研究領域 | 新興硫黄生物学が拓く生命原理変革 |
研究課題/領域番号 |
21H05268
|
研究種目 |
学術変革領域研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
|
研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
潮田 亮 京都産業大学, 生命科学部, 准教授 (30553367)
|
研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
72,280千円 (直接経費: 55,600千円、間接経費: 16,680千円)
2024年度: 12,740千円 (直接経費: 9,800千円、間接経費: 2,940千円)
2023年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
2022年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
2021年度: 19,370千円 (直接経費: 14,900千円、間接経費: 4,470千円)
|
キーワード | タンパク質品質管理 / 小胞体 / 分子シャペロン / レドックス / フォールディング / カルシウム |
研究開始時の研究の概要 |
小胞体のレドックス環境はサイトゾルと比べ、酸化的な環境とこれまで信じられてきた。タンパク質品質管理に関わる電子受容体または電子シグナル媒体としての超硫黄分子・超硫黄修飾の役割を明らかにし、新たな電子伝達経路の発見を目指す。超硫黄の関与というこれまでとは全く異なる切り口でタンパク質品質管理のメカニズムを解明することで、タンパク質品質管理機構の破綻(小胞体ストレス)によって引き起こされる様々な疾病の新たな治療法開発につながる基盤を構築する。
|
研究実績の概要 |
小胞体はタンパク質フォールディングの場とされ、様々な分子シャペロンや酸化異性化酵素によって、フォールディングが介助される。代表的なフォールディング基質であるIgGは抗体医薬品の普及により、その供給が薬価に大きく影響を与えるなど、IgG生産量の改善は大きな注目を集めている。IgGは、軽鎖と重鎖が硫黄を介したジスルフィド結合形成によって、複合体を形成している。CHO細胞を用いた培養では、これまで培養後期にIgGの産生効率が著しく低下することが課題であった。今回、第一三共株式会社との共同研究によって、小胞体の代表的な分子シャペロンBiPのプロモーターを導入することにより、従来の抗体産生量をおよそ2倍に向上させ、これら成果をまとめることが出来た(Tanemura et al. 2022)。BiPは、小胞体ストレスによって誘導される代表的な分子シャペロンであり、抗体産生効率の向上と小胞体プロテオスタシスの維持、特にジスルフィド結合形成効率との関係は興味深い。また、小胞体は細胞のカルシウムイオン貯蔵庫として働き、放出したカルシウムイオンは、様々な生命現象のセカンドメッセンジャーとして機能する。今回、小胞体カルシウムイオンチャネルのイオン輸送能が、ジスルフィド結合の形成と解離によって制御されることがわかり、小胞体の酸化酵素および還元酵素がその制御に関与することを明らかにした(Fujii et al. 2023)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験に必要なラジオアイソトープの生産がストップし、当初の計画が延期となった。しかし、IgG抗体の産生量を向上するプロモーターを同定でき、学術的・社会的にもインパクトのある成果をまとめることが出来た。また、カルシウムイオンチャネルのレドックス制御を明らかにし、活性化および不活性化に必要な酵素群を同定することが出来た。これらの研究成果は、タンパク質の持つ硫黄がその構造形成・活性に重要な役割を果たすことを明らかにしたものであり、その調節機構の詳細を理解することが今後の研究の課題にもなるだろう。概ね研究計画通りに進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
還元酵素ERdj5の還元反応は、タンパク質品質管理において末期的ミスフォールドタンパク質のジスルフィド結合を切断することにより、逆行輸送チャネルとの立体障害を低減し、基質の小胞体からサイトゾルへの逆行輸送を効率化する。また、ERdj5は小胞体膜に存在するカルシウムポンプやチャネルのジスルフィド結合を解離し、それぞれのカルシウム輸送活性を制御することを見出した。ERdj5が還元酵素として機能するためには、ERdj5へ電子を供給するための電子ドナーが必要とされる。還元酵素ERdj5への硫黄を媒体とした電子伝達機構を明らかにする。 小胞体のレドックス環境は、酸化型グルタチオン(GSSG)と還元型グルタチオン(GSH) との平衡によって維持され、小胞体ではGSSG:GSH比はおよそ1:1に保たれている。グルタチオンは、グルタチオン合成酵素によってサイトゾルで合成され、小胞体内腔におけるグルタチオン濃度は高く維持されているにも関わらず、どのように小胞体内腔に輸送されるのか全く分かっていない。本研究では小胞体グルタチオン輸送体の同定に挑んでいる。昨年度、候補因子の高純度精製に成功しており、引き続きクライオ電顕で輸送体の構造を明らかにしたいと考えている。
|