研究領域 | 競合的コミュニケーションから迫る多細胞生命システムの自律性 |
研究課題/領域番号 |
21H05291
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 大阪大学 (2024) 金沢大学 (2021-2023) |
研究代表者 |
戸田 聡 大阪大学, 蛋白質研究所, 准教授 (20738835)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
88,010千円 (直接経費: 67,700千円、間接経費: 20,310千円)
2024年度: 14,040千円 (直接経費: 10,800千円、間接経費: 3,240千円)
2023年度: 14,170千円 (直接経費: 10,900千円、間接経費: 3,270千円)
2022年度: 14,040千円 (直接経費: 10,800千円、間接経費: 3,240千円)
2021年度: 31,590千円 (直接経費: 24,300千円、間接経費: 7,290千円)
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キーワード | 合成生物学 / 自己最適化 / 細胞間コミュニケーション / パターン形成 / 細胞競合 / 細胞間相互作用 / モルフォゲン |
研究開始時の研究の概要 |
生体組織は、内部に生じるばらつきや異常を排除して、自身の構造や機能を最適化する自律性を備えている。近年、生体の自律性には、異質な細胞を排除する現象である細胞競合が重要であることがわかってきたが、自律性を生成する細胞間相互作用の全体像は不明である。そこで本研究では、培養細胞に細胞間コミュニケーションを人工的に構築した多細胞合成系を作製し、自律的な細胞集団のふるまいを再構成することで、自律性生成に必要十分な要素を解明する。
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研究実績の概要 |
本研究は、人工的な細胞間コミュニケーションにより細胞集団がその配置やパターンを自律的に最適化する過程を再構成することで、多細胞システムが自律性を生成する原理を明らかにすることを目的とする。まず、生体組織内で自律的に形成されるモルフォゲン勾配を培養皿上で再構成することを目指した。研究代表者はこれまでに、細胞が蛍光分子GFPを分泌し、そのGFPを細胞表面に結合することにより遺伝子発現を制御する細胞間シグナル伝達モデル「人工モルフォゲン系」を開発した。さらに、この系を3次元スフェロイドに導入し、拡散するGFPに対して細胞がどのような遺伝子発現応答を誘導すれば、3次元組織内に正確な多細胞パターンを形成できるか検証する実験系を樹立した。その結果、モルフォゲンのシグナル勾配と細胞接着分子カドヘリンの誘導を連動させることで、勾配状のシグナルから活性がオンとオフの2領域からなる組織パターンを形成できることを見出した。このとき、分泌されたGFPによるカドヘリンの誘導は、弱く活性化した細胞を凝集させることでばらつきを解消すると同時に、一定のレベル以上にカドヘリンを発現した細胞がGFPの濃度勾配の中で混ざり合うことで、一様に活性化したドメインを形成することを見出した。以上の結果から、モルフォゲンを受け取った細胞での接着様式の変化がパターン形成の自律性を生み出す要素の1つであると考えられる。 また本研究では、細胞間に人工的な競合関係を構築し、異質な集団を含んだ細胞集団が自身を均一な集団へと最適化するための条件も探索する。これまでに、人工的な細胞間コミュニケーションにより細胞死を誘導する人工競合システムを樹立した。さらに、薬剤依存的に人工的な競合を誘導し、勝者細胞、敗者細胞、死んだ敗者細胞のそれぞれを蛍光標識して、細胞集団の変化をリアルタイムに観察できるin vitroモデル系を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人工モルフォゲン系を3次元スフェロイドに導入し、GFPを分泌するスフェロイドとGFPを受容するスフェロイドを共培養することで、拡散するGFPが組織内にどのような遺伝子発現パターンを形成するか解析した。これまでに蛍光レポーターに加えて細胞接着分子カドヘリンを誘導すると、勾配内のばらつきを解消することに加え、なだらかなモルフォゲン勾配から活性がオンとオフに分かれた2つのドメインからなるパターンを形成することができた。さらに、モルフォゲンと細胞接着の連動によるパターン形成の仕組みを定量的に解析することで、カドヘリンの発現量と機能の間にある非線形な関係性を見出した。これにより、一定のレベル以上にカドヘリンを発現した細胞は、GFP濃度勾配の中でコンパクションを誘導し、さらには混ざり合うことで、シグナル勾配中で一様に活性化したドメインを形成できることを明らかにした。人工モルフォゲン系を用いたパターン形成の再構成により、その自律的なパターン形成過程を詳細に解析することができ、順調に研究が進展している。 また、細胞間に人工的な競合関係を構築し、薬剤添加によって人工競合システムを発動させ、細胞集団のダイナミクスをリアルタイムで評価可能なモデル系を樹立した。こちらも当初の予定通り進んでおり、競合関係により細胞集団の割合がどのように変化していくかを様々な条件下で体系的に解析することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、モルフォゲンの勾配シグナルと接着分子の誘導による細胞ソーティングを連動させることで、モルフォゲン勾配内のシグナルのばらつきを解消しながら、明確な2つのドメインからなるパターンを形成できることを見出した。一方で、隣接細胞や基底膜と強く接着している上皮細胞は、効率よく細胞ソーティングを引き起こせないため、上皮組織において自律的にパターンを形成するためには別の仕組みが必要である。本領域の石谷班は、ゼブラフィッシュの初期胚で見られるモルフォゲンWntのシグナル勾配では、勾配内に生じる異常な活性をもった細胞は細胞競合により排除されることを報告している。そこで、今後は上皮細胞集団において、モルフォゲンシグナルの下流で細胞競合因子や、細胞がもつ張力などの機械的特性の制御に関わる因子を誘導することで、上皮組織がばらつきを含むシグナル勾配を自律的に修復する十分条件を探索する。 また、異質な集団を含んだ細胞集団が自身を均質化する仕組みを解明するため、培養細胞間に競合的コミュニケーションを人工的に構築したモデルシステムにおいて、細胞集団の均質化が効率よく進む条件を探索する。具体的には、勝者細胞と敗者細胞を混合する比や配置の操作、培養条件の操作、3次元スフェロイドでの検証などを通して、細胞集団が自律的に均質化するための十分条件を探索する。 上記に加えて、synNotchシステムを用いた細胞競合制御因子の分子スクリーニングなど、引き続き領域内での共同研究を進める。
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