研究領域 | 微生物が動く意味~レーウェンフックを超えた微生物行動学の創生~ |
研究課題/領域番号 |
22H05067
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研究種目 |
学術変革領域研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
和田 浩史 立命館大学, 理工学部, 教授 (50456753)
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研究分担者 |
村山 能宏 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60334249)
阿部 真人 同志社大学, 文化情報学部, 助教 (60758027)
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研究期間 (年度) |
2022-05-20 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
20,280千円 (直接経費: 15,600千円、間接経費: 4,680千円)
2024年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
2023年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
2022年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
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キーワード | 弾性フィラメント / 細菌のメカニクス / らせんの巻きつき転移 / 物理モデル実験 / まきつき転移 / マクロ物理実験 / バイオメカニクス / ドリル戦車 |
研究開始時の研究の概要 |
微生物の動きは多彩で巧妙である。近年、いくつかのクラスの共生細菌・病原性細菌に「ドリル戦車」モードと我々が名付ける、新しいべん毛運動様式が発見された。ドリル戦車運動モードは、菌体へのべん毛の巻きつき転移とそれに引き続くドリル的らせん運動、からなる。本計画研究では、その力学的仕組みを理論モデルとマクロ物理実験モデルを組み合わせて解明する。
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研究実績の概要 |
共生(および感染性)細菌のなかには、べん毛を菌体に巻きつけて、狭い空間や非常に粘性が高く運動しづらい環境をドリルのように突き進むものがある。本研究の目的は、この新しい運動モードを実現する仕組みを物理的な手法を使って明らかにすることである。 22年度は、実験および理論の両面から研究を実施し、おもにふたつの成果をあげることができた。 ひとつめは、弾性力学的に厳密な数理モデルの構築とその計算機シミュレーションである。我々はしなやかに変形するべん毛を(らせん形状を持つ)弾性フィラメント、菌体を円筒状の剛体としてモデル化し、その複合構造およびべん毛モータによる駆動などのすべての重要な力学的要素を取り入れた計算力学モデルを構築した。特に、煩雑になりがちな種々の相互作用を誤りなく考慮するため、変分原理による定式化を行い、力学法則を厳密に満たすつり合い方程式を導出した。計算機シミュレーションによって、遊泳、まきつき転移、ドリル推進、など主な観測結果をすべて再現することができた。また、この計算から、べん毛基部にあるフックの剛性が細菌の運動にとって非常に重要であることが示唆された。次年度はこの点に注目してさらに研究を重ねていく。 ふたつめは、まきつき転移を再現するマクロ物理模型の作成とその実験計測である。初年度である22年度は(準備期間を経て)ゼロから実験系を立ち上げ、まきつき転移を再現するところまで実験系を構築することができた。さらに、三次元の形状トラッキングを実施するシステムを構築し、べん毛のらせん形状がどのような変形を経て巻きつきに至るか、その時間発展を詳細に追跡できるようになってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
22年度の研究は概ね、研究計画に沿って実施し、およそ期待通りの進展を得ることができた。力学的な数理モデルを変分原理をもちいて定式化し、先行研究では扱い方にばらつきのあったモーター駆動の記述方法など、これまでに明瞭に理解されていなかった理論的な議論をより厳密なものにすることができた。詳細な計算機シミュレーションから、フックの剛性が従来考えられていた程度に小さい場合には、まきつきを「解く」転移がうまく行えないことを発見した。このことは、フックの剛性が運動と連動して調整されていることを示唆している。この結果は、関連する他グループの研究とも整合的であり、近年、とくに注目を集めている。 マクロ実験では、ゼロから実験系を構築し、べん毛のデザインや作成など、基本的なセットアップに関して試行錯誤を重ねてきた。その結果、ベースとなる実験系は完成し、さまざまな計測を行える段階まで進めることができた。一方、まきつき転移におけるフック剛性の影響を調べるため、柔らく大きく屈曲しつつモーターのトルクをうまくべん毛へ手伝達できるメカニカルジョイントを作成し、これを実験系に組み込む必要がある。しかし、これは当初から予測していたとおり、技術的にもやや難しく、まだ実現に至ってない。23年度はこの問題にまずは取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
23年度は、22年度に得られた成果をもとにして、大きく分けて次の4つの課題に取り組んでいく。(1)力学的な数理モデルとシミュレーションによる運動の仕組みの解明:まず初年度の成果を出版する必要がある。つぎにモデルのパラメータ(すべて実験的に測定済みまたは測定可能)を系統的に変化させ、シミュレーションを実施する。幅広いパラメータ空間においてどのような運動がありうるかを探索し、A01班の顕微鏡観測と計算結果の定量的な比較・検証を実施する。(2)マクロ物理実験:べん毛基部にあるフックを模したメカニカルジョイントの作成およびそれを組み込んだ実験系の構築に(昨年度から引き続き)取り組む。また、モデルべん毛の3次元形状変化のトラッキングの精度の改善に取り組む。(3)ドリル運動を示すバクテリア型のソフトロボットの作成:3年間の計画の中でぜひ取り組みたいと考えているテーマであるので、本年度からこれに着手する。マクロ実験としてだけでなく、本領域のアウトリーチ活動にも貢献すると考えている。まずは(2)のべん毛のマクロ実験から得た知見をもとにしてロボット全体のデザインを検討していく。(4)実際の細菌のフックの剛性の測定と計算モデルによる検証:本年度から、研究分担者として村山准教授(東京農工大)が我々のA02班に参画した。村山氏は一分子計測の専門家であり、A02班(中根班)と協力して、まきつきを示す細菌のべん毛基部ににあるフックの剛性を顕微鏡下で計測する実験を実施する。また得られた結果を我々の理論モデルによる数値シミュレーションと比較し、巻きつき転移とドリル運動を可能にする細菌のメカニカルデザインを明らかにする研究を進める。
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