。本技法を用いて、各神経細胞の発火活動が、どのような遺伝子発現プロファイルによって規定され、また解剖学的構造に裏打ちされるか解明する。これにより、記憶各フェーズに重要な神経機構を分子から行動まで因果的に繋ぐ研究を目指す。
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研究実績の概要 |
海馬は記憶形成に重要な役割を果たす。海馬で発生するシャープウェーブリップル(SWR)は記憶の固定化に重要であり、その際には多数の海馬ニューロンが同期して発火することが知られている。最近の研究から、海馬ニューロンの間でも、SWRへの参加率は大きく異なることが知られており、これは細胞特性の違いによるものと考えられている。特に、この特性は遺伝子発現パターンによって説明される可能性が高い。しかし、従来の電気生理学的な計測によるスパイクパターンと、個々のニューロンの分子生物学的な特性を包括的に解析するための適切な方法は存在していなかった。そこで本研究では既存の技術を統合して、生体内において記録された海馬ニューロンの遺伝子発現プロファイルを分析する実験技術を開発した。この技術では、生きた動物脳における単一傍細胞記録、細胞ラベリング、脳スライスの作製、スライス上におけるパッチクランプ記憶、および単一細胞RNAシーケンシングを連続的に行う。生体マウスからのニューロンのスパイクパターンを傍細胞記録した後に、その状態で記録されたニューロンに水溶性の蛍光色素を電気穿孔して細胞をラベリングする。その直後に、同マウスから急性海馬スライスを調製する。スライス内で、ラベルされたニューロンは顕微鏡下でガラスパイペットを使用して収集される。最後に、収集した細胞から単一細胞RNAシーケンシングを行い、その遺伝子発現プロファイルを特定する。この方法を用いて、40個の海馬CA1錐体細胞の電気生理学的記録と遺伝子発現解析を行った。現在、SWRへの参加率と遺伝子発現の相関分析を進めており、いくつかの候補遺伝子が見出されつつある。これらの研究成果は、本学術変革領域を推進する上でも、重要な技術の1つとして貢献している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、in vivo juxtacellular recordings、細胞ラベリング、脳スライス、RNAシークエンシングの技術融合を完了し、必要なデータを当初の予定通り得た。またデータ解析から有用な知見が見出されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに確立した研究技術及び得られたデータから、SWRの参加率と関連する候補遺伝子が見出されつつある。今後は、海馬ニューロンの発火特性とシャープウェーブリップルとの相関関係やUMAP解析をはじめとした多変量解析を適用する予定である。これまでの検討では特に、カリウムチャネルをコードする遺伝子が重要な候補であると考えられる。今後は、これらの遺伝子を改変した動物や細胞標本において、SWRとの神経活動の関連を調べていくことで、生体内でのスパイクパターンが個々のニューロンの遺伝子発現プロファイルとどのように関連しているか明らかにする重要な一例になると期待される。また、今後は傍細胞記録法を麻酔動物のみならず、自由行動をしている動物にも適用してさらに発展させることも検討する。これまでに、頭部固定や揺れの軽減など、詳細な条件検討を行って一部確立されつつあるため、できるだけ早期に本技術を実現させたいと考える。これにより、個体の適応行動と神経細胞による情報処理、また遺伝子発現をはじめとする分子機構を直接関連づける有用な手法になると期待される。さらに、記録の対象領域を海馬だけでなく、体性感覚皮質や聴覚皮質、視床網様核、大脳基底核黒質などの多様な領域に適用範囲を広げることを検討している。さらに、神経細胞の光遺伝学的な操作も可能にする予定である。これにより、単純な神経細胞の活動計測だけでなく、様々な操作や介入を可能にすることで、多様な神経細胞応答を調べるための有用なツールになることが期待される。これらの検討を通じて、本学術変革領域を推進するために重要な技術を提供する。
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