研究領域 | 非ドメイン型バイオポリマーの生物学:生物の柔軟な機能獲得戦略 |
研究課題/領域番号 |
21H05279
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
荒川 和晴 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 教授 (40453550)
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研究分担者 |
國枝 武和 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (10463879)
田中 冴 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(機構直轄研究施設), 生命創成探究センター, 特任助教 (60770336)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
142,740千円 (直接経費: 109,800千円、間接経費: 32,940千円)
2024年度: 25,610千円 (直接経費: 19,700千円、間接経費: 5,910千円)
2023年度: 25,740千円 (直接経費: 19,800千円、間接経費: 5,940千円)
2022年度: 25,610千円 (直接経費: 19,700千円、間接経費: 5,910千円)
2021年度: 39,910千円 (直接経費: 30,700千円、間接経費: 9,210千円)
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キーワード | 非ドメイン型タンパク / クマムシ / 天然変性タンパク / 乾眠 |
研究開始時の研究の概要 |
極限環境耐性を持つクマムシは種特異的なタンパク質を多数有しており、それらの多くは煮沸処理後も可溶性を失わない「熱可溶性」という特異な性質を示す。本研究ではクマムシが示す優れたストレス耐性能力に注目し、クマムシ特異的な非ドメイン型タンパク質の細胞レベルでの機能解析を進めると共に、それらの分子レベルの作用機序から個体レベルでの生理機能まで、全階層横断的な解析を主導的に進める。さらに、比較ゲノム解析の手法を駆使して配列への機能依存性を高めずに機能を獲得する分子進化戦略を明らかにするほか、クマムシ特異的タンパクを強制発現し、新たな生体機能を持った個体の作製も目指す。
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研究実績の概要 |
極限環境耐性を持つクマムシは種特異的なタンパク質を多数有しており、それらの多くは煮沸処理後も可溶性を失わない「熱可溶性」という特異な性質を示す。本研究ではクマムシが示す優れたストレス耐性能力に注目し、クマムシ特異的な非ドメイン型タンパク質の細胞レベルでの機能解析を進めると共に、それらの分子レベルの作用機序から個体レベルでの生理機能まで、全階層横断的な解析を主導的に進めることを目的としている。 今年度はクマムシ内で任意の遺伝子を発現させる手法TardiVecを開発し、広く利用できる形で公開を開始した。本システムにより、クマムシ乾眠関連タンパク質が想定以上に多様な組織特異性を持つこと、さらに、乾眠導入時間に大きな違いがあるクマムシ間でも本システムがそのまま利用できたことから、乾眠関連遺伝子の発現制御がプロモーター以外の場所で制御されている可能性が明らかとなった。 また、前年度までに明らかにしていたストレスに応答して線維化するクマムシ固有の耐性タンパク質CAHS3について、クマムシ成体の表皮細胞と体腔細胞に発現し乾燥依存に密な繊維状ネットワークを形成すること、またその存在量がin vitroでゲル転移を引き起こすに足る濃度とほぼ同等であることを明らかにし、クマムシ細胞においてもCAHSタンパク質が線維化・ゲル転移を誘起することを示唆した。また、線維化能の異なるCAHSパラログ間のスワップ・変異導入解析から乾燥時に形成されるヘリックス構造における電荷アミノ酸の連続した局在が繊維化に決定的であり、静電相互作用が重要な形成基盤であることを示唆した。さらに、ゲノム編集技術の改良を進めてゲノム改変クマムシ個体の作出法を確立し、乾眠候補遺伝子について複数のノックアウト・ノックイン系統を樹立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、クマムシにおける分子生物学的手法の解析として遺伝子発現系とゲノム編集系の双方を確立し、それらを用いてクマムシ内部における非ドメイン型タンパクの実際の挙動を解析することに成功している。また、新規クマムシゲノムの解析も順調に進展しており、これまでにみつかっていない数百の新規ドメイン型タンパク候補を得られている。今後これらをより詳細に機能解析など行っていく土台ができつつある。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに開発した二つの新技術、Droplet-MDAによる超微量ゲノムDNAからの全ゲノム解析と、クマムシ発現ベクターのマイクロインジェクションによるクマムシにおける任意のタンパク発現系を用いて、1.飼育ができない系統を含める多様なクマムシのゲノム解析から、各系統に固有のものや、緩歩動物門に共通する新規非ドメイン型タンパクを探索し、2.これまでに同定してきたクマムシ固有非ドメイン型タンパクについて、パラログ遺伝子ごとにクマムシ内で過剰発現ないし発現抑制を行い、その機能解析を進めることで、これらタンパクが乾燥において細胞を保護する機構を明らかにする。スクリーニングにおいては、配列保存性が見られないこれら非構造タンパクの類似性を、Alphafold2などによる立体構造予測を伴ったクラスタリングを用いることで評価できる新規情報学的手法も開発を進める。また、並行して昨年度新たに開発したCRISPR/Cas9によるゲノム編集個体作出技術を用いることで、これまで見出してきた耐性に関わる候補タンパク質群について、ノックアウトクマムシ個体を作出し耐性に必須な新規タンパク質群を特定する。また、これまでに同定した既知の耐性タンパク質について協調作用分子の特定を試みるとともに、配列への変異導入による機能への影響を in vitro 、培養細胞、クマムシ個体を用いて解析することで詳細な耐性メカニズムの解明を目指す。
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