研究領域 | 「学習物理学」の創成-機械学習と物理学の融合新領域による基礎物理学の変革 |
研究課題/領域番号 |
22H05118
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福嶋 健二 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60456754)
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研究分担者 |
船井 正太郎 (柴正太郎) 株式会社アラヤ(研究開発部), 研究開発部, チーフリサーチャー (40724993)
塩崎 謙 京都大学, 基礎物理学研究所, 助教 (70802940)
三角 樹弘 近畿大学, 理工学部, 准教授 (80715152)
広野 雄士 大阪大学, 大学院理学研究科, 助教 (50998903)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
118,300千円 (直接経費: 91,000千円、間接経費: 27,300千円)
2024年度: 23,790千円 (直接経費: 18,300千円、間接経費: 5,490千円)
2023年度: 23,270千円 (直接経費: 17,900千円、間接経費: 5,370千円)
2022年度: 23,140千円 (直接経費: 17,800千円、間接経費: 5,340千円)
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キーワード | トポロジー / 機械学習 / ニューラルネットワーク / 位相的データ解析 / 機械学習と物理学 / 位相幾何学的分類 / ゲージ場の量子論 / 拡散モデル / 中性子星 / 状態方程式 / トポロジカル不変量 / 固有値分布 |
研究開始時の研究の概要 |
学習とは、学習データの入力から出力までのプロセスを多数の学習パラメータで表現し、学習パラメータを変分によって最適化することである。学習のクォリティは大別すると2つの要素で決まっている。すなわち、過学習を避けつつより一般性のある関数空間を扱える表現と、ベクトル空間内で複雑な構造を持った学習データに対する適切な最適化である。 本研究では、表現に対するアプローチとしてゲージ場の理論の様々なテクニックを用い、最適化のための入出力データが内在するトポロジカルな特徴に着目することによって、両者に変革的な進歩をもたらすことを目指す。
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研究実績の概要 |
機械学習に対して理論物理学で知られているテクニックを適用することによって新しい手法を開発することを目的に研究を遂行した。研究は3つのアイデアをもとに展開している。 まず、これまでの我々の研究により発展させてきたニューラルネットワークの方法を中性子星の観測データに適用し、逆問題を効率的に解くことによって、圧力とエネルギーとの関係(状態方程式)を推定する試みを継続している。この方法はすでに一定の成功を収めているものの、不定性の評価に不満が残るほか、中性子星質量・半径の関数空間でガウシアンから大きくハズレた分布を示すようなデータを扱うことができない。これはシャピロ遅延やNICERの新しいデータを取り入れられないという深刻な問題を引き起こすため、この問題を克服するためにアルゴリズムの工夫を施し、パフォーマンスのテストを実行した。結果は良好であり論文原稿の執筆を続けている。 また、トポロジーを研究ツールに組み込むために、位相的データ解析(TDA)を応用した研究に取り組んできた。特に我々はトポロジー的なカレントの存在する物理系に注目し、その物理系におけるDirac演算子の固有値分布のパターンを系統的に調べた。その結果、いわゆるスキン効果と呼ばれる、固有値分布の境界条件への敏感な応答を確認することができた。現在は固有値分布に対してTDAを適用し、パーシステント・ダイアグラムを見ることによってトポロジー的な情報を抽出する手法のテストを試みている。 最後に、生成AI分野で有力な方法として確立している拡散モデルと、場の量子論の定式化とのアナロジーに注目して、拡散モデルの理論物理学による再解釈を施し、それによって得られる新しい知見に基づいた研究を展開している。また逆に場の量子論の数値シミュレーションに拡散モデルの方法を組み込む研究も継続しており数値テストを実行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
具体的な研究テーマの策定を終え、アイデアのテスト、数値実験による検証など、実行可能なプロジェクトに対して結果を蓄積して議論するステージへと順調に移行している。 研究を推進するための特任助教公募を行い、能力の面でも意欲の面でも非常に優れた人に着任してもらうことができた。また、半導体不足の中ではあったが、深層機械学習の数値計算を実行するためのGPU搭載コンピューターを性能と価格とを吟味して、極めてリーズナブルに導入することができた。セットアップには多少テクニカルな問題が生じたものの、着任したばかりの特任助教が早速活躍して、GPUマシンの性能を最大限に引き出すための設定を完了した。 このように、初年度は研究の体制作りが急務であったが、それは順調に進展していると判断することができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は具体的な成果を発表するために、結果を解釈しやすいように整理していくことが必要である。ここまで議論を積み重ねてきた3つのテーマのそれぞれについて、論文を準備している。 最も堅実なテーマともいえる中性子星の状態方程式の問題については、従来の結果と定量的な比較を実行する段階に入っており、特に音速の振る舞いが新しく取り入れたデータによってどのような変更を受けているのか研究をさらに深堀りしている。今年度は中性子星の状態方程式の解釈について、新たにコンフォーマリティの指標を導入したため、データ解析の立場からコンフォーマリティのより詳細な振る舞いに関して定量性を高めた結果を報告することを目指している。 トポロジー的な特徴量の抽出に関しては、現在はDirac演算子固有値分布を調べているのだが、考えている物理系にはトポロジー的に保護されたカレントが存在しているものの、離散化されたトポロジカル不変量がない。今後は離散化されたトポロジカル不変量の存在する系を慎重に選び、その系に対してより直感的に明らかな形でトポロジー的な情報を抜き出す数値テストを実行していく予定である。 最後に、場の量子論に関しては、確率的量子化と呼ばれる方法に拡散モデルのテクニックをうまく応用して、数値計算の安定性を高める工夫を展開していく。とりわけ符号問題が発生してしまう状況では複素化された変数が非物理的な虚数方向へと不安定性を示してしまう問題が知られており、拡散模型で頻繁に用いられている理論形式の等価な書き換えをうまく使うことによって、この問題を回避できるはずだと理論予想している。今後はこのコンジェクチャに基づいた数値実験を実施し、新しい量子化の方法の模索へと研究を広げていく予定である。
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