| 研究領域 | 生体反応の集積・予知・創出を基盤としたシステム生物合成科学 |
| 研究課題/領域番号 |
22H05129
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| 研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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| 配分区分 | 補助金 |
| 審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅱ)
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| 研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
荘司 長三 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (90379587)
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| 研究分担者 |
當舎 武彦 兵庫県立大学, 理学研究科, 教授 (00548993)
有安 真也 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (50586998)
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| 研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2027-03-31
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| 研究課題ステータス |
交付 (2025年度)
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| 配分額 *注記 |
82,030千円 (直接経費: 63,100千円、間接経費: 18,930千円)
2026年度: 11,700千円 (直接経費: 9,000千円、間接経費: 2,700千円)
2025年度: 11,570千円 (直接経費: 8,900千円、間接経費: 2,670千円)
2024年度: 11,570千円 (直接経費: 8,900千円、間接経費: 2,670千円)
2023年度: 11,050千円 (直接経費: 8,500千円、間接経費: 2,550千円)
2022年度: 36,140千円 (直接経費: 27,800千円、間接経費: 8,340千円)
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| キーワード | シトクロムP450 / デコイ分子 / 結晶構造解析 / 構造活性相関 / 機会学習 / 構造予測 / ドッキングシュミレーション / 進化分子工学 / 水酸化反応 / 擬似基質 / 高難度物質変換 / 菌体内反応 / 機械学習 / ドッキングシミュレーション |
| 研究開始時の研究の概要 |
シトクロムP450の中でも最も活性が高いことで知られる長鎖脂肪酸水酸化酵素のP450BM3に,長鎖脂肪酸に構造を似せた「デコイ分子」を作用させることで,不活性な有機基質を自在に水酸化可能な強力なバイオ触媒系を創出するとともに,機械学習による構造活性相関の解明と予知を実現する.本申請課題では,新規デコイ分子とP450BM3変異体を開発するとともに,全自動酵素活性評価システムや全自動微結晶構造解析システムと連携させることにより、デコイ分子の結合を含めたP450BM3の構造活性相関の解明と予知を実現する.
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| 研究実績の概要 |
シトクロムP450(P450)の中でも特に高い触媒活性を示すことで知られる巨大菌由来のP450BM3は、工業的応用や医薬品合成において有望なバイオ触媒である。本研究では、P450BM3を基盤とし、化学的に不活性な有機基質を選択的かつ効率的に水酸化できる革新的バイオ触媒系の構築を目指すとともに、機械学習を活用した構造活性相関の定量的解析および活性予測の実現に取り組んだ。微生物のホルモンの一種であるアシルホモセリンラクトンをデコイ分子として利用可能なP450BM3変異体の構築を進め、ベンゼンなどの化学的に不活性な化合物に対して高い水酸化活性を示す変異体を取得した。これらの変異体は、進化分子工学的手法により系統的に改変され、アシルホモセリンラクトンの存在下でのみ選択的に高いベンゼン水酸化活性を発揮する、従来にない特異な触媒系として確立された。得られた変異体は、従来のデコイ分子を用いた反応系と比較して優れた反応活性を示し、デコイ分子による酵素活性の精密な制御と進化分子工学との融合により、新たなバイオ触媒創出の可能性を拓いた。また、現段階でも活性および基質選択性にはさらなる改良の余地があることが示され、今後の高性能化に向けた技術的基盤を提供するものとなった。さらに、既に開発した結晶化促進型デコイ分子を活用し、短時間で高品質な微小結晶を大量に得るプロトコルを確立した。この技術を応用してXFEL(X線自由電子レーザー)による時間分解結晶構造解析を実施し、酵素反応の初期過程を原子レベルで動的に観察することに成功した。従来は休止状態のP450BM3に基質を結合させた静的構造しか観測できなかったが、本研究では酸素付加型(活性中間体状態)のP450BM3の結晶構造解析に初めて成功し、基質が従来とは大きく異なる配置・配向で活性部位に取り込まれることを明らかにした。
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| 現在までの達成度 |
現在までの達成度
2: おおむね順調に進展している
理由
酵素の高度な基質特異性を人為的に改変する新たな手法として、基質アナログ(デコイ分子)を用いて酵素反応場を再構築する「基質誤認識システム(デコイ法)」を開発してきた。本研究では、細菌が分泌する情報伝達分子C10-HSLに着目し、これを天然由来のデコイ分子と見なしてP450BM3に作用させ、非天然基質であるベンゼンの水酸化を誘導する人工反応系を構築した。 第1世代変異体I-17G2はエラープローンPCRにより作製され、C10-HSL存在下で野生型の約1.5倍の活性を示した。結晶構造情報に基づき選定した17残基に対して飽和変異導入を行い、第2世代から第4世代にかけて活性は段階的に向上した。特に第4世代IV-18A12では、最大のフェノール生成量が記録された。さらに最終第5世代V-19A14は、GC収率46%、反応回転数毎分475という高効率を達成した。 C10-HSL非存在下で活性が低下したことから、本変異体においてC10-HSLが最適化されていることが示唆された。X線結晶構造解析の結果、C10-HSLのラクトン環酸素がGln73、Val74、Val25などの変異残基と水素結合を形成し、その立体配置が基質の固定および反応空間の形成に極めて重要であることが明らかとなった。 本研究は、デコイ分子を利用した手法と進化分子工学を融合させることで、菌体ホルモンをデコイ分子として機能させる可能性を示すとともに、ベンゼン水酸化において過去最高の活性を実現した点で、意義深い成果である。
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| 今後の研究の推進方策 |
P450BM3に基質アナログであるデコイ分子を作用させることで、遺伝子操作を行うことなく基質特異性を改変し、メタンからメタノールへの水酸化反応を実現した。本手法は、バイオ触媒による温室効果ガスの資源化を可能にし、酵素工学や合成生物学、環境工学分野において高い波及効果が期待される。現行の反応系においては酸化活性が依然として十分とは言えず、今後は高活性化を目的として、P450BM3変異体と新規デコイ分子との最適な組み合わせを探索する。アシルホモセリンラクトンをデコイ分子として利用可能な変異体の取得に成功しており、今後は進化分子工学とハイスループットスクリーニングを用いて、新規デコイ分子存在下で高い水酸化活性を持つ変異体の選抜を進める。また、ヘム鉄をマンガンに置換した人工金属P450BM3について、活性中心の変更による活性向上を検証し、マンガンに最適化を図る。さらに、活性が高いデコイ分子の予測を継続し、化合物ライブラリーから構造情報のみを用いて有望な候補を抽出する機械学習ベースの予測システムを開発する。将来的には他のP450酵素群への展開および産業的応用も視野に入れて研究を進める。
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