計画研究
学術変革領域研究(A)
従来の有機合成的手法では調整が困難であった環状ペプチドを、生体触媒や微生物細胞を利用して効率的に合成することが可能になれば、医薬品原料の製造コストの大幅な削減につながるだけでなく、製造プロセスを環境調和型へと転換することができる。また従来探索困難であったケミカルスペースを拡充することで、創薬リード化合物の発見にもつながる。本研究によって中分子医薬品リードの修飾戦略の基盤技術を提供する。
ペプチドは中分子サイズの骨格を比較的容易に合成できることから、中分子医薬品シーズの中心的存在である。ペプチドの中でもサイクロスポリン等の環状ペプチドは、生体内の分解酵素による消化を免れ、特有な3次元構造により膜透過性や標的分子への特異的作用が向上するため、重要な修飾ペプチド群である。しかしながら、有機合成による鎖状ペプチドの大環状化は、保護基の必要性、C末端残基の異性化や、分子間縮合を避けるために希釈条件を必要とする点など克服すべき問題を抱えている。一方、天然物の生合成では、各ペプチドに特化したペプチド環化酵素が、保護基を用いることなく位置選択的な環化を効率よく触媒する。このため、基質選択性の寛容なペプチド環化酵素の発見・開発は、大量の有機溶媒を必要としない環境調和型の次世代型物質生産技術を提示するとともに、環状ペプチドの新たな効率的合成法の確立に直結する。我々はこれまで、放線菌の生産する非リボソーム型環状ペプチドの生合成に関わる全く新しいペプチド環化酵素SurEを発見し、これを新規ペプチド環化酵素ファミリーPBP-type TEとして位置づけてきた。SurEは基質選択性の寛容なペプチド環化酵素であり、生体触媒として高いポテンシャルを有する一方、基質末端の残基を厳密に認識するため、ペプチド環化触媒としての適用可能範囲は限定的であった。そこで本酵素の触媒利用範囲を拡張するために、基質選択性の発現メカニズムの分子基盤を明らかし、選択性を自在にコントロールするための基礎的知見を獲得する。これに基づき基質選択性・反応選択性を拡張した改良型生体触媒を設計し、環状ペプチドの新しい効率合成法を開発する。
2: おおむね順調に進展している
従来、非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)やⅠ型ポリケチド合成酵素(PKS)のTEドメインの機能解析では、キャリアータンパク(PCPあるいはACP)上に結合した基質を模倣するために、SNAC(N-acetylcysteamine)チオエステルが利用されてきた。しかし、鎖状ペプチドのC末端へSNACを液相で縮合すると、C末端残基の異性化を伴い、得られる生成物はエピマー混合物となる。そのため、ジアステレオマー混合物の煩雑な精製が必須となり、多数の基質の調製は容易ではない。そこで、我々はエステル基質を簡便かつ迅速に高収率で供給できる合成法と、NRPS-TEによる環化反応を組み合わせた、環状ペプチドの効率的な化学-酵素合成法の確立を目指した。先行研究においてSurEはSNACチオエステルのみならず、メチルエステルも基質として受け入れ、低効率ながらも環化反応を触媒できることを見出していた4。この知見に基づき、SNACチオエステルの代わりとなる脱離基をエステルとして導入することを着想した。そこで、安価に入手可能なエチレングリコール(EG)と固相合成法を組み合わせた新たな基質合成法を検討した。まず、EGを樹脂上に担持させたのち、縮合剤によるC末端残基のエステル化を行った。その後、固相合成法でペプチド鎖を伸長し、強酸による樹脂からの切り出しと側鎖の脱保護を行うことでEGエステル基質を得た。さらに得られたEGエステル基質はSurEによって受け入れられ、効率的に環化が進行した。本手法ではC末端残基の異性化が進行しないため、基質は高収率(70-90%)で得られる。そのため、HPLCの精製を必要とせず、直接酵素による環化反応を行うことが可能となり、環状ペプチドの効率的な化学-酵素合成法を確立した。
昨年度の研究成果として環化酵素の基質を簡便に合成する方法を確立した。さらに得られた基質がPBP-type TEの基質として受け入れられることが明らかになった。本手法は環状ペプチドの新たな酵素化学合成であるとともに、PBP-type TEの機能解析を目的とした基質調製の効率化を実現した。PBP-type TEのホモログの大部分は未だ機能未解明であるため、引き続きホモログの機能解析を進める。さらにホモログ酵素の機能に基づき、SurEに変異を導入し、基質選択性の拡張と、機能性の向上を目指す。さらに環化酵素以外のペプチド修飾酵素についても機能解析を試みる。すでに申請者のグループでは環状ペプチドに含まれるアルギニン残基へのプレニル基転移酵素を見出しており、有用性の検証を進める。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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