研究領域 | 新興硫黄生物学が拓く生命原理変革 |
研究課題/領域番号 |
21H05272
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 京都大学 (2022-2024) 大阪大学 (2021) |
研究代表者 |
三木 裕明 京都大学, 工学研究科, 教授 (80302602)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
72,410千円 (直接経費: 55,700千円、間接経費: 16,710千円)
2024年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
2023年度: 12,870千円 (直接経費: 9,900千円、間接経費: 2,970千円)
2022年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
2021年度: 19,370千円 (直接経費: 14,900千円、間接経費: 4,470千円)
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キーワード | シグナル伝達 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究ではがん悪性化に重要なPRLなどタンパク質のシステイン側鎖に生じる超硫黄酸化物の状態を質量分析装置などを利用して調べ、その活性酸素による生成やチオレドキシンファミリーによる分解などの仕組みを明らかにする。またシステインの超硫黄酸化によるタンパク質分子のダイナミックな機能調節が細胞機能を制御するシグナル伝達の中で働く仕組みを調べ、細胞のがん化など高次レベルでの生命機能における重要性を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究では、タンパク質のシステインのチオール側鎖に生じる超硫黄体の酸化物が翻訳後修飾を構造的に模倣することで、タンパク質分子の動的な機能調節に関わる分子メカニズムを明らかにするための解析に取り組んでいる。2022年度は、これまで私たちが機能解析してきたレドックス応答分子phosphatase of regenerating liver(PRL)の活性システイン置換マウスの作成や、メジャーな活性酸素種として知られる過酸化水素を分解する酵素peroxiredoxin(PRX)の超硫黄化とオリゴマー形成に関する解析などを進めた。PRXは6つのファミリー分子が存在しているが、各分子種での超硫黄ドナーNa2S4に対する応答性に大きな違いが見られた。PRX-1が刺激応答性にオリゴマー形成したのに対し、PRX-1とよく似ており同様に細胞質に存在しているPRX-2ではほとんどオリゴマー形成が見られなかった。また小胞体内に局在することが知られるPRX-4では刺激の有無に関わらず、恒常的にオリゴマーを形成していることが分かった。内在性のPRX-4を検出できる抗体を用いた解析でも恒常的なオリゴマー形成が確認された。このようにPRXの分子種によってオリゴマー形成に違いがあることは非常に興味深い発見と言える。一方で、PRLの中のリン酸化を受けるシステイン残基をアスパラギン酸に置換して、生物学的機能を保持したままでリン酸化を受けない一アミノ酸置換変異型アリルをホモ接合で持つマウスの作出に成功した。出生数が野生型やヘテロ型のマウスと比較してやや少ない傾向があり、その定量的な検討を進めているところであるが、これらホモ型のシステイン置換マウスを用いて生体レベルでの機能解析が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は前年度に引き続き、活性システインを持つタンパク質の超硫黄化や過酸化の生物学的意義を明らかにすることを目的として本研究に取り組んだ。特に、PRLやPRXを解析対象として計画していたさまざまな実験を実施することで、いくつかの興味深い成果を得ることができ、また今後の研究の進展につながる成果を得ることができた。特に、レドックス応答分子PRXの超硫黄ドナー刺激によるオリゴマー化が、各ファミリー分子種によって大きく異なっていることが明らかになった。オリゴマー化するものやしないもの、また恒常的にオリゴマー化しているものなど、その違いが何に起因しているのか非常に興味深い。またPRLの活性システインを欠損しながらも、その分子機能を保持したアミノ酸置換変異型アリルをホモで有するマウスを作出することもできた。今後の研究の進展に寄与する十分な成果が得られており、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の重要な研究成果の一つとして、超硫黄ドナーに応答して起こるオリゴマー形成特性がPRXのファミリー分子種によって大きく異なっていることがわかった。PRXファミリーは互いに相同な配列を持ち過酸化水素分解活性を共通に持ちつつも、レドックス応答性のシステインの数や細胞内での局在など互いに異なっている部分もある。この違いが何に起因しているのかを追究することが一つの課題である。また、PRXは過酸化水素分解に働くほか、分子シャペロンとしての機能も持っていることが示唆されているが、私たちの見つけた超硫黄ドナー刺激によるオリゴマー形成がどのような生化学的、生物学的効果を発揮しているのかはまったく分かっていない。培養細胞を用いて細胞増殖や細胞死など基本的な細胞特性にどのような影響があるのか、特にPRXが寄与すると考えられているがん化や抗がん剤耐性などへの効果について検討する。また私たちがこれまで世界をリードして機能解析を進めてきたPRLに関して、活性システインを置換したマウスを作成することができた。このマウスの表現型の観察などから、活性システイン残基に起こる化学修飾の生物学的重要性を明確にできる可能性がある。今後の研究では、これらの課題について重点的に取り組んでゆくことを考えている。
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