研究領域 | 構造不規則系のレオロジー:アナンケオン動力学の確立 |
研究課題/領域番号 |
22H05042
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研究種目 |
学術変革領域研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
足立 望 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00758724)
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研究期間 (年度) |
2022-05-20 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
53,300千円 (直接経費: 41,000千円、間接経費: 12,300千円)
2024年度: 17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2023年度: 17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
2022年度: 17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
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キーワード | 金属ガラス / 力学特性 / 変形機構 / 構造不規則系 / 弾塑性変形 / 構造解析 |
研究開始時の研究の概要 |
材料の変形のし易さや強さ(力学特性)を意図的に制御するためには,材料の変形を原子レベルで理解することが必要不可欠である.不規則な原子構造を持つ金属ガラスは,変形中に時々刻々と複雑に構造を変えるため,変形を司る原子構造が明らかになっていない.本研究では,加工技術を駆使して単純な構造を持ち、且つ力学特性が異なる金属ガラスを新たに創製することで,力学特性と原子構造の高精度な比較を実現し,金属ガラスにおける変形を司る構造(アナンケオン)の解明を目指す.
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研究実績の概要 |
構造不規則系材料の一つである金属ガラスの弾塑性変形の意図的な制御には原子集団励起現象(STZ)と原子構造の関係の理解が鍵となるが、静的な欠陥に着目した従来アプローチでは解明に至っていない。本領域では動的構造変化に潜む動的素励起による局所構造遷移(アナンケオン)とそれらの相互作用の理解を通して構造不規則系材料の変形の理解を目的としている。本計画研究では,変形中のアナンケオン活性化に伴う動的構造変化を高精度に測定し、それらの力学挙動を評価・解析することによって,アナンケオンを素励起とするSTZの活性化過程を定量的に評価する。これらの結果から,弾塑性変形と原子構造変化を関連付け,アナンケオンの構造の実験的解明を目指す. 金属ガラスにおけるSTZやその素励起アナンケオンと原子構造の関係解明を困難としている原因は,(1)力学試験に十分な体積を有する試料を安定的に供給するためには3つ以上の元素を含む複雑な合金系を選択する必要があること、(2)STZの発生頻度を実験的に制御するためには組成変更が必要となることである。本計画研究の初年度では,申請者のこれまでのノウハウを活かしてこれらの問題を解消し,アナンケオンの構造解明に向けたモデル材料創製のため、2元系バルク金属ガラスの創製,および加工・熱処理による2元系バルク金属ガラスの組織制御の2つのサブテーマに取り組んだ。 単ロール法により作製した厚さ30マイクロメートル程度の金属ガラス薄帯を、高圧下で加工することによって、従来技術では不可能であったセンチメートルオーダーのサイズを持つ2元系バルク金属ガラスの創製に成功した。これにより、詳細な構造解析が可能なモデル材料の作製が実現し、本計画研究の目的達成に重要な成果である。また、得られたモデル材料に加工や熱処理を施すことにより、金属ガラスの塑性変形に重要な組織因子を制御できることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、本年度は以下の2つのサブテーマに主に取り組んだ。それぞれのサブテーマに関する進捗状況を以下に記述する。 (1)2元系バルク金属ガラスの創製 一般にバルク金属ガラスは3種類以上の元素を含む複雑な合金系であり、構造解析が困難である。一方で、2元系の金属ガラスはガラス形成能が低く、試料形態が粉末や薄膜などに限られるため、力学特性などの評価方法が限られる。本研究では、研究代表者らは有する加工技術を用いて2元系バルク金属ガラスの創製し、アナンケオンの構造を明らかにするためのモデル材料の作製を目的ととする。実験には、もっとも一般的な金属ガラスであるZr基合金を用い、Zr-Cu, Zr-Ni, Zr-Ptなどの種々の組成の2元系バルク金属ガラスの作製を行った。その結果、すべての組成においてガラス構造を保ったままバルク化することに成功し、モデル材料を作製する準備が完了した。 (2)加工・熱処理による2元系バルク金属ガラスの組織制御 過去に報告されている、金属ガラスの弾塑性変形の制御方法は、組成の変更や、元素添加など、合金組成の変更を伴う方法がほとんどである。この場合、局所構造と変形挙動の比較は困難となる。そこで本研究では、(1)にて作製した2元系金属ガラスに加工・熱処理を用いて組成の変更することなく、組織の変更を試みた。加工を施した2元系金属ガラスの熱分析を行った結果、塑性変形に重要とされるβ緩和の顕在化(組織変化)が認められた。また小角散乱実験により加工後もアモルファス構造を保っていることを確認している。 以上の通り、本年度は計画研究のモデル試料の作製およびその組織制御を注力し、順調に進行した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、本年度の研究に得られたモデル試料(2元系バルク金属ガラス)を用い、アナンケオンの活性化挙動が異なる試料の作製を行う。アナンケオンの活性化挙動は、加工・熱処理を活用することで制御可能であることは、代表者のこれまでの研究により明らかにしている。アナンケオンの活性化挙動は、上述の通り熱分析によって検出される構造緩和と密接な関係があると指摘されている。本研究では、熱分析により得られる構造緩和ピークを解析することによって、構造緩和の活性化パラメータ(頻度因子、活性化エネルギー)を定量的に評価し、組織制御した金属ガラスの変形特性を構造緩和の観点から明らかにする。 また、組織制御によりアナンケオンの活性化挙動や構造緩和挙動を変化させた試料のマクロな変形挙動を、引張試験およびナノインデンテーション試験により評価し、変形との関連性を評価する。特に引張試験においては、ひずみ速度や雰囲気温度を変化させた試験を行うことで、塑性変形の活性化体積を定量的に評価可能であり、得られた活性化パラメータを構造緩和挙動と対比することで、加工・熱処理によって変化した構造緩和挙動とマクロな変形挙動の関連性を考察することが可能である。 組織制御した金属ガラスの構造を原子レベルで明らかにするために、放射光を用いたX線散乱実験により構造解析を実施する。構造解析は、無応力下における構造解析に加え、応力負荷中における散乱実験を行い、散乱強度を2次元検出器で測定することによって、変形中の構造変化を明らかにすることが可能である。変形による構造変化を、シミュレーションを担当する計画研究班の結果と相互に比較することによって、アナンケオンの活性化に寄与する原子構造の解明を試みる。
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