研究領域 | 脳多元自発活動の創発と遷移による脳のデザインビルド |
研究課題/領域番号 |
22H05095
|
研究種目 |
学術変革領域研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅳ)
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
早川 隆 日本大学, 医学部, 准教授 (30756789)
|
研究期間 (年度) |
2022-05-20 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
21,710千円 (直接経費: 16,700千円、間接経費: 5,010千円)
2024年度: 6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 8,710千円 (直接経費: 6,700千円、間接経費: 2,010千円)
2022年度: 6,760千円 (直接経費: 5,200千円、間接経費: 1,560千円)
|
キーワード | 神経回路学習 / 統計力学 / 感覚皮質 / 力学系 / 機械学習 / ニューラルネットワーク / 発達初期神経回路 / 学習理論 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題では、哺乳類の小脳・大脳神経回路の発達初期の状態が後の学習に与える影響について、神経回路の理論・数値解析を行う研究代表者が、神経活動計測を行う実験研究者と数学者との共同研究を通して答えていく。神経回路が学習する様子を数値シミュレーションによって記述し、初期の神経回路の状態が学習過程にどのように影響するかを調べ、動物脳での検証実験・数学者と共同での数理解析を経て理解を深めていく。
|
研究実績の概要 |
令和4年度は、まず共同研究者の実験データに関する分析及び議論と文献の調査を行ったところ、発達初期の大脳皮質神経回路の多元的活動状態の遷移の背後にある神経回路の変化の実態について、まだ数値シミュレーションによっていくつかの仮説を比較検討する必要があるものの、主に1つの有力な仮説が絞り込まれてきた。そこでこれを検証する目的で、現時点で発達初期の大脳皮質回路の数理モデルの候補として挙げられる複数の神経回路モデルを高速にシミュレーションするための、プロトタイプとなる神経回路シミュレーターを完成させた。指定する神経回路の微細構造の詳細や、シナプス結合強度、ニューロンの電気的特性などに応じて、様々な神経回路の活動を数値的にシミュレーションできるようになった。さらにこのシミュレーションされた神経回路モデルの活動パターンを理論的に理解するための統計力学理論を、研究代表者の以前の理論を発展させて作成することに成功した。そしてこの理論を用いて、大脳皮質活動パターンと神経回路の確率的情報処理の内容を関係付ける有望な仮説を打ち立てることに成功した。具体的には神経回路の部分集団の同期活動が確率的に変化していく様子を我々の理論によって記述することができ、このダイナミクスが脳の確率的な情報表現を与えていると解釈すれば先行研究の実験結果をうまく説明できることを発見した。さらにこの仮説に基づいて発達初期の多元的な自発活動パターンの遷移を説明するために、部分集団が多元的同期活動を示す神経回路が感覚入力に基づいて学習を行う場合の回路活動の数値シミュレーターも作成した。すると我々の仮説が正しければ発達後の大脳皮質は感覚入力の変化に非常に高速に適応できるという計算結果を得て、上記に述べた他の結果と合わせて研究会での発表を行った。これらの結果をまとめて論文発表を行うべく準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は研究実施計画として、発達初期の大脳皮質自発神経活動の数理モデルのプロトタイプを作成する計画を策定していた。具体的には、共同研究者の上阪・水野との実験データに関する議論・分析を通じて、彼らが観察していた発達初期における同期活動から非同期活動への遷移を再現できる神経回路モデルのプロトタイプを作成して、実験的に調べられたシナプス結合強度や神経細胞の電気的性質を表すモデルパラメータを変化させることで現象が再現できるかどうかを確かめる数値シミュレーションを開始する予定であった。また同時にこのモデルに適用可能な統計力学理論及びモデルのシナプス結合が学習によって変化する場合の数値シミュレーターも準備する予定であった。またこれらに必要な大型計算機の準備と、次年度の計画を遂行するための博士研究員の募集を行う予定としていた。研究実績の概要に記載した内容と、滞りなく計算機環境を整備し適性の高い博士研究員を採用できた事実から、上記の目的は全て年度内に達成されたと言え、研究計画は順調であると結論付けられる。
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度は現在までの進捗に基づき、発達初期神経回路において同期活動から非同期活動の遷移が見られるという実験事実を再現する数理モデルを完成させることを目標とする。令和4年度に作成したプロトタイプシミュレーターに具体的なパラメータを設定してシミュレーションを行うことでこれを達成する。これまでの検討からは、神経回路の学習を再現するシミュレーションプログラムを様々な初期状態から実行し、その際の学習性能を調べ、学習が進むとともに実験的に観察される同期状態から非同期状態への遷移が見られるかどうかを調べることが、研究の中核をなすと考えている。令和4年の研究結果では、理論上はこのシミュレーションによって活動パターンの遷移と感覚情報処理の成熟の両方が再現できる見通しが得られているが、これまでのところは初期の回路状態を恣意的に設定してシミュレーションを行なっていたためまだ再現できていない。この理論的予想とシミュレーション結果のギャップを埋めるために、令和5年度は博士研究員と協力して大規模な数値シミュレーションを行い、学習が効率的に進み大脳皮質神経回路の発達を説明できるような初期条件を探究する。この初期条件依存性を調べることが本研究計画の大きな目標であり、発達初期の動物の多元自発脳活動の理解とリカレント神経回路の機械学習の効率化につながると考えられる。また、上記の大規模シミュレーションによって初期状態依存性の解明の糸口が見つかった時点から、それを実験的に検証する方法を数値シミュレーション及び共同研究者である実験生理学者との議論を通して模索する。また初期状態と学習性能を理論的に関係づける方法を共同研究者の数学者との議論を通して模索する。
|