研究領域 | 動的溶液環境が制御する生体内自己凝縮過程の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
22H05089
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研究種目 |
学術変革領域研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉田 紀生 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (10390650)
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研究分担者 |
山口 毅 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (80345917)
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研究期間 (年度) |
2022-05-20 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
23,920千円 (直接経費: 18,400千円、間接経費: 5,520千円)
2024年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
2023年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
2022年度: 6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
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キーワード | 3D-RISM / 高分子RISM / 天然変性タンパク質 / 自己凝集 / ATP / ハイブリッドモンテカルロ法 / 相分離 / 動的密度汎関数法 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究領域の関山・菅瀬らのこれまでの実験から、動的溶液環境が天然変性タンパク質と直接相互作用することでその自己凝縮過程を制御するという仮説を得た。そこで本研究では、液体の統計力学理論をもとに、生体分子の動的溶媒分布を記述できる新理論を開発し、天然変性タンパク質の自己凝縮過程における動的溶液環境の影響を原子レベルで明らかにする。天然変性タンパク質を対象とし、組成・濃度・流れなどの動的溶液環境因子を試すことで、自己凝縮の要因、相互作用、熱力学的変化を予測し、自己凝縮モデルを構築する。このモデルを計画研究班で共有し、天然変性タンパク質の自己凝縮過程を制御する因子を同定する。
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研究実績の概要 |
本年度は、溶媒和理論と分子シミュレーションの連携手法の開発を行った。溶媒和理論である3D-RISM理論に対応するハミルトニアンによる効率的なタンパク質構造サンプリング手法を、ハイブリッドモンテカルロの枠組みで構築した。この方法のポリペプチドへ適用を行った。3D-RISM理論に基づくタンパク質構造サンプリング手法としてはこれまでにMD/3D-RISM法が提案されているが、MDの10ステップに1回程度の3D-RISM計算を必要とするため、長時間のサンプリングは不可能であった。これは3D-RISM計算が律速となるためである。本研究で提案した手法は、ハイブリッドモンテカルロ法の枠組みを利用することで、3D-RISM計算を行う間隔を大きく広げることが可能となり、長時間のサンプリングを可能とした。 また、ATPと天然変性タンパク質の相互作用に関する研究を実施した。これまでにATPとタンパク質の相互作用の計算科学的解析において、相互作用の過剰評価が問題とされてきた。本研究では水分子モデルの影響を検討し、適切な水分子モデルの選択により、ATPタンパク質結合について実験を定性的に再現できることを示した。 さらに、RISM型積分方程式とGibbs-Duhem式を結合することによって、混合液体の密度と混合ギブズエネルギーを自己無撞着に決定する手法を開発した。本手法を水―アルコール混合液体に適用し、アルコールの疎水性の増加と共に混合が熱力学的に不安定化して液液相分離に至る実験的傾向を再現することに成功した。また、RISM理論の誘電率補正であるDStell法を混合溶媒に拡張し、先述の手法と組み合わせることで水―アルコール―塩化ナトリウム三成分系の理論計算を行い、塩添加による液液相分離の誘起も理論的に再現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3D-RISMと分子シミュレーションを組み合わせハイブリッドモンテカルロ法の枠組みで3D-RISMハミルトニアンにもとづくタンパク質構造の効率的なサンプリングを可能とする手法の開発が順調に進んでいる。ポリペプチドの構造サンプリングの適用では、従来法に比べ飛躍的なサンプリング効率向上が見込める。また、RISM理論にもとづく液液相分離理論の開発及びその応用も行った。RISM型積分方程式理論とGibbs-Duhem式の結合により、液液相分離を記述することを実現した。さらに、本研究の中心課題の一つであるATP・タンパク質相互作用解析に対して、タンパク質・ATPの力場パラメータを変更することなく適切な水分子モデルを選ぶことで、定性的に正しい挙動を観測することが可能であることを示した。この他にも、領域内の共同研究が順調に進んでいる。特にタンパク質凝集と天然変性タンパク質の水和構造についての解析を行い、成果をあげることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで開発したタンパク質構造サンプリング手法を用いて天然変性タンパク質の構造変化・凝集に溶液が及ぼす影響を調査する。ATP濃度変化がATP凝集およびATP-タンパク質相互作用に及ぼす影響を調査する。ATPの自己凝集についてのATP濃度依存性を検討する。分子シミュレーションおよび3D-RISM理論によるATP凝集体の構造サンプリングおよび熱力学的安定性を検討する。ATPと天然変性タンパク質間の相互作用に対してATP濃度がどのように影響するかの調査を行う。前年度調査を行った水分子モデルについてもさらに検討を加える。 これまで開発した相平衡の理論を高分子RISMへ適用し、高分子の液液相分離を調査する。まずは高分子RISMに適用可能な高分子鎖の粗視化モデルについて検討する。一般に用いられている粗視化モデルによるテスト計算を行いその物性値から適切なモデルを選択する。そのモデルを元に水溶液中の高分子鎖の相分離現象の解析を行う。
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