研究領域 | 量子もつれ光子対による原子核-多分子間相互作用プローブを活用した診断治療学の創生 |
研究課題/領域番号 |
22H05025
|
研究種目 |
学術変革領域研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 健 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30507091)
|
研究期間 (年度) |
2022-05-20 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
28,080千円 (直接経費: 21,600千円、間接経費: 6,480千円)
2024年度: 9,360千円 (直接経費: 7,200千円、間接経費: 2,160千円)
2023年度: 9,360千円 (直接経費: 7,200千円、間接経費: 2,160千円)
2022年度: 9,360千円 (直接経費: 7,200千円、間接経費: 2,160千円)
|
キーワード | 核壊変 / 量子もつれ / 摂動角相関 / 分子間相互作用 / 第一原理計算 / 光子対診断治療学 / 電子ダイナミクス / 量子もつれガンマ線放射 / 第一原理シミュレーション |
研究開始時の研究の概要 |
放射性核種を標識した分子を生体内に導入し、周辺の情報をガンマ線によって体外から非侵襲測定する光子対診断技術を実現するには、生体内の放射性分子の挙動について詳細な理解が欠かせない。特に、(1) 放射性核種の核壊変が引き起こす初期電子ダイナミクスの解明と、(2) 生体分子中の電子状態の変化が核スピンダイナミクスに与える影響の理解が不可欠である。本研究では、量子もつれガンマ線放射による分子間相互作用プローブの第一原理計算手法の開発と応用を行う。
|
研究実績の概要 |
放射性核種を標識した分子を生体内に導入し、周辺の情報をγ線によって体外から非侵襲測定する光子対診断技術を実現するには、生体内の放射性分子の挙動について詳細な理解が欠かせ ない。特に、(1) 放射性核種の核壊変が分子中の電子をどれほど掻き乱し、平衡に達するのに要す る時間はどの程度か?すなわち核状態の変化が引き起こす初期電子ダイナミクスの解明と、(2) 放射性分子の生体内での電子状態変化の情報が、どのように・またどの程度γ線放出に影響を与えるか?すなわち電子状態の変化が核スピンダイナミクスに与える影響の定性的・定量的理解が不可欠である。そこで本研究では、量子もつれガンマ線放射による分子間相互作用プローブの第一原理計算を目的とする。具体的には、 (1) 核壊変直後の電子ダイナミクスの第一原理シミュレーション手法 (2) 生体内の放射性分子からのガンマ線放射を理論的に予測する手法 を確立する。これらを用いたシミュレーション結果を各班の実験結果とあわせて光子対診断治療学で中心的役割を担うプローブ分子設計を推進し、光子対診断治療学の学理創成を目指す。令和4年度は(2)を実施した。すなわち、代表者らが開発し、波動関数理論より格段に小さなコストで分散力(van der Waals力の主要項)を記述できる密度汎関数理論を応用し、生体内電場、磁場環境、 pHなどの摂動からガンマ線放射を理論的に予測する計算手法を確立した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来のDFTは生体分子の相互作用で重要な分散力を記述出来なかった。代表者らのDFTは分散力を効率的かつ高精度に記述できる。本研究でこれを応用し、生体環境中の放射性分子の電子状態からガンマ 線放出を予測する計算手法を開発した。ガンマ線放射予測は原理的にはシンプルで、放射性核の四重極子モーメントQと分子(電子と他の核)が放射性核の位置に作る電場勾配Vとの相互作用から成るスピンハミルトニアン(111Inからの中間準位はスピン5/2なので次元は6)を解けばよい。本研究では、DFT計算による電子密度から電場勾配を算出し、 PAC実験の放出角度や時間依存PAC摂動係数を予測する計算コードを作成した。これにより小さな分子で高精度PAC予測が可能になった。研究実績の概要欄に記した研究項目(2)の主要部分が達成されたので、現在までの進捗状況を「(2)おおむね順調に進展している」と評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は研究実績の概要欄に記した項目(1)を遂行する。具体的には、代表者らの時間依存波動関数理論を、放射性分子中の核壊変が駆動する電子ダイナミクスに拡張す る。まず (1-1) 核壊変を核電荷の急変(例えば電子捕獲にともなう原子番号減少)として扱う。これにより電子相関由来のオージェ過程をシミ ュレートできる。 次に (1-2) 核の電荷分布をモデル化して電子系を解く。これにより超微細相互作用等を考慮することができる。更に (1-3)QEDに基づく手法 [Phys. Rev. A, 99, 022120 (2019)] を採用して放射場も量子的に扱う。これにより特性X線放出をシミュレートできる。可能であれば(1-4)陽子-中性子自己束縛系としての原子核を量子力学的に解き、 核の基底・励起状態を第一原理的に求めた後に電子系を解く。開発した計算コードを利用してまず、放射性分子の分光パラメータを系統的に計算する。これを富田班の精密レーザー分光技術による測定結果 と比較して計算精度を確認する。次に、In(111)の電子捕獲やHf(181) のβ崩壊後の特性X線放出、オージェ電子放出、原子間クーロン緩和等を 精密にシミュレートし、核の急変でかき乱された電子が平衡状態に達するまでのフェムト秒-ピコ秒ダイナミクスを理解する。 これにより例え ば、後遺効果の核種依存性、ドープされる分子環境依存性について知見を集め、実験各班と共有する。
|