研究領域 | 動的溶液環境が制御する生体内自己凝縮過程の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
22H05088
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研究種目 |
学術変革領域研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
菅瀬 謙治 京都大学, 農学研究科, 教授 (00300822)
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研究期間 (年度) |
2022-05-20 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
23,920千円 (直接経費: 18,400千円、間接経費: 5,520千円)
2024年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
2023年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
2022年度: 6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
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キーワード | ATP / 非膜オルガネラ / アミロイド線維 / Rheo-NMR / 電場NMR / eMD / in-cell NMR / 膜なしオルガネラ |
研究開始時の研究の概要 |
生体内にはATPなど物質の濃度変動や物質を循環させる流れ、さらには神経細胞の活動電位などの動的な溶液環境の変化が存在する。近年、このような動的な溶液環境が膜なしオルガネラやアミロイド線維といったタンパク質の自己凝縮やその分散に関わることが分かってきた。しかし、これら過程の機構はよく分かっていない。そこで、本研究では試料に流れを発生できるRheo-NMR、電場を発生できる電場NMR、細胞内タンパク質を直接観察するin-cell NMRを用いて、動的溶液環境とタンパク質との相互作用および自己凝縮体の構造を原子レベルで解析し、動的溶液環境が駆動するタンパク質の自己凝集・分散機構を解明する。
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研究実績の概要 |
生体内にはATPなど物質の濃度変動や物質を循環させる流れ、さらには神経細胞の活動電位などの動的な溶液環境の変化が存在する。近年、このような動的な溶液環境が非膜オルガネラやアミロイド線維といったタンパク質の自己凝縮やその分散に関わることが分かってきた。しかし、これら過程の詳細な機構はよく分かっていない。そこで、本研究では試料に流れを発生できるRheo-NMR、電場を発生できる電場NMR、細胞内タンパク質を直接観察するin-cell NMRを用いて、動的溶液環境とタンパク質との相互作用および自己凝縮体の構造を原子レベルで解析し、動的溶液環境が駆動するタンパク質の自己凝縮・分散機構を解明する。 昨年度は、高感度高分解能 電場NMR装置をほぼ完成させ、電場中におけるαシヌクレインの高分解能NMRスペクトルの計測に成功した。また、電場存在下における分子動力学計算eMDを開発し、電場中におけるタンパク質(ユビキチン)・水和水・バルク水の振る舞いを明らかにした。さらに、Rheo-NMRを用いて希薄溶液中のαシヌクレインとポリエチレングリコールによって非膜オルガネラを形成させたαシヌクレインのアミロイド線維化を原子レベルかつリアルタイムに計測した。希薄溶液中ではαシヌクレインのC末端から凝縮し始めることや、非膜オルガネラから開始した場合は、非常に速くアミロイド線維化することなどを明らかにした。また、ATPとαシヌクレインの相互作用について、以前にαシヌクレイン側でこの相互作用を解析していたが、今回はATP側で解析した。その結果、塩基が一番強くαシヌクレインと相互作用し、ついでリボース、リン酸基の順の強さで結合することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、電場・電場・ATPの濃度変動がタンパク質の凝縮に及ぼす影響を解析することを目的としている。電場に関しては本研究では電場NMR装置の開発から進めており、昨年度は電場NMR装置がほぼ完成し、あとはNMRのパルスの影響で電場にノイズが入る問題を解決するだけの状況まで達している。すでに、電場存在下でαシヌクレインの高分解能NMRスペクトルも取得できる。電場存在下での分子動力学計算eMDも開発が済み、J Phys Chem Bで発表しており、電場に関する研究は順調に進んでいる。 流れについては、新型Rheo-NMR装置を完成させた。以前の装置ではNMR管とガラス棒の中心を合わせるのが非常に容易で(合っていないと測定データの再現性が低い)、しかも1ー4000 rpmと非常に広い速度域でガラス棒を回転できる。以前の装置では、420ー3000 rpm。とくに遅い方の回転速度は細胞内の流れを再現できる速度である。また、Rheo-NMRを用いてモノマー状態と非膜オルガネラを形成させた2つの異なる状態のαシヌクレインのアミロイド線維化をリアルタイムかつ原子レベルで計測することに成功した。両者の測定で、残基ごとの核形成速度などを決定することができた。流れに関する研究は予定通りに進んでいる。 ATPについては、まずは0~10 mMのATPを140 μM αシヌクレインに混ぜて並進拡散係数を計測した。1 mMの濃度でもATPはαシヌクレインに対して過剰量あるのだが、1 mM以降もATP濃度が高くなると並進拡散係数が小さくなることが計測された。すなわち、ATPは非常に弱くかつ複数分子がαシヌクレインと相互作用すると言える。他にもATPの各原子団とαシヌクレインとの相互作用の強さを定量化した。このATPの研究についても順調である。
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今後の研究の推進方策 |
電場NMRのノイズの問題については、電場をオフにしているときはNMR管内の電極が常にアースに接続されるようにするスイッチを電場NMR装置に組み込む。すでにこのスイッチは製作が済んでおり、スイッチのオンとオフのタイミングを最適化することによって装置全体が完成する予定である。装置が完成すれば、電場中におけるαシヌクレインの凝縮過程(過去に神経細胞と同等の電場中でαシヌクレインが凝縮することを分子レベルで観測した報告がある)を原子レベルかつリアルタイム計測し、電場によってαシヌクレインが凝縮するメカニズムを明らかにする。さらに、電場に対するαシヌクレインの配向についても計測する。またeMDは、昨年、球状タンパク質のユビキチンを対象としてその方法論の開発を行ったが、今年度は天然変性タンパク質であるαシヌクレインの計算を行う。電場NMRとeMDの両者でαシヌクレインを解析することによって、電場中におけるαシヌクレインの振る舞いを詳細に明らかにする。 流れについては、出血による血流の流れの変化を感じて構造変化し、凝縮するvWFを対象として、流れによってvWFが構造変化するメカニズムを明らかにする。すでにvWFの発現系は確立しており、Rheo-NMR測定も開始している。本研究ではとくに流れによって変化するvWFの構造安定性を原子レベルで解析する。 ATPについては、アデニン環の8位にアジド基がついたATPアナログを用いてαシヌクレインとの相互作用解析を行う。アジド基にはラジカルがあるため、光照射によってクロスリンクできる。ゆえにMSを用いてこのATPアナログがαシヌクレインのどこに結合するのかを明らかにする。また、ラジカルは常磁性効果もあるため、αシヌクレインのシグナル強度の減少からATPがαシヌクレインのどの領域に近づきやすいかを明らかにする。
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