研究領域 | 競合的コミュニケーションから迫る多細胞生命システムの自律性 |
研究課題/領域番号 |
21H05284
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井垣 達吏 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (00467648)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
154,050千円 (直接経費: 118,500千円、間接経費: 35,550千円)
2024年度: 29,770千円 (直接経費: 22,900千円、間接経費: 6,870千円)
2023年度: 30,030千円 (直接経費: 23,100千円、間接経費: 6,930千円)
2022年度: 29,900千円 (直接経費: 23,000千円、間接経費: 6,900千円)
2021年度: 34,060千円 (直接経費: 26,200千円、間接経費: 7,860千円)
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キーワード | 細胞競合 / 細胞間コミュニケーション / 自己最適化 / ショウジョウバエ / 多細胞生命システム / 自律性 / 自己組織化 |
研究開始時の研究の概要 |
発生中のショウジョウバエ上皮において、細胞間に生じたわずかな性質の差が「細胞競合」を引き起こし、生体内環境への適応度が低い細胞が排除され高い細胞が選択されて成体を形成する。本研究では、ショウジョウバエ上皮において細胞競合を引き起こしうる遺伝子変異を網羅的に同定してその分子機構を解析し、細胞競合の多様性とその普遍的法則を見いだすとともに、細胞競合の生理的役割を解明する。これらの解析を通じて、細胞競合による多細胞生命システムの自律性の生成メカニズムの解明に迫る。
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研究実績の概要 |
近年、発生中のショウジョウバエ成虫原基において、細胞間に生じた僅かな性質の差が「細胞競合」を引き起こし、生体内環境への適応度が低い細胞が排除され、高い細胞が選択されて成体を形成することがわかってきた。しかし、細胞競合の分子機構や生理的意義はいまだ不明な点が多い。我々は最近、ショウジョウバエにおいてこれまで想定されていた以上に多数の細胞競合誘発変異(細胞競合トリガー)が存在し、それらの分子メカニズムも多様であることを見いだした。そこで本研究では、ショウジョウバエ成虫原基において細胞競合を引き起こしうる遺伝子変異を網羅的に同定してその分子機構を解析し、細胞競合の多様性とその普遍的法則を見いだすとともに、細胞競合のマスター制御因子や特異的マーカー分子を同定して細胞競合の生理的役割を解明することを目指す。さらに、本領域内での共同研究を通じて、細胞競合による多細胞生命システムの自律性の生成メカニズムの解明に迫る。これまでの本研究において、多数の細胞競合トリガー変異を単離・解析し、細胞競合現象が転写因子Xrp1あるいはストレスキナーゼJNKに依存する2つのシグナル経路に収束することを明らかにした。JNKシグナルの上流には細胞膜受容体であるTNF受容体が存在し、その活性化に細胞間接着の破綻が重要な役割を果たしていることを見いだした。また、多くの細胞競合トリガーが共通してXrp1の発現誘導を介して細胞内タンパク質合成能を低下させ、これにより勝者細胞に隣接する敗者細胞で特異的にオートファジーが誘導され細胞死が起こることを明らかにした。さらに、この敗者細胞におけるオートファジー誘導に必要な分子群を同定し、その下流でCa2+シグナルを介してオートファジーが制御されることを見いだした。一方、Xrp1の発現誘導メカニズムの遺伝学的解析を進め、リボソームタンパク質が重要な役割を果たすことを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、細胞競合の普遍性・多様性とその分子メカニズムを解明するとともに、生理的な細胞競合を捉えてその役割を解明し、最終的には細胞競合による細胞集団の自己最適化の原理を解明することを目指す。これらを達成するため、発生中のショウジョウバエ成虫原基において細胞競合を引き起こしうる遺伝子変異(細胞競合トリガー)を網羅的に同定し、その動作機序を明らかにしていく。また、細胞競合のマスター制御因子や特異的マーカー分子を同定し、生理的な細胞競合を捕捉してその役割を解明していく。これまでの解析において、多数の細胞競合トリガーを同定することに成功し、それらのメカニズムが主に2つのシグナル経路に収束すること、またその上流イベントを制御する複数の分子群を同定することに成功した。また、細胞競合の敗者で発現誘導されるXrp1が細胞内タンパク質合成能を低下させ、その下流で細胞死誘導に寄与するオートファジーが活性化することを見いだし、その活性化に関わる分子群の同定に成功した。一方、Xrp1の発現誘導に複数のリボソームタンパク質が関与することを見いだし、その発現誘導メカニズムを理解するための重要な手掛かりを得た。さらに、TNFおよびXrp1に着目した生理的細胞競合の捕捉と解析についても順調に進展している。以上のことから、本研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析において、様々な細胞競合トリガーが転写因子Xrp1あるいはストレスキナーゼJNKを介した2つのシグナル経路に収束して細胞競合の「敗者ステータス」を導くことを見いだした。また、JNKの上流で働くTNF/TNF受容体とその活性化に関わる分子群、およびXrp1の発現誘導とその下流でオートファジー活性化に関わる分子群を同定することに成功した。そこで今後は、1)敗者細胞におけるTNF/TNF受容体シグナル経路の活性化メカニズム、2)敗者細胞におけるXrp1発現誘導メカニズム、および3)勝者-敗者細胞間のタンパク質合成能の差が敗者細胞でオートファジーを活性化するメカニズムを遺伝学的に明らかにしていく。さらに、TNF/TNF受容体シグナルおよびXrp1発現誘導に着目し、ショウジョウバエ発生過程および加齢に伴って誘導される4)生理的細胞競合を捕捉し、その役割を明らかにしていく。
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