研究領域 | 動的溶液環境が制御する生体内自己凝縮過程の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
22H05091
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研究種目 |
学術変革領域研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅲ)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 秀樹 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (50435666)
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研究期間 (年度) |
2022-05-20 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
24,050千円 (直接経費: 18,500千円、間接経費: 5,550千円)
2024年度: 9,360千円 (直接経費: 7,200千円、間接経費: 2,160千円)
2023年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
2022年度: 7,540千円 (直接経費: 5,800千円、間接経費: 1,740千円)
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キーワード | 合成生物学 / 光操作 / ケミカルバイオロジー / 天然変性タンパク質 / 自己凝縮過程 / 相分離 / 線維化 / 蛍光イメージング |
研究開始時の研究の概要 |
特定の安定な構造を持たない天然変性タンパク質が、溶液環境に応答して自己凝縮し、神経変性疾患などに関係するさまざまば細胞内構造体を形成することがわかってきた。しかし先行研究の大半は、試験管内の実験のみに基づき、実際に生きた細胞内で何がおこっているかは未解明である。そこで本研究提案では、生きた細胞内のさまざまな環境要因が自己凝縮過程に与える影響を、生きた細胞内で直接検証する。
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研究実績の概要 |
細胞内で人工の凝縮体をつくる技術は申請者の先行研究を含め複数報告されていたが、凝縮体をこわす技術の報告はごく少数であり、特に内在性の凝縮体をこわす技術はほとんど存在しなかった。本年度は、細胞内で実際に形成される凝縮体をこわす技術ActuAtorの開発に成功、論文を発表した(Cell Rep. 2023)。 並行して、前年度に動作確認した生きた細胞内のタンパク質凝縮を操作する技術、Cry2と5Fmを用いて、領域内共通の標的タンパク質であるα-シヌクレインおよびTIA-1を生きた細胞内で凝縮させることができるか検証した。まずα-シヌクレインにCry2の変異体であるCry2oligを融合したプラスミドを用いて、光刺激によってα-シヌクレインの凝縮体が形成されることを確認した。さらに、ホモ二量体を形成するFKBP変異体Fmをタンデムに5つ連結した5Fmをα-シヌクレインおよびTIA-1にそれぞれ融合し、細胞に強制発現させる実験を行なった。2つのタンパク質とも、生きた細胞内に巨視的な凝縮体を形成し、その形態は5Fmのみで形成される球状のものとは大きく異なっていた。 Cry2の実験などで用いる青色光刺激は、従来広く使われてきたFRETバイオセンサーに用いられるCFP, YFP由来の蛍光タンパク質の励起波長と重なるため、光刺激実験とFRETバイオセンサー計測を同時に行うことができない。この欠点を克服するため、ATPのバイオセンサーATeamを長波超化する研究を開始した。蛍光波長の長い蛍光タンパク質を用いることで、細胞のATP合成を阻害した際のATP濃度低下を検出することに成功した。現在さらなる改良を行い、青色光刺激と同時に細胞内のATP濃度プロファイルを測定する実験系の構築を目指している。 また、低酸素培養チャンバーを購入し、低酸素環境での細胞観察および解析が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化合物や光刺激により、生きた細胞内に形成されたタンパク質-核酸の凝縮体であるストレス顆粒を刺激依存的に離散させるツールActuAtorの開発に成功し、論文発表することができた。本技術は、凝縮課程の操作技術として先進的なだけに止まらず、生きた細胞内で物理的力を発生させて細胞内小器官などを変形・運動させる極めてユニークな技術であり、生きた細胞内で働くマイクロマシンの駆動など、幅広い分野に応用可能な重要技術と言える。 また、領域内共通の標的タンパク質であるα-シヌクレインやTIA-1について、生きた細胞内で人工的に凝縮体をつくらせることに成功した。今後の領域内共同研究の大きな進展が期待される状況であり、概ね順調に計画が進行している。 細胞内の溶液環境に大きく影響する条件の代表例として、低酸素条件での詳細な生化学的解析を行うため低酸素で細胞培養可能なクローズドチャンバーを導入し、低酸素環境下でのイメージングや生化学解析が可能となった。 また、ATP濃度の測定に使うFRETバイオセンサーの長波長化に取り組み、一定の成果を上げることができた。もう少し最適化の必要があるが、次年度には低酸素環境やATP濃度低下が細胞内のタンパク質凝縮体の形態やダイナミクス、線維化に及ぼす影響の解析に晋準備が整いつつあり、今後の研究成果につながる基礎的成果は十分に得られている。
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今後の研究の推進方策 |
生きた細胞内で標的タンパク質の凝縮体を人工的につくるツール、Cry2および5Fmを用いて、領域内の共通標的タンパク質であるα-シヌクレインおよびTIA-1の線維化を引き起こす細胞内の溶液環境要因の同定に挑む。ATP濃度の変化や低酸素環境、細胞質中での剪断力など、溶液環境要因の擾乱実験を行い、人工の凝縮体にどのような変化が起こるかを観察する。 上記の実験を可能にするため、ATP濃度の、FRETバイオセンサーの長波長化に引き続き取り組み、青色光刺激との同時計測を可能にする。光操作実験が一般的になりつつある現状で、同時計測の可能なFRET蛍光分子ペアを同定することには大きな意義があり、他のバイオセンサーへの応用も期待できる重要な技術開発だと考えている。 動的溶液環境への擾乱だけでは線維化につながる現象が観察されない可能性も十分に考えられる。タンパク質の線維化を生きた細胞内でさらに観察しやすくするため、α-シヌクレインやTIA-1の線維化に影響を与える既知の変異を導入した実験系を用いた実験を行う。溶液環境擾乱と変異の導入を組み合わせ、天然変性タンパク質の相分離・線維化という現象を生きた細胞の中で直接観察できる実験系の構築を目指す。
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